第7話ヒロインはみんな俺を嫌ってる? 其の4

「こ、こんな歌詞を歌えと言うの、イセカイ。こんな愛だの恋だのなんていうありきたりな言葉を、ただストレートに並べただけの、何の文学的な表現もされていない、子供が書きなぐったような歌詞を」


 そう言って俺に食ってかかるのは、この異世界のナンバーワンの女の子アイドルである、カリスマスターちゃんだ。


 アイドルにふさわしいはなやかな、ピンク色のストレートロングの髪の毛。画面映えするすらりとした長い手足。カメラにズームされたらそのチャーミングな表情で、画面の前の男どもをあっという間に骨抜きにできるだろう、男の目をひきつけて離さない魅力的な顔立ち。


 そして、スケベな男をターゲットとするグラビアタレントとしては少々物足りないが、中学生や高校生の女の子もターゲットとしているアイドルとしてはもうしぶんのない、その形がととのったおっぱい。


 そんな、ひかえめと言えるかもしれないが、存在感をきっちり主張してくるおっぱいを、まるで俺に見せつけるように強調しながら、俺に詰め寄ってくるカリスマスターちゃんである。


「いいこと、イセカイプロデューサー。歌詞ってのはね、あなたが考えているような単純なものじゃあないのよ」


 お聞きの通り、カリスマスターちゃんは俺のことを、”イセカイプロデューサー”と呼んでいる。なぜなら、俺がカリスマスターちゃんを、アイドルとしてプロデュースしているからだ。なぜそうなっているかと言うと……


「そりゃあ、この前あなたが書いた歌詞を、たまたま歌うことになったら、なぜかは知らないけどそれがお客さんに大うけしちゃって、あなたがあたしのプロデューサーってことになったけど、あたしはあなたを認めていませんからね」


 と言うことなのだ。この異世界に来た時に、”カリスマスターの歌の歌詞を作るのは君だ! どんどん歌詞を投稿してね。最優秀作品はをカリスマスターが歌っちゃいます”的なイベントが、この中世風の異世界でもなぜか発達しているインターネットのようなもので開催されていたのだったが……


 そのイベントを知って、軽い気持ちで俺は適当に作った歌詞を投稿したのだった。まあ、現代日本ではよくあるような歌詞を、なんとなくつなぎあわせただけのようなしろものだったが……


 で、そんな俺の作った歌詞が、あれよあれよという間にこの異世界のネット上で大人気となり、カリスマスターちゃんに歌ってもらえることになったのだ。


 そしたら、その歌が異世界のネット上だけでなく、この異世界の現実でも大ヒットし、カリスマスターちゃんの所属する事務所の社長から、『ぜひ次回作を書いてください』とお願いされて、その次回作を俺が書いたのだ。


 ちなみに、もし俺が歌詞を投稿していなかったら、カリスマスターちゃんが歌うことになっていたであろう作品があったみたいだ。何をかくそう、ほかならぬカリスマスターちゃんが書いた歌詞である。


 いわゆるヤラセというやつで、カリスマスターちゃんが書いた歌詞を、カリスマスターちゃんが書いたとはせずに、そのへんの一般人が投稿したことにする。そしてその歌詞を、イベントを運営している側が、こっそり裏で手を回して最優秀作品にしたてあげる。


 すると、『この歌詞を書いたのは誰だ!』と言うことになって、『実はカリスマスターちゃんでした』と発表する。


 そうすると、『カリスマスターちゃんって、歌詞も書けるんだ。しかも、その最初はカリスマスターちゃんが書いたことになっていない歌詞が、最優秀作品になったってことは、カリスマスターちゃんの作詞スキルって本物ってことじゃん。すげえ!』ってことになる……予定だったみたいだ。


 だが、俺の書いた歌詞がこの異世界のネットで、芸能事務所が裏で手を少し回して位ではどうにもならないほどにバズる結果となったので、俺の歌詞をカリスマスターちゃんが歌わざるを得ない結果となったのだ。


 当然、カリスマスターちゃんも、自分が歌うことになる歌詞を一般から募集する企画がデキレースであることは百もしょうちで、しかもノリノリで自分の歌詞を自分で歌う気マンマンだったのだが、その予定を俺が台無しにしてしまったのだ。


 当たり前だが、カリスマスターちゃんサイドとしては不満たらたらで、しぶしぶ俺の歌詞を歌うことになったのだが、それが大うけするのだからちょろいもんである。


 それでもって、事務所にペコペコ頭を下げられてたのまれれた俺の次回作の歌詞を、カリスマスターちゃんに今見せているのだが、その表情からは、不満たらたらであることが簡単にわかるのだ。


「ああ、もう、なんでトップアイドルであるこのカリスマスターが、こんなくだらない歌詞を歌わなければならないの? 人気商売だからって、限度というものがあるわよ」

「まあ、そう言わないでさ、とりあえず歌うだけ歌ってみてよ。カリスマスターさん」


 俺がそう言って頼み込むと、カリスマスターちゃんはいやいやながらも歌い始める。しかしその様子は、投げやりもいいところで、テンションの低さはとどまることを知らないようだ。そんなカリスマスターちゃんを見ながら、スタッフさんたちもぼやくのだった。


「カリスマスターちゃん、やる気ないみたいだね」

「でも、カリスマスターちゃんがああなるのも無理ないよ。あんな低レベルな歌詞を歌えって言われてもねえ」

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