第5話ヒロインはみんな俺を嫌ってる? 其の3
「さあ、イセカイ。これが今回の僕の自信作料理だ。とくと味わうがいい。おいしすぎて死んじゃったりしても責任はとれないがね」
そんなことを言いながら、俺にその自信作料理とやらを差し出してくるのは、デリシャスちゃん。この異世界で、全ての味をきわめた究極の料理人とあがめたてまつられている女の子だ。
一人称が僕であることからもわかるように、ボーイッシュであるがチャーミングな女の子である。
料理人としての必要性からか、その銀色の髪の毛はショートヘアにしているが、それがデリシャスちゃんのボーイッシュな雰囲気によく似合っている。胸は小さいと言うより平らだが、デリシャスちゃんの低い身長もあいまって、幼いロリっぽさが強調されて、これまたいい感じだ。
で、そのデリシャスちゃんの自信作料理だが、まあなんと言うか、ひどい有様だ。しいてほめるとすれば、素材を生かしていると言うことになるのだろうが、野菜も肉もろくに包丁で切った様子もなく、ただそのまま焼いただけという感じである。
しかも、その焼き方がまた最低で、生焼けの部分あり、真っ黒にこげてすみになった部分あり、と言った有様だ。
それで、その現代日本ならば料理とも言えない料理を見た周りのギャラリーの反応はというと……
「なんておいしそうな料理だろう。よだれが止まんないや。見ているだけなんて、まるで拷問だよ」
「当然よ。デリシャスさんは、代々この国の王宮で料理長をしている家系のお嬢様なのよ。そんなデリシャスさんが作っていただいた料理のにおいをかげるだけで、ごはんがどんぶりめし三杯食べられるレベルなんだから」
と、こう言った感じである。見ているだけのお前らの方がよっぽどしあわせなんじゃないかと、ついつい叫びたくなってくる俺である。
「さあ、食べるんだ、イセカイ。それとも負けるのが嫌で食べられないのかな」
そう言って、この、はっきり言って不味そうな料理を食べるよう俺に求めてくるデリシャスちゃんである。これが俺への嫌がらせだとしたら、この上ない大成功と言えるだろう。
そして、俺は覚悟を決めて、デリシャスちゃんの自信作料理を口に運ぶのだった。
じゃりっ! にちゃあ! べっしょべっしょ!
そんな、とても楽しい料理中とは思えない擬音語が、俺の顔の中をかけめぐっている。涙すら流れてくるが、その俺の涙をデリシャスちゃんはうれし涙と思っているようだ。
「おやおや、涙を流すほどおいしかったのかな、僕の料理が。これは、もう勝負は決まったも同然かな。でも、料理人として、イセカイ君の料理を食べるだけは食べてあげるよ。それじゃあだしてごらん」
そう親切に言ってくれるデリシャスちゃんに、俺は自分の料理を差し出すのだ。
ちなみにどう言った料理かというと、現代日本の義務教育で、家庭科の調理実習をやってきた人間ならば、誰にだってつくれるであろう簡単な料理だ。
キャベツを軽く千切りにして、そしてトマトを薄くスライスして塩をパラパラっと振りかけたサラダ。
豚肉を一口大に切って、油をしいたフライパンで中まで火が通るように焼いて、塩コショウで味付けしたポーク焼肉。
この二品だ。異世界なのに、食材は現代日本とほとんご同じなのだから話が早い。
そんな俺の料理を見たギャラリーの反応はこうである。
「なんだい、あんなふうにやたらめったら手を加えちゃってさ。素材に対するリスペクトが足りないよ」
「そんなことを言うものじゃないよ。しょせんはこの世界に来たばっかりの田舎者なんだから、ちょっとくらいお勉強や戦い方はご存知でも、この国の伝統なんて知るはずがないんだから」
ここでも俺の評判は最低だ。別にデリシャスちゃんの料理をありがたがる人間にほめられても、大して嬉しくはないが。
で、いよいよデリシャスちゃんが俺の料理を食べることになる。
「やれやれ、イセカイ君。今度こそ君の化けの皮がはがれるときがきたようだね。これまではたまたま君のつくった、この世界の常識とはかけ離れた料理が、うまいこと珍しがられておいしいと思われたようだけど、今回はそうはいかないようだね。こんな刃物で残虐に切りきざまれたものが、おいしいなんてありえないからね」
そう俺の料理をけなすデリシャスちゃんだが、いつもなんだかんだ言ってちゃんと食べてくれるのだ。その点だけは、料理人としてちゃんとしてると思えるのだが。
「それじゃあ、一応料理の神様への敬意として、食べるだけは食べてあげようかな。全くしょうがないんだから」
そう言って俺の料理を口に運ぶデリシャスちゃんである。さて、その反応はと言うと……
「……」
無言である。ただ俺の料理を黙って口に運び続けるデリシャスチャンだ。俺はそんなデリシャスちゃんに質問するのだ。
「どうしたんですかー、デリシャスさん。おいしいんですかー。おいしくいないんですかー。おいしくいないんだったら、はきだしちゃってもいいんですよー」
そんな俺の言葉が聞こえているのか聞こえていないのか、あいかわらず俺の料理を、言葉を発することなく食べ続けるデリシャスちゃんなのである。
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