男子禁制のフェアリー・ガーデン


 ここは服飾部。

 男子禁制のフェアリー・ガーデン。


 少女達は肩を並べ、紡績や機織り、裁縫にそれぞれ勤しんでいた。


 手元では綺麗な洋服を縫いながら、みな、継ぎ接ぎだらけのボロを着ている。

 ――――どうして作った物を着ないんだろう。

 そのせいで原始人に拍車が掛かっているのだ。


 不思議に思っていると、赤髪の少女がやってきて俺の机に大量の紙束を置いた。

 洋裁の製図だ。


「作れそうな物を選んでね。型紙とか、生地は倉庫にあるから」

「……作った物はどこに行くんだ?」


 俺の質問に、少女はギクッと固まった。

 彼女もみんなと同じ、原始人のワンピースを着ているが、丈は全く合ってない。


 見た目は人間の14歳ほど。

 集団で一番背の高い彼女が着るボロは、パツパツだった。

 彼女が頭を掻くと、殆どない股下が更にずり上がり、白い下着がチラと見える。


「えっとね……、街だよ。外の」

「どうして俺達はボロしか着られないんだ?」

「……そういう決まりだから」

「それは、なんのための決まり?」

「……たはは。オバールも手を焼くね、これは」

「聞いちゃいけないことなのか?」

「そう、だねぇ。うん」

「……ガキは知らなくて良いって?」

「そうは、言いたくないけれど。まぁ。……むくれないでよ、ダダン。キミとは仲良くしたいんだ。親近感あるしさ」

「……親近感?」

「私もハーフなの。人間・・の」


 言われてみれば確かに。ドワーフにしては背が高すぎる。


「手先が器用な子だって、オバールに聞いててね。前々から興味あったんだよ」

「そりゃどうも」

「……女の子ばっかりだと、やりづらい?」

「目のやり場に困ることはある」

「え?」

「……色々見えてるんだけど。無防備なのか、からかわれてるのか」

「あはは。みんな隠すのに慣れてないだけだよ」

「『見えてる』って教えた方がいいのか?」

「んー。……指摘されたら恥ずかしいと思うし、見てないフリしてあげて」

「わかった」


 ――――このお姉さん、ド天然だ。

 赤髪の少女は柔らかく笑って、俺の机にお尻を預けた。


「何かあったら相談してね。私、ここの責任者だし。あぁ、そうだ、名前。――――ヒイロ、っていうの。よろしくね、ダダン」

「よろしく、するのはいいけど。そっちに抵抗はないのか?」

「抵抗?」

「男子禁制の部署に、男をねじ込まれてさ」

「ないない! むしろ男の子が心配になるよ。玩具にされるんじゃないかって」

「……もうされたけどな?」

「あはは。けどまあ、仕方ないよ。レヴィの護衛なら、なるだけ近くにいた方がいいもの。最近ちょっと物騒だから」

「……陛下の心配は分かるけどさ」

「オバールおじさんも言ってたよ。『あいつには物作りの才能がある。良い機会だから、ヒイロの方で面倒見てやってくれ』って」

「……厄介払いしやがったな、あのオヤジ」

「お。問題児の自覚はあるんだねー? 採掘部では、なにやらかしたの?」

「別に。……毎日怒られてただけさ。ノルマが達成できなくて。……力仕事は苦手なんだ」

「うん? 私が聞いてた話と違うなー」

「……オバールはなんて?」

「『あいつはもう、一生分の石を掘り終えた』ってさ」

「なるほど。……見ようによっては、そういう言い方もできるか」

「どゆこと?」

「ダイナントカ! すごかったのよ! ドカーンって! ドカーンって!! ママの魔法ぐらいすごかったの!」


 隣の席のレヴィが急に身を乗り出した。


「へぇ。私も見てみたいな」

「無理だよ。次やったらゲンコツが落ちる」

「そっかそっか」


 ヒイロは苦笑して、俺を撫でた。


「……私は、オバールほど厳しくできないし、強くもないの。……危ないこと以外は怒らないからさ。のびのびやってくれると、嬉しいな」

「いいのか?」

「……ほどほどに、こっそりね? あんまり羽目外されると、私が怒られちゃうから」


 しーっ、と口元に指を添えて。


「それと作業で分からないことあったら」

「あたし! あたしが教えたげる! 先輩だもんね! ね、ヒイロ!」

「ん。頼んだよ、レヴィ」


 ヒイロは優しげに微笑んで、自分のデスクに戻っていった。

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