第36話 魔石ポーション
少し気になったので、リンナの所へ毒ポーションの話を聞きに行く事にした。
工房のドアをノックして入る。
「よう、元気だったか」
「突然ね。今日は何?」
「毒ポーションの事を聞きに来た」
「それ、誰に聞いたの。ポーション職人の秘密なのに」
「毒ポーション掛けられそうになった」
「えっ、大変。体はなんともないの」
パタパタと俺の体を叩くリンナ。
「瓶に触ってもいないから」
俺の言葉に我に返り、リンナは顔を真っ赤にする。
「そう良かった。それで毒ポーションの何が聞きたいの」
いつものリンナの口調に戻った。
切り替えが早いな。
「話せる所、全部を知りたい」
しばらく沈黙が続く。
意を決したのだろうか、リンナが喋り出す。
「毒ポーションは疫病治療ポーションの材料で作るわ」
「レシピを洩らしてもいいのか」
「よく知られた事だし、作るのは命がけだから。考えてもみなさい、一滴はねたのが掛かっただけで死ぬのよ。煮込む時の湯気を吸い込んだだけでも死ぬわ」
「ポーション職人はみんな作り方を知ってるって事」
「ええ、作り方は教わるけど、まともな師匠なら絶対に作るなと言うわ」
「そうなると、疫病治療ポーションは」
「そっちはね。体に悪い物だけを殺すのよ」
「ふーん、材料の薬草は高いのか」
「見つけても採らない事ね。安易に触れると死ぬわ」
「危険なんだな」
「周りに生えている雑草も毒だから露がたかると大変よ。殆んどの薬師が見つけたら全て刈り取って撲滅するのよ」
もの凄く貴重な薬草だけど、栽培は無理だな。
うっかり触ると死ぬなんて危なくてしょうがない。
薬師が必要なのに撲滅する気持ちも分かる。
「そんなのどうやって処理するんだ」
「そこは秘密だけど、特別に教えてあげる。触らないように刈った後に、スキルを遠距離からかけると触っただけで即死というような事はなくなるの」
「凄いスキルだな」
「魔力変質っていうスキルよ。ポーション作りでは欠かせないわ」
「見せてもらっても良いか」
「ええ、前にも説明したと思うけど、今日採ってきた薬草で基本を説明するわ。まず薬草を潰してから濾す。その後スキルを掛ければポーションの完成よ」
「簡単なんだな」
「潰して濾す工程は煮たり、スキルで抽出したり、アルコールに浸すなど色々するわ。毒性のある物もあるから」
「前言撤回するよ。そうか、難しいんだな」
リンナは薬草を潰してから濾して瓶に入れた。
「今からスキルを使うわ。魔力変質」
しっかり魔力視と魔力走査でスキルを観察。
魔力変質は葉を修復するという魔力を傷の回復に変化させた。
魔力の性質が変わるのか。
「これでポーションの完成よ」
疫病治療ポーションの薬草は触れた者を殺すから細菌を殺すに変化させているのだろう。
大規模な変化は駄目なんだろうな。
要研究ってところか。
良いスキルを覚えた。
「色々ありがとう」
「いいのよ。薬草が安く仕入れられる所を紹介してもらったし」
「そうか、このお礼は何か後で」
俺はそう言って工房を後にした。
魔力変質を試すため家で研究だ。
まずは、薬草を潰して瓶にいれて魔力変質を掛ける。
ポーションが完成した。
これで俺もポーション職人だけど、これじゃあ面白く無い。
魔力ゴーレムに土魔法で盾を出させそれに魔力変質を掛ける。
土の盾はじわじわと水に変わっていく。
もの凄い魔力消費だ。
みるみる着ぐるみゴーレムが薄くなっていく。
盾を完全に水に変えられたけど、この遅さと魔力消費の大きさはどうにかならないかな。
しばらく考えてみたが、今のところどうにもならない。
ポーション作るのなら、遅かろうが魔力消費が沢山だろうが問題ないだろう。
さて何をポーションにしようか。
魔力を持っているものならポーションになりそうだから。
魔力といえば魔石だな。
魔石に魔力変質かけても飲めないな。
粉にするという手もあるが正直めんどくさい。
そうだ前に魔石を水に溶かしたっけ。
背負い鞄に入れっぱなしだった。
あった、あった。
これに魔力変質を掛けて傷を治す魔力に変えよう。
これもかなり魔力を消費するな。
着ぐるみゴーレムが薄くなった。
でも、上手くいったようだ。
魔石が毒という可能性もあるから飲むのは遠慮したいな。
それに今までの推測だと魔石は生物だから、安全だと分かってもちょっと抵抗がある。
もろもろを調べるのはリンナに丸投げしよう。
魔石の不純物を分けてから魔石水を作り魔力を細菌を殺すものに変えた。
予定では疫病治療ポーションになっているはずなんだけど。
これが商品になればもの凄く儲かるな。
副作用がなければ良いけど。
その後、色々なポーションを作成。
その二十本を持ってリンナを再び尋ねる。
「また来たよ」
「今度は何かしら。もしかしてお礼の品持ってきてくれたの」
「期待のところ悪い。なんというか。俺が作った新しいポーション持って来た」
「えっ、新しいレシピ教えてくれるの」
もの凄く魔力を食うから、魔力ゴーレムなしでは量産は無理だろう。
「俺以外には作れないだろう。実は偶然できたので毒なのか薬なのか分からない。人に試すのは最後にしてくれ」
「そうなの。慎重に調べるわ」
「そうしてくれると助かる。これなんだけど」
俺が白い液体が入った瓶を渡すとリンナは陽に透かしたり振ったりしていた。
「変わった色ね。色々な工程を経ているのかしら。瓶に書いてある効能は様々なのに全部同じに見える。謎ね」
「しばらくしたら、また顔を見せるよ。こんどこそお礼の品を持ってくる」
「期待しないで待っているわ」
工房を後にして、帰り道でプレゼントを物色する。
アクセサリーはどうかな。
そういえば彼女はアクセサリーのたぐいを一切つけてない。
ポーション作りに邪魔なんだろうか。
それとも弓を引くのに邪魔なのかな。
チョイスとしてはアクセサリーは無いのか。
困ったぞ。
「ライタ、リンナへのプレゼントだけど、何か良い案がないかな。アクセサリーは駄目みたい」
『ぬいぐるみはどうかな』
「うーん、イメージに合わない気がする」
『めんどくさいな。花はどうだ』
「良いね。でも魔境にある花だと自分で摘んできそう」
『造花にするか』
「魔石のかすで作るのはありかも」
『じゃあ、俺が作ってやるよ。地球の花でいこう。それなら見慣れてないって事でお得感があるんじゃないかな』
「それでいこう」
家に帰りライタが造花の花束を作る。。
透明感のある花ってまるで宝石で出来ているようだ。
売り物になりそうだけど、ライタは嫌がるだろうな。
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