第24話 サード王国 探索

 あたしは前に冒険を中断したサード王国の宿屋前へと降臨した。

 昼の王都はとても賑やか。昨日夕暮れ時に到着した時よりも人が増えていて活気があった。

 タビダチ王国やツギノ村では中断する前に探索を終えてたけど、このサード王国ではまだ宿屋にしか行っていないのでどこに何があるのかさっぱり分からない。

 結構広そうな王都だ。タビダチ王国以上の賑わいかもしれない。コウはどこにいるんだろう。


「立ち止まって考えていても仕方ないか」


 とりあえず歩いてみよう。それで一周したらまたここへ戻ってこよう。あたしはそう思って歩き出そうとしたのだが……


「ルミナ! 来てたんだ!」

「コウ!」


 何と歩く前に向こうから見つけてきたよ。鼻が利くんだろうか。こっちの世界のコウは犬では無いんだけど、嬉しそうに走ってくる姿はそっくりで、あたしはほっこりしてしまった。

 彼はガシャガシャと音を鳴らして走ってくる。鉄製の装備を身に着けていた。


「コウ、装備変えたんだ」

「ああ、海底トンネルでは苦戦してしまったからな。これでもうルミナに心配は掛けないぞ」

「うん」


 コウは賢くなった。敵が強くなったことを感じて自分で判断して装備を選んだんだ。そのことを嬉しく思ってしまう。

 鉄の装備って高いと思うんだけど、コウはまだ一人旅だからお金に余裕があるのかな。

 あたしは前にプレイしていたゲームを思い出す。パーティーが8人いるゲームだととても全員分の装備を揃えることは出来なかったなあ。

 一軍だけを優遇していたら二軍だけで挑まないといけないダンジョンが出てきて苦労したものだった。

 コウが何かを気にするように左右を見てから、考え事をしていたあたしに訊ねてきた。


「ルミナ、今日はタカネは?」

「ああ、高嶺ちゃんなら今日は用事があるから来られないって。今日の冒険は彼女の回復魔法に頼れないけど、コウ一人で戦える?」

「任せろ! その為に良い装備を買ったんだ。もうルミナにみっともないところは見せないぞ!」


 何とも頼もしい勇者らしい言葉。コウも成長したもんだ。

 あたしは感心して次の冒険へ進むことにした。


「おそらく城に行けばサード王国のイベントが進行すると思うから、まずは町を見て回ろうか」

「それならもう見て回ったぜ。情報収集は基本だもんな。王様は何か悩みを抱えているらしいぞ」

「王様が悩みを? ってもう見て回ったのか」


 あたしはしょぼんとしてしまう。

 何だか見ていない間に攻略を進められた気分だよ。お兄ちゃんによくやられたなあ。ちょっと離れた隙にゲームを進められていた。

 しょんぼりした気持ちが伝わったのだろう。コウが慌てた手振りをした。


「でも、まだ見落としがあるかもしれないから一緒に回ろうか。俺がルミナを案内するから」

「うん、よろしくね。案内人さん」


 この旅は勇者の旅だ。あたしがこの町を知る必要は無かったかもしれないが、せっかくコウが案内してくれるというので。

 あたしは素直にその好意を受け取った。


 コウと一緒にいろいろ店を見て回った。王国の建物は国の大きさに見合った立派な物だった。


「さすがは王国。装備が一新されてるね」

「だろう? 鉄の武器は買ったんだけど、破邪の剣を買うにはまだお金が足りないんだ」

「無理して高い物を買わなくていいよ」


 店で一番高い物を一つだけ無理して買うより、ほどほどの装備を一式揃えた方が効率よく冒険を進められる場合がある。コウは後者を選んだのだろう。

 地道に敵を倒してきているコウなら今の状態でも問題なく戦えるはずだ。あたしは先に進む決断をした。


「じゃあ、城へ行こうか」

「ああ、王様の悩みを解決するんだな」

「うん」


 そして、あたしはコウと一緒に城へと向かった。




 賑やかな城下町の通りを歩いて城に辿り着く。

 跳ね橋の向こうの城門前には厳つい顔をした兵士がネズミ一匹通さないぞと言わんばかりの威圧感を放って門番として立っていてあたしはどうしたものかと思ったが、コウが先に行くので後についていった。

 さて、どう話そうとあたしは橋を渡りながら考えていたが、こっちから言うよりも早く兵士の方から声を掛けてきた。


『止まれ!』


 と言われて恐い顔で脅されたらどうしようかなと思っていたが、意外にも門番は丁寧な応対をしてきた。

 彼は強面な顔を優しく緩めて言った。


「おお、ようこそサード王国へ。あなたは待ち望んでいた勇者様ですね! ツギノ村での活躍は聞いています! ぜひ我が国の王様に会って悩みを解決してください!」

「ああ! 王様の悩みは俺達が解決してやるぜ!」


 凄い、顔パスなんだ。コウも有名になったもんだね。おそらく商人達から情報が回ったんだろう。

 街道で話したのも無駄では無かった。

 そうして、あたし達は快く招かれて、サード王国の城へと足を踏み入れた。

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