火と風の遊園地


「すっごーい! なにここっ、なにここ!」


 レヴィのはしゃぐ声が洞窟内に反響する。

 外界を知らない彼女には、これが遊園地に見えているのかもしれない。


「これ全部、ダダンが作ったの?!」

「まあな」


 岩でカムフラージュした扉をくぐり、階段を降りた先。

 大きな空洞が、そこにある。

 玄武岩の黒いドームを六角柱の巨岩が支え、張り出した蛍光石から光が注ぐ。

 階下にはずらりと立ち並ぶ機材、レンガの炉。蒸し器が少々と、旋盤、その他エトセトラ。

 それらが絶え間なく稼働し、ギアを回している。


 原動力は風だ。

 ドワーフ的に言うなれば、山の呼吸。

 床の開いた数cm~数十cmの亀裂クラックから、天井の孔に向かって風が吹き抜けている。

 それを羽根で受けたり、ふいごに引き込むことで、機材を自動化している。

 空気の循環があるので、ここで火を焚いても一酸化炭素中毒にはならない。


 とはいえ風は一日二回。決まった時間にしか流れてこない。ここでの冶金術には限界があり、それでも俺には大切な物だった。



 ここが俺の弱み。『秘密の研究室』だ。

 以前、独自の設備を持っていると、少し話したことがある。

 それがここだ。


 開拓し始めたのは歩けるようになってすぐ。

 それから大型機材を少しずつ建造し、チョロマカした鉱石も貯めている。俺の全財産といっていい。


 ここが吹き飛んだり、バレて接収された日には大変な痛手になる。

 レンズや銃身、様々なものが作れなくなるだろう。


 だから誰にも――親にさえも――教えるつもりはなかった。


「じゃあ、どうして教えてくれたの?」

「……奴隷ってのは、財産だ。……拾った財産を宝物庫に運ぶ。なにも間違ってない」

「ふーん?」


 ニヤニヤと微笑むレヴィ。


「なんだよ」

「別にー? ダダンはやっぱり優しいなーって」

「バカ言え。俺は合理的に動いてるだけだ」


 俺と違って背負うもののないレヴィは、身軽に駆け出す。

 ポコポコとギアを動かす錬成釜を見上げ、「わぁっ」と歓声をあげた。


「ねぇ見て! こんなにデッカいの、ひとりでに動いてる!」

「あー、そこはそろそろ……」

「え?」


 軽やかに揺れるワンピースが、ぶわっと全開に捲れあがった。まるで壊れた傘のよう。リボン付きのしましまパンツが、ばっちりくっきり晒される。


「きゃあっ?!」

「……風が出るから気をつけろ、って言おうと思ったんだ」

「は、早く言ってよ!」


 なおも噴き上がる突風に、逆巻くピンク髪。スカートの端を抑えたレヴィが睨んでくる。


「……いま、見た……?」

「見てない見てない。置いてくぞ、しましま」

「……ぜっ、前言撤回っ! ダダンはやらしい!」

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