第6話 アズミ
……今日は何曜日だっけ?
石崎は曜日の感覚がなくなった。洞窟のせいではない。
年中無休で営業していると特に平日の曜日感覚がなくなってくる。
それでも思ったほど退屈ではなかった。
「事件」が起きたこともあったが、東京にいたときよりも仕事に集中できている。
洞窟が、何の思い入れもないこの場所との繋がりを強め石崎本人を変化させていた。
この日も珍しい来客があった。
お昼過ぎ、ピークタイムも終わり、いつも通り、そろそろ食べ飽きてきたスーパーの弁当を事務所で食べていると50代のスーツの男性が入ってきた。
雰囲気から注文客ではなさそうだった。
その男性は名刺を出して名乗った。
「市長の高橋です」
店の外には運転手つきの黒のセダンが停まっていた。
石崎も慌てて事務所の引き出しから名刺を取り出して来て、差し出した。
「事故の件ではご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
石崎は姿勢をただしてお詫びし、恭しく名刺を受け取った。
「その後はより厳しく指導を行ってます」
「あ、いや、驚かして申し訳ない。娘が世話になっているのでご挨拶にと。一応視察中の名目なので肩書でご挨拶しましたが、高橋明澄の父です」
市長の顔が父親の表情に変わったが、石崎は油断することなくピザチェーンの一店長の笑顔と態度で答えた。
「ああ、高橋アズミさんの。有能な娘さんでお店も大変助かってます」
「いえいえ。何せ初めてのアルバイトなものですから至らない点が多々あると思います。厳しくしかってやってください」
「責任もってお預かりします」
「石崎店長も頑張ってください」
市長は石崎と握手して言った。
市長を見送ったあとアズミが出勤してきて、父親が急に訪ねてきたことを聞き、石崎に謝った。
その数日後から、アズミの父親の影響があったのか、破壊されたビルの建て替えに従事する業者からまとまった注文が定期的に入っるようになった。
店の売り上げは大いに助かったが、それよりも石崎は、アズミが恋人ならとても楽しいだろう、とアズミに対する興味が増していった自分が嬉しかった。
相手は高校生で、その父親は、笑顔の奥に、硬質な精神と秀逸な頭脳を感じさせる市長。
何が起きるか分からない。
何が起きるか分からない何かを、石崎は、自分だけが分かるような予感がして、それが高揚感につながっていた。
洞窟の先 kariee @kariee
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