第7話 闇 七

 「はーい。今からこの世界の闇を浄化しまーす!」

足立の口調は、激昂した時より前の、おどけたものに戻っていた。

 そしてその手には、トイレの蛇口につないだ、ホースがあった。

 『お前こそがこの学校の闇だろ!』

僕は心の中でそう思うものの、そこから先は声が出ない。

 「だいたいてめえよお、『人を不幸にする闇属性』って何だよ!

 ホント、親不孝者だよな!」

見る者をゾッとさせるような薄ら笑いを浮かべて、急に足立が怒鳴る。またその友達(取り巻き連中)も、そんな気味の悪い笑みを僕に向ける。

 「ってかお前の親も、闇属性なのか?

 ってことはお前の父さん母さんの職場の人、大変だよな~!

 親子そろって『闇家族』じゃね?」

 …僕自身のことは、何を言われても耐えられる。実際、この「闇属性」にも、それに伴う誹謗・中傷にも、慣れてきている。

 …でも、僕の家族のことを悪く言うのは、許せない。僕の両親は…こんな僕を見捨てずに育ててくれているんだ。

 「親を悪く言うのは止めろ!」

次の瞬間、僕は声をあげていた。

 「何~ずいぶん生意気じゃねえか。

 じゃあ、闇を洗い流しまーす!」

足立はそうふざけて言い、蛇口の所に立っていた取り巻きに合図する。するとそいつは蛇口をひねり、そして足立がホースを僕の所に向ける。

 勢いよく出た水は、僕の顔面を直撃した。そして、その水は全身に広がる。

 「ウッ、ゴホン。」

僕はうめき声にも似た声をあげる。そして、柔道経験者の足立は、そんな僕に何のためらいもなく柔道の技をかける。

 そして、武道未経験で運動神経も良くない僕はその技をよけきれずに、床に打ちつけられる。

 「ああ~すっきりした!

 悪霊、いや闇男退散!」

「ホントだ!まあ闇男はうちの学校の疫病神だもんな!」

そう言って足立たちは、その場を去る。その時、僕は…。

 柔道の技をまともにくらった物理的衝撃で、また、いやそれ以上に何もできなかった自分への悔しさで、その場の床に寝転んだまま、しばらく動けなかった。

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