第11話ヒロインはみんな俺を嫌ってる? 其の6
「イセカイ! 今日という今日は、校則違反の罰をしっかり受けてもらうわよ」
そんなふうに俺を追い立ててくるのは、この学校の風鬼委員長である、モラリティちゃんだ。やれ校則を守れ、やれ校則に反していると、口うるさいことこの上ないカタブツ委員長である。
その髪の色は、自分には何一つ後ろ暗いことはありませんと言うことを主張しているように真っ白で、けがれを何一つ知らない純白のロングストレートだ。
服装も風鬼委員長らしくきっちりしているが、そのきっちりした服装でもかくしきれない部分が一つある。おっぱいである。別に特別大きいわけではないが、いつも身だしなみをピシッとしているモラリティちゃんなので、その形の良いなおっぱいが、かえって強調されてしまい、目立つ結果となってしまっている。
そんなモラリティちゃんが、目をつり上げて俺に迫ってくる。
「イセカイ! あなたって人は、学業は優秀なのに、どうしてこう生活態度ははしたないの。武道はお互い立った状態で正々堂々とするのがこの国のならわしなのに、寝っ転がってくんずほぐれつする野蛮な風習を持ち込んだり、得体の知れない料理を作り出してこの国の伝統を台無しにしたり、歌をただの安直な言葉の並びにしたり、あやしげな民間療法を医学と称したり……」
と言った具合に、俺のこの異世界での行動をひとつひとつ並べ上げてくる。よくもまあ、ここまで俺の行動を調べ上げるものだ。感心するくらいである。
「心外だなあ、モラリティさん。俺はただ部活動に取り組んだり、文化活動にいそしんだり、ボランティアにせいを出しているだけなのに。それが校則違反になると言うの?」
俺がそう言い返すと、モラリティちゃんはますます顔を真っ赤にして怒ってくるのだった。
「うるさい、屁理屈言うんじゃないわよ。風鬼委員長のこの私に逆らうって言うの? この世界に来たばっかりのよそ者のあんたが」
そんなモラリティちゃんの言葉を、俺はまぜっ返すのである。
「へえ、よそ者の俺は、風鬼委員長のモラリティ様に逆らっちゃいけないんですか。つまりこう言うことですか。俺とモラリティ様は同じ人間なのに、モラリティ様がこの世界に長くいた、その一点のために俺はモラリティ様に従わなくてはならないと」
そう言う俺に、モラリティちゃんはたじろぎながら答えるのだ。
「そうよ、新入りなんだから目立つことはせずにおとなしくしていなさいよ」
そのモラリティちゃんの言葉に、俺は反論するのだ。
「と言うことはあれですか。これから先、俺みたいなのが何人もこの世界に召喚されて、奴隷としてこき使われても文句は言えないわけですね。新入りである召喚された人間は、もともとこの世界にいたモラリティ様みたいな先輩方に逆らえないわけですから」
そんなことを俺が言うと、モラリティちゃんはたじろいでしまうのだった。
「そ、そこまでは言ってないじゃない。奴隷なんて野蛮なもの、とっくの昔にこの国では廃止されたわ。同じ人間を奴隷として扱うだなんて、そんな非人道的なこと、文明人として許されることではないわ」
そんな人権意識をきちんと尊重したことを主張するモラリティちゃんに、俺はたたみかけるのだ
「でも、奴隷制というシステムがなぜ昔は受け入れられてたかっということを考えようよ、モラリティさん。奴隷は人間として劣っている。だから優秀なご主人様が指導して使ってやらなくてはならない。なんて意識があったからでしょう。となると、この世界の新入りである召喚された俺みたいな人間は、この世界のことをよく知らないから、もともといたモラリティ様たちに道具として使わなければならない、と言う発想になってしまうんじゃないかなあ」
俺の意見を聞いて、モラリティちゃんの顔がみるみるうちに青ざめていく。
「わ、私はべつにそんなこと考えてなんか……」
さっきまであんなに風鬼委員長という権力をかさにきて、上から目線で俺に接してきたモラリティちゃんが、すっかりタジタジになっている。しかもうっすら涙目になっているようだ。そこで俺はさらに追求していくのである。
「おお、こわいこわい。きっと、昔の奴隷制もこうしたことがきっかけになって始まったんだろうなあ。『あいつら俺たちと違うな』『人種的に劣ってんじゃね』『じゃあ、あいつらが肉体労働で、俺たちが頭脳労働な』『あいつら最近働かねえな』『しょうがねえ、むちでしばいてやっか」って感じなんだろうなあ」
モラリティちゃんはもはや黙ったままだ。俺は追求をゆるめないのだった。
「でも、もしそんなことになっても、俺にはどうしようもないもんなあ。俺はこの世界では、よそ者だし、少数者だし。モラリティさん達が、俺を奴隷とするって法律で決めちゃうことになったら、数の暴力で俺にはどうにもならないもんなあ。一度そんな法律ができちゃったら、あとはなしくずしだよ。異世界から来た人間は、モラリティさん達の奴隷ということになったら、あとは奴隷の数が、モラリティさん達の何倍、何十倍となろうとも、俺たちはモラリティさん達の奴隷のままなんだ」
俺の言葉を聞きながら、モラリティちゃんは肩をプルプルふるわせている。そして叫び出すのだった。
「バカ! バカ! イセカイのバカ!」
もう風紀も校則も何もあったものじゃない。ただの子供の悪口である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます