第4話ヒロインはみんな俺を嫌ってる? 其の2.5

「はい、カット」


 その舞台の演技の中断の知らせを俺が言うと、ついさっきまであんなに激しく俺に抵抗していた女武道家であるファイティングちゃんが、即オチして俺に甘えてくるのだった。


「はなさないで、イセカイ。わたしは負けたのよ。負けた女武道家がされることなんて決まっているわ。『くっ、殺せ』な展開よ。さあ、イセカイ、もっと、もっとわたしに乱暴してちょうだい」


 そんなふうに完オチしているファイティングちゃんが、自分を押し倒した俺を、ガッチリと抱きしめて大好きホールドしながら甘えてくる。そのおおきいおっぱいを、思いっきり俺の胸に押し当てながら。


「おいおい、ファイティングさん。いちおうここは武道場なんだよ。他の人の目もあることだし」

「じゃ、じゃあ、イセカイ。けいこ。武道のけいこってことでおねがい。ほら、わたしとイセカイのはじめての時、いっぱいすごいことしてくれたじゃない。いやがるわたしの顔をむりやりイセカイの股間に押しつけて、その上両足でわたしの首を絞め付けるなんてすごいこと。ああ言うのをしてちょうだい」


 ファイティングさんが言っているのは、三角絞めと言う、現代日本では有名な技なのだが、そんなメジャーな技をやっただけで、この異世界ではたちまちヒーローだ。


 ちなみに、現代日本でそんなことを、俺みたいな男がファイティングちゃんのようなかわいい女の子にやらかしたら、まちがいなく警察ざただが、この異世界ではそんなことはない。


「まあ、三角絞めですって。そんなとんでもない技をイセカイさんにかけられるなんて、ファイティングさんったらなんという幸せ者なのかしら」

「でも、ファイティングさんみたいなお強くてかわいい女の子なんですもの。そんな光栄になられるのも、しごく当たり前ですわ」


 と言ったことを、俺とファイティングちゃんの台本のあるアクションシーンを見ていた観客のモブ女の子たちが、モブと言ってもとってもかわいいのだが、きゃあきゃあさわいでいる。


 そして、ファイティングちゃんが、俺を大好きホールドしたまま、不思議そうな顔で聞いてくるのだ。


「それにしても、イセカイ。イセカイみたいにフィジカルでも、テクニックでもわたしがとてもかなわないわたしの理想的な男性を、どうして嫌っているような演技をしなければならないのか、今ひとつピンとこないわ。い、いえ、違うのよ。イセカイの命令に従うことが嫌だってわけじゃあないのよ。ただちょっと不思議に思っただけで」


 そのファイティングちゃんの意見ももっともだが、演技とは言え、俺に敵意をむき出しにしてくる女の子が、『はい、カット』という一言を俺が言うだけで、俺のことを大好きになってくれるのだ。催眠術でも使って、女の子を好き勝手にしているかのようだ。


 まあ、催眠術なんて使う必要もないし、その気になればいつでも女の子たち全員を、俺の二十四時間ハーレム要因にできるのだが、それはそれで風情がない気もするし、このくらいがちょうどいいのかもしれない。


 すると、ファイティングちゃんがもじもじしながら俺にたずねてくるのだった。押し倒された俺に抱きついたまま。


「そ、それでその、イセカイ。さっき、ここは武道場で、周りにも人がいるからどうのこうのって言ってたよね。それって、例えばわたしの部屋で、二人っきりだったら思う存分わたしをお仕置きしてくれるってことなの。自分とイセカイとの力の差をちっともわからないまま、無謀な戦いをイセカイにいどみ続けるわたしを」

「いやいや、ファイティングさん。それはあくまで台本で、本当のファイティングさんは、こんなにもすなおでかわいい女の子じゃないか。そんな女の子をお仕置きするなんて、この俺にはできないよ」


 そんなふうに俺はひじょうにジェントルマンな態度で、ファイティングちゃんに答えるのだが、ファイティングちゃんはなんだか残念そうである。


 その残念そうなファイティングちゃんに俺は言ってやるのだ。


「そんなことより、ファイティングさん、これからの演技プランについて、俺とファイティングさんの二人でじっくり話したいんだ。俺の部屋で。もちろん、ファイティングさんがよければの話だけど」

「はい! イセカイ。よければなんて、イセカイが聞くまでもないです。ぜひよろしく演技を指導してください」


 こんなことを現代日本の大勢の人間が見ている状況でしようものなら、セクハラ裁判待った無しだが、この異世界ではそんなことはありはしないのだ。その証拠に、周りの女の子たちは、こんな黄色い歓声をあげているのだ。


「イセカイ君に二人っきりで演技指導されるなんて、しかもイセカイ君の部屋で、なんてうらやましいのかしら。これこそ女の子のあこがれよ」

「でも、イセカイ君の要求する台本の内容に、あれだけきっちりこたえられるファイティングさんなんですもの。そんな栄誉をさずかるのなんて当たり前よ」


 こう言った具合なのだ。

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