13
がた、と生徒会長とイナズカが立ち上がる。「どこに出た?」と言いながら生徒会長が部屋を出ていくのを、呆気に取られて見ていた清正と水月は「おふたりも」というイナズカの声に我に返った。
「行きましょう」
「え、行くってどこに?」
当然の清正の疑問は立ち上がった水月によって阻まれ、水月は座ったままの清正を「行くわよ」と急かした。
「えー」
「『えー』じゃない」
乱暴に水月に引っ張られ、清正は致し方なく立ち上がる。イナズカを先頭に三人は生徒会長を追った。
「なあ、『あれ』って何?」
「おふたりが見た、女の手のことです」
「はあ!? 帰る」
「待ちなさい」
回れ右をする清正の手を水月が素早く掴む。
「いやだって、あいつに追いかけられるのはもう嫌なんだけど!?」
「私も嫌よ」
「だったらなんで行くんだよ!」
だん、と足を踏ん張って歩みを止めた清正を、水月は振り返る。
「日中にも出てきたわね」
「そーだな」
「鏡面に類するものから出てくるのよ、あれ」
「そ――」
水月の言葉に清正は言葉を止める。生徒会室には鏡はない。鏡はなかった。だが。
清正たちを鏡のように写すものはあった。
「棚の扉もダメなのかよ!」
「アクリルやガラスなら嫌でも物が写り込むわ。だから何もない屋上に逃げるほかなかったんじゃない」
ああもう、と呻きながら清正は水月の手を振り払い、しかし歩みを再開する。清正が動きを再開したのを見計らって、様子を見ていたイナズカも再び歩き始める。
「だからってついて行かなくてもいいんじゃねえの」
「私たちは何も知らないけど、この人たちは何か知ってるでしょ。対策もあるんじゃないかしら?」
水月が前を行くイナズカを見る。それにイナズカはちらと視線を寄越し、それから首を横に振った。
「残念ながら対策はありません」
「ないのかよ!」
「もともと、私たちもあれをなんとかしなくちゃと思っていて、なんとかしてもらうための存在が、おふたりだったんです」
「いや、知らねーよ!」
嫌だぞあんなのと戦うのは、と清正が言うのに、水月も頷く。
「そもそもあれはなんなの?」
「あれは、怨霊と呼ばれるものです」
「どうしようもないやつじゃねえか!」
「おふたりの世界の怨霊と、私たちの世界の怨霊が同じものかはわからないんですけど、少なくとも私たちの世界の怨霊は倒すことができないんです」
「そりゃそーだ! 怨霊ってあれだろ? 主人を失った
「自然……災害?」
驚いたように目を丸くするイナズカに、清正は何か変なこと言ったか、と首を傾げる。
「あれが、自然災害なんですか?」
「怨霊は自然災害だろ……あ、いや、女の姿をした自然災害なんて聞いたことねーぞ」
「つまりイナズカさんの言ってるあれは『こちらの世界』の『怨霊』ってことよ」
清正に視線を投げられた水月が説明すれば、清正は「なおのこと知らねーよ!」と叫ぶ。
「こっちの世界での怨霊はなんなの?」
「こちらの世界では、神様の加護を得られなかった人の恨みや辛み、無念が形態化したものと言われてます」
イナズカは言い終わると共に「着きました」と言って足を止めた。続く二人も足を止める。
そこはごくごく普通の階段だった。三階と四階を繋ぐ階段を見下ろす形で三人は立っていた。数段降りたところでは、先に行った生徒会長と生徒会長を呼びにきた男子生徒が立っていた。清正にとっても水月にとっても、この階段は見覚えがある。コの字型校舎の中間地点に位置するこの階段は、校舎内を行き来する際に必ずといっていいほど使う階段だからだ。
おそらく、事前に知識がなければ違和感などなかったろう。何もなくこの階段を使ったことだろう。
鏡の中に女子生徒の影が映っていた。
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