12
「事故?」
イナズカ、と呼ばれた女子生徒の言葉に生徒会長が聞き返した。それにイナズカは頷く。
「はい、事故です。ふたりとも、意図せずこちら側に来てしまったものかと」
「そんなことがあるのか?」
「あ……ったんだと思います。でないと、説明がつかないし……」
言った本人も自信があったわけではないようで、助け船を求めるように清正の方をちらと見る。とはいえ、視線を向けられたところで、清正や水月は前提から訳が分からない状態だ。
ふむ、と考え込む生徒会長と、困ったように視線を清正に送るイナズカ。そんな目を向けられても困る清正は、代わりに水月を小突いた。
「なに?」
「こいつらが何を言ってるのか説明してくれ、こっち側ってなんだ」
「私にもわからないわよ」
「じゃあ聞いてくれ」
「自分で聞きなさいよ」
「俺は状況がさっぱりわからないんだよ」
「私もわからないわよ」
清正の要請に水月は「自分で聞きなさいよ」を繰り返したが、やがてはこうしていても埒が明かないと諦め、向き合うふたりに視線を戻す。
「あの、お聞きしてもよろしいでしょうか」
「うん? なにかな」
水月の言葉に、考え事をしていたらしい生徒会長が顔を上げる。
「はっきり言います、私たちには貴方たちが話していることの半分も理解できていません」
「そう……みたいだね」
「そのため、貴方たちの『お願い』の意図もわかりません。『こちら側』という言葉の意味もわかりません。そこから説明してもらえませんか?」
生徒会長がイナズカを見る。イナズカはそれに頷き、姿勢を正した。
「すみません、こちらで話を進めてしまって。改めて説明します。まず、『こちら側』の意味からでよろしいですか?」
イナズカの言葉に、水月は「お願いします」と返し、清正は特になんら反応はせずソファに深く凭れていた。
「まず『こちら側』とは、『私たち』のいる世界のことです。なので、おふたりのいる世界とは違います。こちら側とそちら側では見たり聞いたりできるものは同じなのですが、それらを構成するあらゆる法則が異なっていて、こちらでできることがそちらでできない、そちらでできることがこちらでできない、ということがあります」
「もしかして
「シフターが使えなかったのも……?」
「そちらでできることがこちらでできない」という言葉に、清正と水月は顔を見合わせる。自分たちの住む世界とは別の世界など俄かには信じられないものだが、元素の使役ができないという「異常事態」を経験したふたりには、イナズカが口にしたその言葉が真実味を帯びていた。
向かいでは生徒会長が「ふぁみりあ?」と首を傾げており、水月は小さく「信じられないけど、話は聞いた方が良さそうね」と清正に言った。それが聞こえたのか聞こえてないのかは不明だが、イナズカは構わずに話を進める。
「この二つの似通った世界は普段は別々に存在していて接することはないんですけど、ごくまれに今のように『隣接』することがあります」
「隣接?」
「はい、隣接です」
表現に違和感を覚えた水月が問い返すのに、イナズカは頷いた。逆に清正が水月の問いに疑問を投げる。
「何か気になったのか?」
「隣接ってことは隣り合っているという意味よ。つまり境界を跨げば辿り着ける距離ということ」
「それが?」
「仮にこの人たちの言葉が本当だとして、私たちが現に違う世界に来ているとして、それほど近い距離にある別世界を私たちが認知していないというのは不自然な気がして」
「え、でも普段は別々に存在してるんだろ?」
清正がイナズカの方を向く。それにイナズカは若干驚いたように身を強張らせ、それから「はい、まあ……」と曖昧に頷いた。
確かにこの話ができるということはイナズカの世界では清正たちの世界の存在が認知さているだろう。一方で清正たちの世界ではそのような話は聞かない。古い伝承などを調べれば出てくるのかもしれないが、少なくとも「よく聞く都市伝説」の類のレベルには存在しない。
「ええと、言ってることはどっちも正しくて、私たちの世界にはおふたりの世界が認知されてるんですけど、おふたりの世界で私たちの世界が認知されていないのには理由が――」
イナズカが説明を再開しようとしたところで、生徒会室の扉が勢いよく開かれた。
「会長! あれが! あれが出ました!」
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