第二章
9
それは日課だった。
こちらに来てから毎日欠かすことなく行ってきた日課。雨が降っていようと、雪が降っていようと、台風が来ていようと、構わず行ってきた日課。
神様など信じていなかった。
けれど、毎日のようにその祠に行った。誰かに強制されているわけではなく、自分の意志で行っていた。
なぜならば、それは日課だったから。
人気がない時間に参道に入り、鳥居を二つ抜けて、参拝する。
やらない日などなかった。
だから、その日もやった。
けれどその日は、いつもとは違った。
◇◇◇
ばん、という扉の開く音に、清正も水月も全身を強張らせ、そして次の瞬間には二人とも音とは反対側に走り出していた。昨日までにはなかった瞬発力だ。良くも悪くも、たったひと晩の経験が二人を不審な物音に敏感にさせていた。
「待って!」
だが、昨日と違うところがあったとすれば、二人を呼び止める声があったということだろう。
「待って、あの……内緒にするから!」
先に足を止めたのは清正の方だった。
つんのめらないように減速しながら足を止め、振り返った清正が見たのは、屋上の出入口に立つ、この学園の高等部の夏服を着た、女子生徒。顔があり、胴があり、手があり、足がある。まごうことなく生きている女子生徒。
清正が足を止めたのに少し遅れて、水月も足を止めた。
「ええと……」
どうにも説明のし難い状況に、清正が参ったように頬を掻きながら水月を振り返る。水月は水月で相手が普通の生徒であったことに安堵したのか呼吸を整えているところであった。
女子生徒が歩み寄ってくる。なんとなく雰囲気が昔の水月に似ていると清正は思った。
「あー……ええと、私たちは」
落ち着いたらしい水月が清正からの視線にこの状況のやばさを思い出し、なんと説明しようか悩みながら言葉を発するが、うまいこと形にならない。そもそもこんな朝早くに男女二人で屋上にいるというのも不自然だというのに、二人の姿は明らかに昨晩帰っていないのがわかる状態だった。うまい言い訳などありようもない。
むしろここは正直に話して――ある程度の事実は伏せるとしても――身の潔白を証明した方が良いと判断した水月が「実は」と腹を括ったところで、女子生徒は「お願いがあります」と言った。
「は?」
「へ?」
予想だにしない言葉に、清正も水月も間抜けな声を出す。
それもそうだろう、二人ともこの女子生徒とは初対面で、名前も知らなければ学年も知らない。そもそもお願いをされる要素が不明だ。
そんな二人の戸惑いなどお構いなしに、女子生徒は顔を上げて清正を、水月を見た。
「どうか、文化祭の準備を手伝ってほしいんです」
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