第103話 毒ミートゴーレム

 三日経ち満月の夜、辺りが寝静まった頃にスタンピートが始まった。

 毒ミートゴーレムを一列に並ばせもり松明たいまつを持たせた。

 食用に適さない肉を使ったため、毒ミートゴーレムは猛烈に臭い。

 魚の魔獣が岸近くを歩いている毒ミートゴーレムに食いつき始めた。

 銛で応戦する毒ミートゴーレム。

 反撃は成功したのも居れば、食いつかれて水に引き込まれるものもいる。

 水に引き込まれた物は容赦なく食らわれた。


 食った魚魔獣は毒に犯され腹を上に向けて沈んでいく。

 その死んだ魚魔獣を食う奴もいて、辺りは毒の連鎖反応の場と化していた。

 今回使った毒は魚にしか利かない毒で、人体にはほとんど影響がない。

 ただ食わせないと効力を発揮しないのが玉にきずだ。


「死んだ魚魔獣をどんどん陸に上げてくれ」


 岸近くが魚魔獣の屍骸で埋まったため、俺は教会兵に指示を出した。


 教会兵はおっかなびっくり岸に近づき、棒にフックのついた物で魚魔獣を引き上げていく。


「うあ」


 水弾が撃たれた。

 俺は土魔法でガードしてやったが。

 土の盾の範囲外にいる教会兵が吹き飛ばされた。


「いてぇ。離せ」


 教会兵が脇腹わきばらを魚魔獣に食いつかれていた。


「今、助ける」


 同僚の教会兵が銛を打ち込む。

 また別の教会兵は魚魔獣が吐いた酸に鎧を溶かされていた。

 このような光景がそこらかしこで展開された。


 用意した百体の毒ミートゴーレムの数が少なくなって来たな。

 まだ、大河は沢山の背びれで埋まり、まるでおろし金のような風景を見せている。

 切り札を切るか。

 魔力ゴーレムを水中に潜らせ爆発させた。

 爆雷作戦だ。

 水柱が上がり辺りに血の臭いが充満する。

 どんどん行くか。

 大河の水面の背びれが一掃された時、冒険者ギルドより大きいシルエットが空中に飛び出した。

 四メートラの波が起こり俺達は水に引き込まれそうに。

 この対策として綱を体につけていたから事なきを得た。

 魔力ゴーレムを迎撃に向わせるが、爆発の魔法は効果がなかった。

 ダメージにはなっているけど駄目みたいだ。

 水面は再びおろし金のようになっていた。

 雑魚を先にやっつけよう。



 魔力ゴーレムを引っ切り無しに爆発させる。

 雑魚といっても3メートラほどの魔獣が次々に死んで行く。

 ボスはどうするかな。

 あの巨体では街の水路には入ってこれないだろう。

 毒ミートゴーレムに期待だな。


 毒ミートゴーレムをボスの近くで泳がせる。

 大きい口を開け毒ミートゴーレムを飲み込んだ。

 やったぞ。

 ボスは何度かパクパクと口を開けて苦しそうにした後に沈んでいった。


 水路には雑魚の魚魔獣が沢山、入り込んでしまった。

 水路を辿って、明朝の人気の無い街を走る。

 魚魔獣は建物に水弾や溶解液で攻撃をしている。

 水面に顔を出す背びれがライタの世界にいるサメを連想させた。


 魔力ゴーレムを水路に泳がせで、水の刃で水路にいる魚魔獣をずたずたに切り裂く。

 俺は走るのを辞めて移動を水魔法の循環に切り替えた。

 石畳を滑る様に移動しながら途中の魚魔獣を切り裂いていく。


「かかって来い魚野郎」


 子供が剣をもって水路の近くにいる。

 見たらあのリリオネルだった。


 水弾がリリオネルに迫る。

 土魔法のガードは間に合わないのでこちらも水弾で相殺する。


「ひっ」


 水弾と水弾はぶつかり水滴をキラキラと撒き散らした。


「危ないぞ。隠れてろ」

「嫌だ。父ちゃんの仇を討つんだ」

「いいから。水魔法に乗れ」


 リリオネルは大人しく水魔法に飛び乗った。

 リリオネルに気を使いながら、討伐を再開する。


「凄い、みるみる魚魔獣が死んでいかぁ」

「たまに水弾や溶解液が飛んでくるから気をつけろ」

「うん」


 日が真上にくる前に全ての水路を回る事ができた。

 人々は切り裂かれた魚魔獣を引き上げ干物を作り始めている。

 今回は楽勝だったな。

 毒ミートゴーレムは雑魚にはいまいちだったけど、ボスにはてきめんだった。

 爆雷は反対に雑魚には効いたな。

 予想では逆だったんだけど些細ささいなことだ。


「いいか、勇気と蛮勇は違う。武力は誇る物ではなくて人を守る為に使うものだ。この言葉は受け売りだけどな」


 俺はリリオネルに説教した。


「よく分からないけど、大事な人を守る為に戦ったらいいんだよね」

「そうだな」

「坊ちゃん、探しましたぞ」


 息を切らした老人が駆けつけて言った。


「じい」


 五世なんて物がついていたから、良いとこの出だとは思っていたが、爺やがいたとはな。

 リリオネルの格好は貴族には見えない。

 爺やの目つきや仕草には冒険者のような雰囲気を感じさせるものがあった。

 訳ありかな。


「あなたが坊ちゃんを助けてくれたのですか」

「まあ、そうだな」

「坊ちゃんの名前は聞きましたかな」

「ああ、リリオネル五世と」


「そうですか。ご足労ですが、明日家まで訪ねてはもらえませんかな」

「スタンピートも収まったことだし、明日お邪魔するよ」


 何か話があるんだろう。

 推測するにリリオネルの出生と関係がありそうだ。

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