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さて、と清正は水月を見た。水月もまた清正を見ていた。この突然の申し出にどうしたものか、ふたりとも決めあぐねているところであった。
そもそもそれ以前に二人ともこの女子生徒とは初対面である。清正は視線で「こいつ知ってる?」と水月に問いかけるが、水月はそれに首を横に振る。初対面の人間に文化祭の手伝いを請う人間などそうそういるだろうか、いや普通ならばいないだろう。第一に、クラスごとの出し物は各クラスで協力して行うものだし、第二に、全体の企画及び運営は文化祭実行委員が中心となって行っている。清正たちのクラスの文化祭実行委員は祐司と灯里の二人だ。
「ええと……誰かと間違えてますか? 私たちは文化祭実行委員でもないし、あなたのクラスとは違うクラスなんですけど」
水月の問いに、しかし女子生徒の表情は変わらない。むしろ、そんなことは知っていると言わんばかりに頷く始末だ。
「はい、あなたたちが本来無関係であることは知ってます。ただ、その上で手伝ってほしいのです。私たちではどうにもできなくて」
「いやいやいや、それは俺たちじゃなくて先生に相談しろよ」
「先生方でもどうしようもできないんです」
「それを俺たちに投げられてももっと何もできねーぞ」
「……具体的に、私たちに何を手伝ってほしいの?」
イライラし始めた清正を制するように水月が前に出る。
単純な人手不足、というのもあり得るが、同じ意味では必要としている元素に所属している子がクラス内にいないということもあり得る。水月はもちろんクラス分けの方法など知らないが、
とはいえ、初対面で相手の
不審だ。
水月の視線に込められたものに女子生徒も気付いたのだろう。困ったように視線を逸らす。
「それは……その……」
「そこを具体的に言ってもらわないと困るわ。私たちで手に負えるものかどうかもわからないし」
場が沈黙する。先ほどまでは勢いのあった女子生徒も、水月の淡々とした返しに勢いを削がれ、今や消沈の域に近い。
「……なあ、特に何もないなら帰っていいか?」
やがて口を開いたのは空気に耐えられなくなった清正であった。
「清正、授業は」
「俺、今日はサボるわ。というか風呂入って布団で寝てえ。お前も帰ったら? 女子がその姿はどうかと思うぞー」
「それは、まあ……」
きっ、と帰ろうとする清正を叱った水月だったが、清正の最もな指摘に口を閉じる。池に落ちてそのまま自然乾燥させた髪はぱさぱさのぼさぼさだ。清正に言われるまでもなく、人前に出られるような状態でないことは自覚がある。
「というわけで俺ら帰るわ」
「ちょ、勝手に人を巻き込まないで――」
「待ってください!」
水月の手を取り、女子生徒の脇を通り抜けようとした矢先、女子生徒が意を決したように声を上げた。それに清正がめんどくさそうに女子生徒を振り返る。
「なんだよ?」
「……鏡から出てくる女の子」
胡乱げなものを見る目で女子生徒を見ていた清正は、しかしその言葉に水月の手を離した。水月もまた、目を見張って女子生徒を振り返る。
「身に覚え、ありますよね?」
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