天才の価値

 虫の汁を啜る地獄の日々は、半年ほど続いた。


「歯、生えそろってきたね。そろそろ離乳食にして大丈夫かな」

「そだね。あたしの所もそうするつもり」

「なら一緒に作るでち!」


 幼い母親達は連れだって台所に向かった。

 俺の隣には同い年の赤ん坊が一人「あーうー、だーだー」とアホ面を晒している。

 ピンク色のショートヘア。男か女かは分からない。

 ただ間違いなくアホということは分かった。


 俺が見向きもしない木製のおもちゃを、手当たり次第に舐めしゃぶってる。

 別に使わないからいいが、どんだけ食い意地張ってるんだ。

 ……いーよ、寄越すなよ、しゃぶらねぇよ。



 それから暫くして、出てきた料理は砂だった。

 いぶされた砂。それ以外の何物でもない。


「はい、あーん♡」


 ようやく虫から解放されるかと思ったのに、まさかの虫以下。


「大丈夫。食べ物でちよ。ほら」


 母はそう言って、砂を喰ってみせた。


「おいちぃ、おいちぃ」


 マジかこいつ。


「ダダン、あ~ん♡」


 覚悟を決めてスプーンを受け入れる。

 ジャリ、と砂を噛んだ。

 その途端、口当たりの良い旨みが広がった。

 例えるなら醤油ベースの鶏そぼろ。噛めば噛むほど沁みていく。

 単なる砂なのに。ゴクンッ、と飲み込めてしまった。


「きゃあっ?! た、食べちゃダメ! レヴィ!」


 隣で悲鳴が上がった。

 見れば先程の赤ん坊が、石のさじをバリボリと喰っている。

 慌てふためく母親達を尻目に、石の器まで貪り始めた。


「おい、どうした!?」


 飛び込んでくる髭面。

 直ぐさま赤ん坊から石製の食器を遠ざける。


「木の匙を使えと言っただろ?! 赤ん坊にはまだ区別が――――」


 ふと、髭面が俺を見て止まった。


「ダダン、お前……、もう石の食器が使えるのか?」

「天才!」「天才でち!」


 この洞穴の天才は、あまりに安い。

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