ねぎらいと報奨と
ドワーフの女王・ルチルは里に戻るなり、その惨状を目の当たりにした。
破壊し尽くされた住居、生き埋めになる
従者が言葉を失う中、彼女はテキパキと指示を飛ばし、人命の救助に当たった。彼女のカリスマたる
大蛇討滅の知らせを受けたのは、半数を治療し終えた頃。
更に治療を進め、里が落ち着きを取り戻した後、部隊を再編して報告のあった場所に向かう。
蛇の亡骸は忽然と消えていた。
巨体を引き摺った跡が残されていたため、暫く追跡したが、徒労に終わった。
血痕が闇深い渓谷に落ちていたためだ。
ここから下は鉱山の更なる深層。王族さえも立ち入れない。
この高さから滑落したのなら、最早生きてはいないでしょう。――――従者はそう進言し、ルチルもそれに頷いた。
◇
「〝黒蛇〟を倒したのは、あなたたち三人と聞いたけれど。それであってる?」
高い玉座で足を組むドワーフの女王は、
オバールが「間違いねぇです」と答えると、女王陛下は頷いた。
「ご苦労様。……オバールが倒すのを、二人が手伝ったのかな?」
「いえ、トドメを刺したのはダダンで、むしろ俺は助けられました」
オバールは実直な男だ。見栄も張らなければ世辞も言わない。
そんな男から嘘のような話が飛び出すと、女王は意外そうに目を見開いた。
「へぇ……。それはすごいね。詳しく聞かせてくれる?」
老兵が仔細を報告し、他の者は黙って聞き入る。
――――大蛇の頭をダダンが吹き飛ばした、という下り、女王の従者の半分が驚き、もう半分は俺に懐疑的な目を向けた。
「本当にあったことよ! 疑うならここでやって見せたっていいわ! カガクは何度だって再現できるんだから! ね? ダダン!」
「いや、あの、レヴィ。……もう弾がない」
「……ほ、本当なの! 本当にダダンが倒したの!」
「大丈夫よ、レヴィ。……オバールの報告を疑ったりしないわ」
ルチルが玉座から立ち上がり、再び俺達の顔を見た。
「里を守ってくれた三人に、褒美を取らせましょう。何か、希望はあるかな?」
「結構です。里の無事と、そのお心が何よりの報酬です」
オバールは世辞を言わない。本気でクソ真面目に騎士の鑑みたいなことを言っているのだからタチが悪い。
――――俺が要求しづらくなるだろうが!!
「はいはいはい! あたしはね! あたしは、おやつを増やして欲しいの!!」
「レヴィには新しい魔導書をあげましょう」
「いやああああっ?! なんでぇ?!」
崩れ落ちるレヴィ。女王様の視線は、まっすぐ俺に向けられた。
「ダダン。あなたの望みは?」
「俺は――――、騎士になりたいです」
謁見の間がざわめいた。
ぽかんと口を開けていたオバールが我に返り、「滅多なことを言うな」と割って入る。
女王が杖を振ると、彼らはピタリと声を失い、場内に静寂が戻った。
「どうして騎士になりたいの?」
「騎士になれば外に出られる。――――俺も地上を歩きたい」
「通行証が欲しい、と?」
「そうです」
「……困ったわね」
ルチルは微笑みを維持したまま、眉を下げる。
「騎士の自由は、義務の上に成り立つもの。危険な前線で体を張ることになるわ。――――若気の至りで済まないことも、起きるかもしれない」
「覚悟の上です」
「……あなたの体は今、あなただけのものではないの」
「どういう意味です?」
「来月の神事で、あなたは姫巫女の手を取る。――――テリア様が選んだ神聖なパートナー。失うわけにはいかない」
「……、……」
「……けれど、それも建前。……あなたを死地に送れば、あたしは娘から一生恨まれることになるでしょう? ……実に困ったことだわ。――――臆病な母親よね」
女王はゆっくりと壇上を降りながら、自嘲気味に嘆息した。
そして一人の従者の前で止まる。
「だからね、チャンスをあげる。……この子と決闘して、勝てたら叙任してあげましょう。それがご褒美。――――どうかな?」
そう言って女王が引き立てたのは、精悍な近衛騎士だった。
若くして多くの武功を挙げ、不死身のデリーの異名を持つ、ドワーフ騎士団きってのエリート。
レヴィは「あぁっ」と叫んだ。
「ズルいわ、そんなの! 勝てっこない! ダダンは、殴り合いじゃ滅法弱いのに!!」
「……でもね、レヴィ。騎士が矛を交える相手は、化け物だけじゃないのよ」
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