第35話 黒幕が判明

 ルシアラの店へ火球カードと色々な物の納品に行く事にした。


「こんちは。マリリさんは居る?」

「マリリなら薬草を売り歩いているよ」


 ルシアラがマリリの事を教えてくれた。


「薬草の出荷がもう始まっていたんだ」

「状態の良い薬草から出荷しているらしい。リンナさんも一度買いに来たよ」


 これは近々薬草をまた村に持っていかないといけないな。




「あれから、殺し屋はこない?」

「襲われたとは聞いてないな」

「良かった。少し気がかりだったんだ」

「まだ、ニエル殺害の容疑は晴れてない」

「俺に何か出来る事があったら遠慮なく言ってとマリリに伝えて」

「伝えとくよ」


「ルシアラの商売はどうなの」

「ぬいぐるみは堅調だし、家具ゴーレムもぼちぼち売れている。今の所問題はないな」

「そうか」


「ところでおめぇに聞きたかったんだけど、マリリに告白しなくていいのか」

「ぶほっ、マリリさんは恩人です」


 俺はお茶をふきだした。


「きったねぇな。マリリに聞いたが、一時期マリリはニエルの息子のネットと婚約していたらしいな」

「初耳だ。だけど、リボンの色が変わっていたのは知っているよ」

「ニエルが死んで婚約を破棄したって言ってたな。最近しつこくネットはよりを戻そうとしているらしい」




「真偽官に都合がつけば全て解決なのに」

「その件だったら商業ギルドがのらりくらりだってさ」

「商業ギルドに圧力、掛けれないかな」

「無理だ。うなるほど金がいる」


 うーん、なんとかしたいけど、どうにもならない。


「何か手を考えるよ」




「ただいま」


 マリリが帰ってきた。


「火球カード納品に来たよ」

「ありがとう、何か盛り上がってたみたいだけど何の話」


「たわいのない話だよ」

「えっ、秘密なの。もしかして二人はできているとか」

「マリリ、冗談にも程がある」

「ルシアラもしかして怒った」

「哀れだな。いやいいんだ」


 俺の方を意味深な目で見るなよ。


「それより、商売はどう」


 俺は場の雰囲気を変える為にマリリに声を掛けた。


「薬草は順調に売れているわ。また村に薬草をもって行かないといけないかもね」

「沢山、薬草を確保しておくよ」

「ええ、期待しているわ」




 帰り道。


「ライタ、マリリの事なんとかならないか」

『情報をまずは集めるんだな』


「どこから手をつけよう」

『真偽官を呼ぶのに時間が掛かりすぎだ。誰か妨害しているに違いない』

「ニエル商店は小さいから黒幕がいるって事」

『たぶん、簡易魔道具の利権とか狙ってる奴がいそうだ』

「なるほど、となると情報収集の為のスキルが要るね」

『良いね、燃えてきた! スパイ物やっちゃう!』




 とりあえず、まずは下見だ。


 商業ギルドは辺りでは一番大きな建物だ。

 領主の城を除けばこの街では一番大きな建物かもしれない。

 白く塗った壁が眩しくて大変目立つ。


 中に入ると商人らしい風体の男達が何人か雑談している。

 窓口では商談をしているのだろうか、真剣な目つきで受付嬢とやり取りをしていた。




 俺は空いている窓口に寄り話しかける。


「マリリの関係者なんだけど、訴訟の件の真偽官が何時になったら到着するのか聞きたい」

「かしこまりました。ただいま、お調べします」


 奥の部屋に入った受付嬢はほどなく戻ってきて言う。


「真偽官の都合がついておりません。今しばらくお待ち下さい」

「そうなのか。ありがと」




 俺は一旦、外に出て、迷彩のスキルを使って再び先ほどの窓口に近づいた。


「ねぇねぇ、馬鹿だよね。真偽官に依頼してないのに、首を長くして待ってるんだから」


 俺の応対をしていた受付嬢が隣の受付嬢に言った。


「副ギルド長が妨害しているのよね」

「そうそう、タイン商会の会長の弟らしいから、きっとその関係ね」


 その時注文書を持った男がやって来た。


「この材料の注文を頼む」

「承りました」


 男は去って行き、再び雑談は再開された。




「お金を持っていても副ギルド長とお付き合いしたくないわ」

「私は玉の輿って良いと思うけど」


「マリリって娘、ニエル商店の跡取りに狙われているって」

「それ、本当らしいわよ。副ギルド長と何やら密談していたわ。お茶を出すときこそっと聞いたのよ」


「えっ、何を。もったいぶらずに喋ってしまいなさいな」

「マリリって娘に飽きたら、闇奴隷にして売り払うって」


 何っ、タイン商会もネットも許せん。


「おお、恐っ」

「でも、次に来た時に約束が違うって怒鳴ってたのが、部屋の外まで聞こえたわ。計画がおじゃんになったんじゃないかしら」


「それはたぶん闇ギルドが壊滅した件よね」

「ええ、副ギルド長、何時捕まるか一時期ヒヤヒヤしたみたい。少しの物音にもびくびくしていたわ」


「じゃあ、失脚も間近って事」

「そうでもないらしいわ。証人になりそうな人は始末したみたい」


「あなた、そんな事を知って大丈夫なの」

「タイン商会の傘下の商店主が幾人か亡くなったから、そこからの推測よ」


 必要な事は充分に聞いたな。

 ばれないように商業ギルドを後にした。




「ライタ、どうしよう?」

『今、タイン商会の計画は頓挫しているみたいだから、当分の間マリリは大丈夫だろう』


「じゃあ計画を立てよう」

『まずはBランク試験に合格だ。そしたら、スパイに役立つスキルを得る為にフェミリを頼ってはどうかな』

「そうだね、冒険者ギルドのお抱えの職員には諜報活動をやっている人もいるだろうから、いいアイデアだ」


『情報収集は録音の簡易魔道具が作れれば良い』


 なるほど確か集音というスキルがあったはずだ。

 記録するのは回路魔法が使えないかな。

 スキル以外の物も魔力の信号として記録できるかもしれない。

 再生するのは魔力走査に念動を組み合わせれば出来ないかな。

 膜を念動で振るわせれば音を再生できるかも。


 映像記録は確か吸光というスキルがあったはずだから、それを使えば。

 再生は照明スキルで何とかしたいな。

 よし、なんとかなりそう。


「できそうだけど、試してみないと」

『そうだな、物は試しだよ』


「なんとか、商業ギルドにも伝手が欲しいところだね」

『情報を集める過程で敵の敵を見つけるんだ』

「かなり敵は強引だから、反感を持っている人はいるかも」


『金策も必要だな』

「魔獣は今ひとつだから、ダンジョンかな」

『攻略して貴重な魔道具を沢山集めるのも良いのかもな』


「反撃はどうしよう」

『それは情報しだいだな。闇ギルドと繋がっている証拠を押さえられたら最高だな』

「とにかく頑張るよ」


 計画も立てられたし、なんとかなりそうだ。

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