第6話ヒロインはみんな俺を嫌ってる? 其の3.5

「はい、カット」


 俺のその言葉を聞いて、デリシャスちゃんがもうたまらないと言った様子で、俺に向かって頼みこんでくる。


「おねがい、イセカイ君。もっと食べさせてよ。もう僕がまんできないよ。イセカイ君が『はい、カット』って言うまで、どれだけ僕が自分を抑えていたと思っているんだい。こんなにおいしい料理を食べさせてもらって、ろくにリアクションも取れないなんて、こんなに演じるのが難しい役を僕にさせるなんて、イセカイ君はいじわるもいいところだよ」

「わかったわかった。デリシャスさんはいやしんぼだなあ。そんなにあからさまにおねだりしちゃって。しょうがない女の子だよ、まったく。はい、あーん」


 俺はそう言って、デリシャスちゃんが食べかけている俺の料理をスプーンですくって、デリシャスちゃんの口元に近づけるのだ。ちなみにそのスプーンは、木でできた、先っぽが膨らんでいて、手で持つ部分が直径三センチくらいの太さとなっている形状だ。


 少し手に持つ部分がスプーンとしては太すぎるかもしれないが、このほうが何かと都合がいいのである。


 ちなみに、その間デリシャスちゃんは、目を閉じて口をだらしなく開けたままにしている。えさをねだる小鳥のひなだって、ここまで物欲しそうな表情はしないだろうと言ったくらいに。


 そんな目を閉じたおねだりデリシャスちゃんの口元に、料理をすくったスプーンを近づけたまま、しばらくそのままにしていると、デリシャスちゃんは待ちきれないとばかりに目を開ける。


 そして、自分の口元のすぐ近くで、俺がスプーンをぶらぶらさせているのに気づくとすぐに、ぷんぷん怒り出すのだった。


「もう、イセカイ君のいじわる! どうして僕にそんなお預けをくらわせるのさ」

「はは、ごめんごめん。デリシャスちゃんがあんまりにもかわいいものだから、ちょっとだけいじわるしたくなっちゃたのさ」

「やだ、かわいいだなんて、イセカイ君たら、もう」

「照れることないじゃないか、俺はほんとのことを言っただけなんだから、デリシャスちゃん。それより、はい、あ-ん」

「あーん」


 そう言って、デリシャスちゃんが俺のスプーンを遠慮なくそのかわいらしいお口でくわえこんでくる。根元まで一気に。デリシャスちゃんのお口はその小柄な体格と同じように小ぶりなので、俺の太いスプーンをくわえるのは少しきつそうだ。


 だが、俺のスプーンをくわえこんだとたんに、俺の料理のあまりのおいしさに、デリシャスちゃんの顔の表情がだらしなくゆるみきったものとなる。


 そのままデリシャスちゃんは、俺の料理がとんでもなくおいしいことを何とか言葉にしようとするのだが、あまりにおいしすぎてうまく言葉にすらできないみたいだ。


 さらに、デリシャスちゃんは俺の太くて長いスプーンをくわえこんだままなので、その俺にスプーンをつっこまれた口から出てくる言葉は、もうまともな言葉じゃないと言ってよい。


「ふぉ、ふぉいひいよお。いふぇふぁいひゅんのおひょうひ、ひゅっごくひゅっごくふぉいひいのお」


 おそらく、『お。おいしいよお。イセカイ君のお料理、すっごくすっごくおいしいのお』と言いたいのだろうが、デリシャスちゃんは俺のマツタケみたいなスプーンを、そのキュートなお口でくわえているのでちゃんとした発音になっていない。


 そのデリシャスちゃんのお口でくわえられた俺のスプーンは、デリシャスちゃんのお口からでてきたよだれで、なまめかしくぬれてうっすらてかてか光っている。


 まるで安っぽいエロアニメのような光景だが、それを見ている、さっきまで俺にあんなに悪口を言っていた連中の中にいる女の子たちの反応はこうである。


「デリシャスさんったら、なんて幸せそうな顔をなさっているのかしら。でも、イセカイ様の素晴らしい料理を、あんなに立派なスプーンで食べさせていただいているんだもの。こうこつとした表情になるのも当たり前ですわ」

「代々にわたって王宮の料理長をしている家系のデリシャスさんが、あれだけメロメロになってしまうイセカイ様の料理。私達みたいな平民が口にしたら、いったいどうなってしまうんでしょう。きっと、腰が抜けて立てなくなるくらいではすまないんだわ」


 そんな女の子たちのとろけきった声を聞きながら、俺は、俺の料理をやっとのことで食べ終えたデリシャスちゃんの様子を確認する。


 俺のとんでもなくうまい料理を味わうという、この異世界ではありえない快感をその小柄な体で受け止めきれずに、だらしなくへたりこんでしまっている。


 そのかわいらしいお口からだけでなく、体中の穴という穴からいろんなものが吹き出してしまっているみたいだ。そんな様子にもかかわらず、デリシャスちゃんは、なんとかしぼりだすような口調で俺にお願いするのだった。


「ねえ、イセカイ君。もし、演技の途中でこんなふうになっちゃったら大変だからさ、訓練しなきゃいけないと思うんだ。だから、イセカイ君の料理、もっといっぱい食べておきたいんだけど……」

「しょうがないなあ、デリシャスさんは。でも、ここの食材は使い切っちゃったから、デリシャスさんの家につれていってくれるかな。デリシャスさんの家なら、いろんな食材があるんでしょう」


 俺のその言葉に、デリシャスちゃんは顔を赤らめてうなずくのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る