第84話 ローブ男の影

 ミリタリーアントの情報をいち早く得る為に俺は酒場で安酒を飲んでいた。

 酒はあまり好きではないけど、酒場で酒を飲まないと目立ってしまう。

 こんな事をしなくてもギルドには毎日情報が入ってくるのたけど、一番情報が早いのはここだと受付嬢に教えられた。

 フェミリさんの教え通り受付嬢にはプレゼントという情報料を払った。


 お勧めの酒場だけあって冒険者は途切れなく入って来て色々な事を喋る。

 ただし、ミリタリーアントの情報だけが無かった。

 酒場の外に見覚えのある魔力を捉える。

 あの外道な実験をしたローブ男だ。

 慌てて席を立ち、後を追いかける。

 何度も曲がり角を曲がり、怪しい店が立ち並ぶ一角に差し掛かった。

 あれ、ローブ男が居ない。

 どこに行った。


 見回すと辺りにはすえた臭いが充満して壊れた瓶や汚物が転がっている。

 たぶんローブ男は地下だな。

 地面の魔力が邪魔で普段は地面の下は魔力視で見ていない。

 通り過ぎた場所のどこかの地下に入ったに違いない。

 引き返そうとすると獣人と人間の男達に挟まれた。


「兄ちゃん、ちょっと恵んでくれないか」

「なんで俺が。他を当たれ」


 俺は冷たく突き放すように言った。


「払わねぇってんなら考えがあるぞ」


 男達はナイフを抜いて構えた。

 馬鹿だな。

 魔力視は後ろも見えるから不意打ちは通用しない。

 俺はアイテム鞄からトレントゴーレムを五体出した。


「なにっ。はったりだ。五体も同時に操れる訳はねぇ」

「どうかな」


 ゴーレム五体は同時に動き出し硬い拳で男達を打ちのめした。

 今日は空ぶってばかりいる日だな。

 情報は集まらないしローブ男には逃げられる。


 呻いている男達を尻目に一角を後にする。

 角を曲がろうとすると魔力視に反応がある。

 新手か。

 見ると酔っ払いが座り込んでいた。

 黄色い歯に濁った目。

 典型的な酔っ払いだな。

 手には素焼きの瓶が握られていて、震える手でもう一方の手のコップに黄金色の酒を注ぐ。

 蜂蜜の匂いがしたような気がする。

 何だ蜂蜜酒か。

 俺がさっきまで飲んでいた薄いエールより何倍も上等な物を飲んでるな。

 金は無さそうなんだけどな。


 俺が見ているのが分かったのか酔っ払いは歯をむき出し。


「いひひひひ。虫が皮膚の下を這いずり回りやがる。生首が地面を歩いて、ひっひっひっ」


 酷い酔い方だなあんなになるまで飲まなくても良いだろうに。

 俺は足早にその場を後にして大通りに戻って来た。


 ギルドに顔を出す事にした。

 親しくしているエルフの受付嬢に話し掛ける。


「ミリタリーアントの情報は?」

「無いですね。それよりこの間もらった動くぬいぐるみ。自慢したら先輩に取られてしまって」

「新しいのをあげるよ」

「ほんと」


 ぬいぐるみを渡し彼女と別れて、さてどうしようかと迷った。

 悲鳴が三軒先の道端で上がる。


「きゃー、やめて」

「むっぐっがっがっあごりっふむ」


 見ると酒瓶を持った男が言葉にならない事を口走って暴れていた。

 ゴーレムを出して男を叩きのめす。

 酒瓶が割れ金色の酒が零れた。


 高級そうに見えて金色の酒は安物なのかもな。


「大丈夫ですか」

「ええ、突然暴れ出したんです」


 男を警備兵が連れて行った。

 度重なるスタンピードはこんなにも影響を与えているのだな。




 足は破られそうになった城壁に向かっていた。

 急ピッチで修繕が行われている。

 城壁に使われる燃えにくい魔木が幾本も集められ加工されていた。

 城壁の上にリンナの姿が見える。

 森の方に視線をやってぼんやりしているようだった。

 なんとなく後ろ姿が寂しそうだった。

 声を掛けようかとも思った。

 しかし、一人になりたそうな雰囲気を出していたので声を掛けずに立ち去る。

 ミリタリーアントはどうしちまったのかな。


「ライタ、本道の入り口はどこにあると思う」

『見当がつかないな。情報が少なすぎる。言えるのは2メートラもの大きさの物が出入りするんだ。入り口も相当大きいだろう』

「苔で上手く蓋をしているのかな」

『そんな所だろう』


 目撃者が居ないってのが謎なんだよな。

 地面が開いて穴が開けば見かけていれば気づくだろう。

 ジェネラルアントなんて4メートラだぞ。

 あんなのが出入りする穴なら相当目立つ。

 苔でふさいでいたら乗ったら違和感がありそうなんだけど。

 謎だ。

 その内解ける事を期待しよう。




 マリリの店にでも寄ってみるか。

 マリリの店に行くとモリーとユフィアが接客していた。


「いらっしゃい」

「いらっしゃいませ」

「マリリさんは?」

「奥で事務仕事してます」


 俺は入るよと声をかけて奥の部屋に入る。

 マリリは眉間に皺を寄せて帳簿を付けていた。


「フィル、ハサミの売り上げは順調よ。金貨十枚はあなたの物になりそう」

「それは別にいいけど。最近物騒みたいだよ」

「私の店は心配しないで、夜も交代でゴーレム騎士団が警備しているから」

「そうか」


「受け入れ反対派と賛成派の争いも激化しているみたい。外国の軍隊を常駐すべきとの声もあるわ。フィルの活躍も知られてきて、有名な冒険者を外国から積極的にうけいれようなんて案もあるらしいわ」

「正直どうでもいいな」


「魔石ポーションもっと作れないかな」

「リンナが作れるから、今後は生産量も上がるよ」

「お弟子さんの数もっと増やせないかな。モリーちゃんとユフィアちゃんはまだ子供だし。大人のお弟子さんはどうかな」

「うーん、それならこうしよう。マリリさんが俺の弟子になって、ゴーレム騎士団の中から誰か弟子を取れば良い」

「フィルの取り分が減るけど良いの」

「はっきり言って一国で売り捌く量の生産は出来ないよ」

「そうね、店はまだ小さいけど。片っ端から売れているから、生産が間に合わなくなるわね」

「今後はマリリしだいだよ。弟子になるかい」

「ええ、やるわ。よろしくね、師匠」

「なんか、こそばゆいな。今まで通りフィルで良いよ」


 マリリに回路魔法を覚える為の簡易魔道具を渡し、使い方を説明した。

 マリリとゴーレム騎士団の誰かなら迂闊な事はしないだろう。

 俺の両手は小さいモリーとユフィアだけで手一杯だ。

 新たな弟子なんて面倒をみられない。

 マリリとリンナなら勝手にやっていくだろう。

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