一肌脱ぎましょう


「なんなの!? ルディクロって!」

「――――魔獣の幼体だ」


 坑道を走りながら、レヴィの質問に答えた。


「奴らは、体の内側に化け物を育ててる。幼い頃は人と同じ。だけどある日を境に人殻じんかくを破って、魔獣に成り代わる。――――身も心も怪物。親兄弟、友人恋人を食った事例は枚挙にいとまがない」

「ジェイドがそうだっていうの!?」

「赤い紋章を見ただろ。それが目印だ」


 トンネルを抜ける。

 プラネタリウムの出入り口は里の郊外にある。

 ここから族長の家まで子供の足で15分。

 ルチル・ド・ヴェルグに報告すれば、魔法で立ち向かってくれるはずだ。


 そう考えて走り出す少年を、レヴィが引き留めた。


「ダメ!」

「なんだよ。――――、もしかしてお前の母ちゃん、また出掛けてるのか?!」

「いるけど!」

「だったらなんで!」

「今帰ったら、みんなを巻き込んじゃう!」


 ――――俺達がどっちに逃げたかなんて、相手には分からない。

 一刻も早く戻って、みんなに「避難しろ」と伝えるのが最善策だ。


 普通はそう考える。

 だが、相手は『蛇』だ。鼻が利く。

 その兆候は以前からあった。

 ジェイドが俺達の居場所を当てたのは、一度や二度ではない。

 里の中心に逃げれば追ってくるのは確かだ。


 レヴィはそこまで考えていないだろう。

 蛇の特性を知らないまま、『里に戻ってはいけない』と直感したのだ――――。



「あっちには動けない人がいっぱいいるの!」


 以前にも大蛇が暴れたばかり。

 深傷を負った騎士達が今も床に伏せっている。

 彼らを野戦病院ごと磨り潰す訳にはいかない。それがレヴィの主張だった。


「……里を守る連中を、守るのか。本末転倒だな」

「それが魔宝使いだもの」

「死ぬかもしれない」

「……だとしても!」


 少年は溜息交じりに「甘いお姫さんだ」と呟いた。

 そしてズバッと、豪快に自分の服を脱ぎ出す。上も下も、全て。


「きゃあ!? な、なにしてるの!?」


 悲鳴を上げて顔を覆う少女へ、脱いだ服を押しつけた。


「仕事だ。そのわがままに付き合ってやる」

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