第23話 お兄ちゃんにばれちゃった
午後の授業が全て終わり放課後になった。
今日はわりと授業に集中することが出来た。あたしにも仲間が増えて余裕が出てきたのかもしれない。
さあ、仲間を誘ってゲームに行く時間だよ。
昼休みは高嶺ちゃんから誘われたので、あたしは今度は自分の方から誘おうと思って、勇気を出して高嶺ちゃんの席へ向かった。だが……
「高嶺ちゃん、今日も家に来る?」
「今日は用事がありますので。失礼します」
「用事があるなら仕方ないか」
ガーーーン。断られてしまったよ。高嶺ちゃんはお嬢様だから庶民のあたしと違ってたくさん習い事をしているのだろう。
忙しいなら仕方がなかった。習い事をさぼってあたしに付き合えなんて言えないよね。あたしは一人で校門を出て一人で帰路についた。
これからゲームの世界に行くのに何だろうこの楽しくない感じ。
「友達と一緒にゲームをするのって楽しかったんだな」
そんなことを思いながらあたしは自宅の玄関横の犬小屋にいたコウに声を掛けられた。
「ワンッ」
「ただいま。お前の事を忘れていたわけじゃないんだよ」
コウが待っている。ぼんやりしている場合じゃないね。
あたしは家に上がって自分の部屋に向かった。
さあ、いつまでもしょげた顔を見せているわけにはいかないね。やる気を出して今日も冒険を始めよう。
「高嶺ちゃんがいなくてもあたしは立派にコウを導いてみせるよ! 精霊のルミナとして!」
あたしはそう自分を奮い立たせ、ゲームを起動した。
ゲームの姿のヘルプちゃんがいつものようにゲームを始めるかファンタジアワールドに行くか訊ねてくる。
あたしは今日は一人でしか行かないつもりでファンタジアワールドに行くを選ぼうとしたのだが……
「お、瑠美奈、帰ってきてたのか。帰って早々ゲームとは良いご身分だな。今日は鷹宮のお嬢様は一緒じゃないのか? って……」
「お兄ちゃん!?」
あたしは驚き、お兄ちゃんも驚いた顔をした。お兄ちゃんはすぐにドアのところから部屋に入ってきてあたしを押しのけるように横に座った。
「なんだこの画面は。見た事がないぞ。俺が貸したゲームだよな? 何をしたんだ? どうやったんだ?」
「えっと……」
お兄ちゃんの訊きたいことはわかってるよ。自分の極めたつもりのゲームで知らない画面が出てるんだものね。とっても気になるよね。
あたしだって自分の全クリしたゲームで知らないステージが出てきたらびっくりするだろう。すぐに訊きたくなるはずだ。
でも、あたしには教えられないよ。高嶺ちゃんとお互いに言わないって約束もしたんだし。
ここは何とかして煙に巻かないと。
あたしは何とか兄の追及から逃れようと、話を逸らそうと誤魔化すように逆に訊ねた。
軽い世間話をして煙に巻くんだ。そう思って。話題は何でも良かった。
「お兄ちゃん今日は早かったんだね。どうしたの?」
「午後の授業が休講になったんだ。はい、俺は教えたから次はお前の教える番な」
「ふえ? ……ああーーー」
何てこった。誤魔化すつもりが逆に追い詰められたよ。お兄ちゃんはこっちが情報を教えたんだからお前も教えろと言っている。
取引はフェアに行わないといけない。そうでなければお互いの信頼関係は結べないから。たとえ兄妹でも。
うー、思考戦略のやり取りでお兄ちゃんには勝てないよ。ゲームだってそうなんだから。
お兄ちゃんはこう見えて頭が良いんだ。あたしが馬鹿なんじゃないよ。
なので、あたしは早々と降参を表明した。
「えっと、なら言うけど……高嶺ちゃんには言わないでよ」
「ああ、お前の友達には言わない」
「それなら……言います」
他言は無用だと高嶺ちゃんと約束したけど、お兄ちゃんにぐらいはいいよね。一緒のゲームをやっている仲なんだし、家族なんだし。
それに神様やヘルプちゃんからは誰かを連れてくるのは禁止だとは言われていない。
あたしが勝手に黙っていた方がいいと判断して、高嶺ちゃんと約束しただけだ。
ごめんね、高嶺ちゃん。あたしは心の中で謝って決意した。
「うーん……でも、言うよりは行った方が早いかな」
「え……」
あたしはやっぱり仲間が欲しかったんだと思う。
わりと前向きな気持ちで仕方なくファンタジアワールドへ行くを選んだ。
あたし達は誘われる。別の世界へ。
そういうわけで、やって来ました雲の上の世界。
お兄ちゃんは当たり前だけど驚いた顔をしていた。
「凄いな、こんな世界が実在しているのか。ここは異世界なのか?」
「うん、ファンタジアワールドっていうの」
高嶺ちゃんも異世界がどうたら言ってたけど、お兄ちゃんも異世界を知っているようだ。何だか不思議な気分。
初めて来る場所なのに存在する事は知っているなんて。
「鷹宮のお嬢様もこの世界に来ていたのか?」
「うん、一緒に少し冒険したの」
「そうか……あんまり彼女と関わらない方がいいぞ」
「どうして?」
「あの子はお嬢様だろ? お前とは住む世界が違うよ」
「そうかもしれないけどさ。クラスメイトだよ」
お兄ちゃんに言われなくても、友達は自分で選ぶよ。ちょっと不機嫌になるあたし。
そんなあたし達のところにヘルプちゃんが飛んできて、彼女もまたびっくりした顔を見せた。
「お帰りなさいませ、ルミナ様。……って、今度は誰を連れてきたんです!?」
「えっとね、お兄ちゃんです」
「兄の政治です」
「はあ」
ヘルプちゃんは呆気に取られて困っている様子。でも、もう二回目なので慣れた感じだった。
あたしは念のために何でも知ってる物知りな彼女に訊ねることにした。
「ここに誰かを連れてきてはいけないってルールは無いよね?」
「それは神様が断らないならあたしから言うことはありませんけど……ここのルールブックでは今のところは記されていませんね」
「そっか」
「でも、神様は人が来るとびっくりされますから」
「だね。でも、慣れないと」
あたしだって友達が出来たんだから。
ヘルプちゃんは諦めの顔で椅子の後ろに飛んでいってそこに隠れている神様を引っ張り出しに掛かった。あたしも手伝った。
「神様、出てきてくださーい」
「出てきて、神様ー」
「今度のは男じゃろー!? 大丈夫なのか!?」
「大丈夫ですって。あたしのお兄ちゃんですから」
「この前の高嶺って子よりは優しそうですよ!」
あたしとヘルプちゃんは協力して神様を引っ張り、
「分かった。分かったからそう引っ張るでない!」
彼は渋々と根負けして出てきた。
良かった、今度は転がさずに済んだ。
安心するあたしとヘルプちゃんの前で、神様は威厳を出そうとしながらお兄ちゃんと向かい合った。
「お前がそのー……ルミナの兄上か?」
「はい、妹がお世話になっています」
兄が礼儀正しく挨拶したことで神様は自信がついたようだ。
それからお互いにいろいろ話し合った。だいたい高嶺ちゃんの時と同じような事を。
それで、お兄ちゃんもこの世界を旅することを決めて、この世界のジョブをもらうことにした。
「俺はやっぱりナイトかな」
「お兄ちゃんなら闇の属性。暗黒騎士とかネクロマンサーとかを選ぶと思っていたよ」
「それは前のゲームで弱かったからな」
「弱かったのか……」
ともあれお兄ちゃんはナイトの姿にチェンジ……するのかと思いきや、考え直すことにしたようだ。
「やっぱりただのナイトじゃ地味すぎるかな。ここはパラディンにしよう」
「良かろう」
お兄ちゃん、どこまで高望みするんだ。神様も安請け合いしていいのだろうか。神様と同等の権限を持っているあたしの言う事じゃないかもしれないけどさ。
パラディンって上級職だよね。
ゲームによっては上級職は基本職よりレベルアップに必要な経験値が多くて、基本職からレベル上げした方が効率の良いゲームもあるんだけど、お兄ちゃんは気にしていないみたい。
まあ、ゲームの上手いお兄ちゃんの心配をあたしがする必要は無いでしょう。言ったら、お前は自分の心配をしていろよと言われるだけだ。
さあ、考えている間にお兄ちゃんが普通の人間神崎政治からパラディンのセイジにジョブチェンジしたよ。
さすが上級職はかっこいいね。言わないけどさ。
「瑠美奈、どう思う?」
「ぼちぼちかな」
「お前にしては良い返事だな」
もう、からかわないで欲しい。別に褒めてないのに。
さあ、一緒に行くかと思っていたら、お兄ちゃんったら先に一人で転送ポータルに乗っちゃった。
「俺は俺で冒険を楽しむからな。お前もお前で頑張れよ」
「ちょっとお兄ちゃん。分からないことがあったらヘルプちゃんに訊くんだよ」
「分かった」
転送されるお兄ちゃん。せっかちな人だ。
まあ、一緒に冒険に行っても攻略を楽しむお兄ちゃんと慎重に行くあたしじゃ進むペースが合わなかっただろうけど。
お兄ちゃんを見送ってあたしも旅立つことにした。
「じゃあ、行ってきます。ヘルプちゃん、お兄ちゃんのことをお願いね」
「はい、ヘルプちゃんのヘルプに任せておいてください」
「頑張ってなー」
二人に見送られてあたしは地上へ向かう。
さあ、前に中断したサード王国からあたし達の冒険が再び始まるよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます