第2話ヒロインはみんな俺を嫌ってる? 其の1.5

「はい、カット」


 そのカットの知らせを俺が言うと、インテリジェンスちゃんがさっきまでの、俺に飛びかかりそうな勢いそのままに抱きついてくる。その大きなおっぱいを、おしげもなく俺に押し付けてきてくれる。


「どうでしたか、イセカイ様。わたくしの演技。どこかダメなところはありませんでしたか?」

「そんなことないよ、インテリジェンス。いい感じの、勉強ができることを鼻にかけている、生意気な優等生だったよ。本当に俺のことを嫌っているみたいだったよ」


 そんなことを俺が言うと、インテリジェンスちゃんはこの世の終わりみたいな表情をするのだった。


「そんな! そんなことはありませんわ。わたくしはイセカイ様をおしたい申し上げているのですから。わたくし達などとは、比べものにならない素晴らしい知識を持っているイセカイ様を。今回の撮影の前でも、三角形の面積の公式なんていう、わたくしにはチンプンカンプンなしろものを、あんなに親身になって教えてくれたではありませんか。ちゃんとイセカイ様と同レベルの頭脳を持っているという演技ができるように」


 そうなのだ。台本ではインテリジェンスちゃんは、三角形の面積の公式を理解しているふうだったが、実際のインテリジェンスちゃんは、それすらも理解していない頭脳のレベルなのだ。もちろん、ほかのクラスメイト達の学力もどっこいどっこいである。


 そんな現代日本の小学生にすらかなわないレベルの人間が、エリート学生でございますなんて言う異世界に、俺みたいな現代日本人がやってきたのだ。当然のことながら無双して、モテモテになるに決まっている。


 ではなんで、こんなふうにクラス中から嫌われているような台本なんて演じているかと言うと、どうも最初は主人公にツンツンするのがお約束だからだそうだ。しかし、そのツンツンがいつまでも続いているわけで……


「ねえ、イセカイ様。いったいいつまでこんなことを続ければいいのですか。本当のわたくしは、こんなにもイセカイ様をおしたいしているとうのに、演技とは言え、イセカイ様を嫌っているみたいなまねを」


 この通り、実際にはインテリジェンスちゃんはこの俺にべたぼれなのである。だが、そんなインテリジェンスちゃんに、この俺を嫌っている演技をしてもらわないといけないのだ。


 俺は、その理由をインテリジェンスちゃんに適当に説明するのだった。


「ごめんね、インテリジェンスちゃん。君が俺のことを愛してくれているのはちゃんと知っているよ。でも、この台本の人気が出ちゃってね。この学校の女の子全員に嫌われたままでいろって、引き延ばしをしなきゃならないんだ。これも人気商売の宿命ってやつでね。だから、インテリジェンスちゃん。もう少しだけでいいから、このしばいを続けてよ」


 俺のメタ的な頼みを、インテリジェンスちゃんはわけがわからないと言う様子ながらも、すべて受け入れてくれるのだ。


「わたくしには、イセカイ様が何を言っていいるかさっぱり理解できません。ですが、イセカイ様の頼みでしたら、このインテリジェンス、なんでも聞き入れてみせますわ」


 そんな俺とインテリジェンスちゃんの会話を聞いていたクラスのみんなが、口ぐちにうわさしあうのだった。もちろん、その内容は悪口なんかではない。


「いいなあ、イセカイ君。あんなに頭が良くて、そのうえ顔もかわいくて、さらにおっぱいが大きいインテリジェンスさんに、あれだげすきすきオーラを全開にしてもらって。ほんとうにうらやましいや」

「でも、しかたがないよ。イセカイ君は、僕たちみたいな一般人と違って、頭脳のレベルがケタ違いなんだもん。インテリジェンスさんのハートをいとめるのも、当然と言えば当然だよ」


 と、このようにクラス、と言うより学校中のみんなが、異世界から来た俺のチートっぷりにしっとの心も起きないくらい、最初から次元が違うとあきらめているのだ。そのうえで、インテリジェンスちゃんと同じように、俺をこころよく思っていない様な演技をしてもらっているのだ。


 そんなクラスのみんなのあこがれのひそひそ話を聞きながら、俺とインテリジェンスちゃんはラブラブな会話を続けるのだった。


「ねえ、イセカイ様。これからも、この芝居を続けていくっておっしゃいましたよね」

「うん、そう言ったよ、インテリジェンスちゃん」

「でしたら、またわたくしに、お勉強教えてくださいません? わたくし、イセカイ様のご指導がなければ、とてもあんな知的な受け答えをする演技、できませんもの。できれば、わたくしとイセカイ様の二人っきりで」

「そんなの、こちらからお願いしたいくらいだよ。俺がインテリジェンスちゃんに無茶なたのみをしているんだから、そのくらいのインテリジェンスちゃんへの面倒を見るのは、当たり前のことだよ」


 俺がそう答えると、インテリジェンスちゃんは満面の笑みを浮かべるのだった。


「本当ですか、イセカイ様。そのようにおっしゃっていただけて、このインテリジェンスこの上もなく幸せですわ。でも、わたくし、イセカイ様のたのみを無茶だなんて思ってもいませんわ。イセカイ様のたのみをかなえることは、わたくしにとっての最高の幸せなんですから」

「ありがとう、そう言ってくれて俺も幸せだよ、インテリジェンスちゃん」

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