第83話 知恵比べ

 リンナが部屋に尋ねて来た。


「今日は探索に私も連れてってもらうわよ」

「居ても立っても居られないって、感じだな」

「このまま、ミリタリーアントの件が風化するのが嫌なのよ」

「そうか、好きにするさ」


 俺とリンナは連れ立って無言で森を歩く。

 苔が足音を吸収する。

 そればかりか周囲の音も吸収するようで、ゴーレムの鉈を振るう音がやけに響く。

 猿の魔獣を魔力視が捉えたので俺は銃魔法を撃った。

 どさりと猿の魔獣が落ち、リンナが期待のこもった目で魔獣をみた。

 ワーカーアントかと思ったんだろう。


「よし、ミリタリーアントの巣を見つける為にどうしたら良いか一緒に考えてやる」

「うん、一緒に考えましょ」

「あぶり出さないとどうしようも無い」

「ワーカーアントが出入りしていた巣穴に煙玉を放り込むのよ」

「巣穴を探して森を歩くのも大変だ。もっと効率の良い方法があるはずだ」


 ワーカーアントとソルジャーアントは臭いで繋がっていた。

 ワーカーアントも帰り道は臭いで探っていたはずだ。


「臭いをなんとか突き止める方法があればな」

「嗅覚強化スキルがあれば良いのね」

「味覚強化はあったんだから、有ってもおかしくは無いが。聞いた事はないな」


 俺は味覚強化の応用で臭いを感じる神経の信号を魔力で強化する。

 出来たぞ。


「何っ。じろじろ見て」

「今日の朝飯は山菜のサラダとキノコのパスタだろう」

「当たってる。嗅覚強化を覚えたの」

「ああ、これでミリタリーアントの痕跡が追えるはずだ」


 ゴーレムに先導されて森を行く。

 聞いた事の無い甲高い不思議な音色の声で鳥が鳴いた。

 腰掛ほどの大きさのキノコがある。


「触らない方が良いわ。とっても臭いわよ」


 俺が突こうとしたら注意された。

 すまん不注意だな。

 嗅覚が強化されているのに臭いのを食らったら大変だ。




 倒木の下にワーカーアントが道につけている臭いを見つけた。

 そこから、道しるべのようについている臭いを辿った。

 巣穴は見つかった。

 やはり人間は通れない大きさだ。


 ソルジャーアントの臭いも同様に追跡する。

 ワーカーのすぐ側で臭いは見つかったが、途中で泥まみれになって道しるべの臭いは途絶えていた。

 頭の良い事だ。

 巣穴に帰る前に臭いを泥で落としたな。

 人間対策というより他の魔獣対策だろう。

 一筋縄では行かない。

 この付近に巣穴がある可能性がある。


「ここら、一帯が怪しい。手分けして探そう」

「ええ」


 二人でへとへとになるまで探したが、本道の入り口は見つからない。

 今日はここまでだな。


「帰るぞ」

「でもまだ手掛かりをつかんでない」

「知恵比べみたいなものだから。焦っても仕方ないさ」

「そうね。なんで本道の入り口が見つからないのか考えてみるわ」


 宿に帰るとモリーとユフィアが待ち構えていた。


「ハサミ、千個できたよ」

「頑張りました」

「そうか、偉いぞ」


 作ったのはゴーレム騎士団の面々だと思う。

 魔力充填も作ったうちに入るのかという突っ込みはしない。

 魔力充填もそれなりに大変だからな。


「へへーん。治癒魔法と洗浄スキルも覚えたよ」

「私も照明スキル覚えましたわ」


 子供は成長が早い。

 もっとも魔力ゴーレムのサポートがあってこそだけど。


「そうか、じゃあ次の課題も考えとかないと。ところで冷却地雷はどうなった」

「そうそれ。ミリタリーアントの片付けが終わったら、子供達が大量に盗んで行ったって」

「そうですわ。マリリさんが嘆いてました」


 魔力を充填すれば何度でも使えるからな。

 作った材料費はギルドと方がついている。

 ミリタリーアントの素材を売却したお金から払ってもらえる事になっていた。

 だから俺は損はしないけど、ギルドは丸損だな。

 なんか思惑があるのかな。


「なんでも、無料配布すれば市民が簡単に虫魔獣を狩れて良い事ずくめだとか」


 そうユフィアが言った。


 虫魔獣の間引きを一般市民にやって貰おうって腹積もりなんだな。

 上手くいくと良いけど。


「よし今度、虫魔獣退治に連れてってやろう」

「やった」

「殺すのはどうも」

「ユフィアは見ていれば良い。ゴーレムの訓練も怠るなよ。主戦力はゴーレムだからな」

「魔木のゴーレム欲しい」

「よし、二人に余っているのをプレゼントしよう」


 二人はゴーレムを連れてウキウキした足取りで部屋をでていった。




 次の課題は俺が覚えている生水、種火、冷却、送風、乾燥の生活魔法だな。

 その簡易魔道具を作ってもらうとしよう。




 ミリタリーアント対策も何か考えないと。

 ミリタリーアントは臭いに敏感だ。

 じゃあ臭いのしないものはどうだ。

 気にしないんじゃないか。


 なら、まず塗料の入った袋を用意して小さい穴を開ける。

 それを冷却地雷にかかったソルジャーアントにつける。

 そうすれば安全に後をつけられるはずだ。

 臭いのしない塗料なんてあったかな。

 無ければ作るか。

 臭い消しに使われている石灰に色を付ける。

 色が問題だ。

 色は染料だから臭いがする。

 臭いのしない染料なんて思いつかない。


「がぁ駄目だ。ライタ、助けて。臭いのしない染料がほしい」

『そういう時は木を隠すなら森の中だよ』

「どういう事」

『ミリタリーアントの身体の色素を抽出して使ったら良い』

「上手くいくかな」

『きっと行くさ』


 俺はソルジャーアントの甲殻から色素を抽出する。

 黒い色をしているミリタリーアントだが、抽出すると茶色が濃くなった物と分かった。

 さらに黒い成分を抜くと赤い染料が出来あがり、それを石灰の粉と混合して塗料は完成。

 後はミリタリーアントが再び活動するのを待つだけだ。

 知恵比べに勝てるかな。

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