15
「話を戻すけど」
座り込んだ清正の横で水月はイナズカを振り返った。
「あれをなんとかするために私たちが必要だって話だけど」
「はい」
「どうにもできるか」
吐き捨てるように言う清正の背をつま先で小突いて黙らせた水月は、イナズカにその理由を尋ねた。
「その……私たちは、怨霊は鏡の中にいるもので」
それに水月は頷く。
「鏡の中にもうひとつ世界があると考えていて」
「……まさか」
しかし、続いた言葉に水月は嫌な予感がした。
「……はい。怨霊はあなたたちの世界にいるものだと、私たちは考えていたんです」
「いねえよ、あんな不気味なもん!」
叫ぶ清正の声を今度は止めず水月は頭を抱え、イナズカも困ったように頬に手を当てた。
「イナズカさんは、私たちが『こちら側』に来ていることを知っていたみたいだけど」
「はい。今朝方お詣りに行った際に、神様からお告げを頂いていたので。それでおふたりになんとかしてもらえれば、と思ったのですが……」
イナズカもまたため息をついた。
「文化祭の手伝いって『あれ』の退治のことだったのね」
「そうです……」
力なくイナズカが言う。確かにあんなものが校内のあらゆる鏡から出てくる環境で文化祭など呑気なことはやっていられないだろう。だがそれでも疑問は残る。
「なんでそんな回りくどい言い方を?」
なぜ最初からそう言わなかったのか、それを水月が問えばイナズカはやはり力なく首を振った。
「会った瞬間におふたりが逃げ出したので……なんとなく、思っていたのと違うかも……と感じたので……」
「ああ……」
勘、というやつだろう。確かに、あんなものと戦っているような人間ならば、ただ屋上の扉が開いただけで脱兎のごとく逃げ出したりはしないはずだ。
「……なあ、俺たちはどうやれば元の世界に戻れる?」
水月とイナズカの会話を聞いていた清正は、多少は平静に戻ったのか立ち上がって尋ねた。それに生徒会長が振り返る。
「君は逃げるのか」
「当たり前だ。聞いてみれば全部『こっちの世界』の話じゃねえか。無関係な人間だぞ、俺たちは」
ふざけんなと言わんばかりに清正が言い放てば、生徒会長は「う……」と言葉を詰まらせる。
実際問題として清正たちが彼女に対して無力であることは、たった今目の前が判明した。しかも、てっきり彼らと彼女のいる世界が同一かと思えば、そういうわけでもないらしい。となれば、清正の言い分は正しい。彼らはイナズカが言ったように「事故で」「たまたま」「こちら側に来てしまった」無関係の一般人ということだ。
だが。
「無理だ」
生徒会長は首を振る。
「は? 何が?」
「現状で君たちを元の世界に戻すことは難しいと言っている」
どういう意味だ、と清正は今度はイナズカを振り返る。それにイナズカも頷いた。
「不可能ではありません。ですが、難しいと思います」
「理由を聞いても?」
水月の言葉に生徒会長とイナズカは気まずそうに視線を逸らしつつ、イナズカの方が言葉にした。
「おふたりの帰り道も『鏡』なんです」
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