16
「――は」
イナズカの言葉に清正も水月も思考が止まった。
「帰り道が『鏡』って、私たちは池に落ちて――」
こちらに来たのだ、と言おうとした水月が目を開く。
鏡面。
おそらく、彼女の出現と同様で、明確に「鏡」である必要性はないのだ。鏡面に類するものであればいい。それはすなわち、不鮮明でもなんでも、世界を映しているものならなんでも良いということだ。
「……いや、ていうか鏡なら今目の前にあるし、あの女はいないじゃねえか! 飛び込めばいいんだろ!」
「あ、こら、清正」
水月の制止を聞かずに清正は生徒会長と男子生徒を押しのけて鏡に体当たりをする。しかし、どん、という鈍い音がして何も起こらない。
「………………おい、どういうことだよ」
「鏡が境界になっているのはわかってるんですけど、境界はいつでも越えられるわけではないみたいです……」
清正に睨まれたイナズカが申し訳なさそうに言った。
「……おい、待て」
「なんだよ?」
ああもう、と階上に戻ろうとする清正を生徒会長が止める。それに振り返った清正は、視界に入った鏡を見て動きを止めた。
「……水月」
「今そっち降りるわ」
水月が階段を降りて清正の隣に並ぶ。
「どういうことだ?」
「さあ?」
向き合う鏡に映っているのは、生徒会長と男子生徒、それから水月の姿だけ。
清正の姿がそこには映っていなかった。
「この世界の人間じゃないから映らない――というなら、私が映るのはおかしいわね」
「もしかしてさっきのやつに触れたからか……?」
何か良くないことでも起こるのか、と肩を抱いて周囲を見渡す清正に「落ち着きなさい」と水月がため息をつく。
「これが落ち着いていられるか!」
「落ち着かないことには何もできないでしょうが」
「お前はちゃあんと映ってるからそりゃ安心でしょうとも! 映ってないんだぞ!? 俺の姿が! 鏡に!」
ばんばんと鏡を叩いて訴える清正に、水月は「いいから落ち着きなさい」と清正の頭に手刀を入れる。その間、生徒会長と男子生徒が若干距離を取り始めたことにふたりは気付かなかった。
「ふたりとも!」
イナズカの声に水月と清正はハッとなって鏡を振り返る。
そこには再び、彼女が映っていた。
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