第20話 火球カード

 ウッドゴーレムの五体の前衛が颯爽と前を歩く。

 魔力ゴーレム五体と馬ゴーレムに加えた後衛が後に続き、俺は警戒しながら最後尾を行く。


 俺の魔力視が索敵の役割を果たす。

 魔力視は頑張れば500メートラぐらい先まで感知出来た。


 何か複数来るな。

 火球カードの実戦といきますか。

 俺はまずウッドゴーレムを魔獣に当てるようライタに指示した。


 現れた魔獣はウィンドウルフの群れだった。

 体長は1.5メートラと小さいものの、繰り出される風魔法は侮れない。




 ウィンドウルフは全部で十五匹いるけど、これ大丈夫かな。

 危なくなったら、魔力ゴーレムの自爆攻撃もといゼロレンジ魔法で対処だ。

 自爆というのは外聞が悪いのでライタにゼロレンジの名称を考えてもらった。

 魔力ゴーレムは無傷なので正確には自爆とは言えないのでぴったりの名称だろう。


 ウィンドウルフは逃げない俺を見て値踏みしながら取り囲む行動に出た。

 先手必勝とばかりにウッドゴーレムを突っ込ませる。

 そして、俺は火球カードをポーチから引き抜き狙いを定め作動させる。

 狙っていると連続で放てない。


 ウィンドウルフは火の玉に風魔法で迎撃に出た。

 ウィンドウルフの数が多いので迎撃以外の風魔法が沢山俺達に襲い掛かってくる。

 魔力視で風魔法を見て魔力ゴーレムに土魔法を使わせブロックした。




 ウィンドウルフの攻撃は効かないけどこちらの攻撃も届かない。

 らちが明かないから、銃魔法で仕留めるべきだろうか。

 いや、火球カードの性能を確かめる為にも、もう少し粘るところだと考えた。


 状況を確認すると一体のゴーレムが風魔法で損傷を負っている。

 ゴーレム使役を使い損傷を回復した。

 ウィンドウルフは当然、無傷だ。




 火球カードで狙いを定めず、つるべ撃ちする。

 ゴーレムに被害が出ても後で直せば良いだろう。


 火の玉の幾つかはウィンドウルフに当たり爆発した。

 ゴーレムにも当然被害は出て、ゴーレム一体が火の玉で破壊され、戦闘不能になった。

 つるべ撃ちは不味かったな、反省、反省。


 不利を悟ったのかウィンドウルフは一鳴きすると引き上げていった。




『隊長、報告します。戦死者一、負傷者なしであります。戦果三であります』


 ライタはいつも通りだな。


「ご苦労様」




 連携は難しい。

 後ろから銃魔法を撃つと前衛に当たる可能性が凄いだろうな。

 かといって前に銃魔法を展開するとなんのための前衛なのか分からない。

 それならばと、ウッドゴーレムを魔力ゴーレムと併用すればいいと考えついた。

 ようはウッドゴーレムに着ぐるみゴーレムを着せてしまおうという訳だ。

 手元から魔法は発動するためウッドゴーレムの位置から魔法が出れば分かりやすい。

 それと、杭を爆発で打ち出すパイルバンカーだ。

 射程の短い攻撃を繰り出せば味方には当たり難い。


 パイルバンカー魔法は一発で壊れても問題ないので楽だ。

 ライフルリングも無いので、二、三回試したら上手くいった。

 この合体ゴーレムでなんとか遣り繰りしてみよう。


 ウィンドウルフを無造作に馬ゴーレムに積み込み、魔木を一本切り倒した後に乾燥、無事ゴーレムを補充した。




 探索は続いていく。

 おっ魔力を帯びてる草がある。

 きっと薬草だと思い、リンナへのお土産に採って行く事にした。


 途中、何度か薬草をみつけたので、立ち止まって採取する。

 薬草を魔力走査で詳しく見てみると種類が違うと魔力のイメージも違うと分かった。

 葉を治す魔力の物が多いが、変わった物も幾つかあった。

 例を上げると植物を冷たくするなんてのもある。

 芋虫にたかられた時に葉を一枚冷たくして芋虫を殺すのだろうか。

 熱さましなんかになりそうだ。


 吐き気を催す効果のもあった。

 これは食べた動物への警告だろうか。

 どんな薬になるのかは皆目検討がつかない


 水分の流れを良くするのは大体分かる。

 血行を良くする薬に加工されるのだろう。




 薬草採取で止まった時に魔獣の魔力を捉えた。

 この反応は大分、大物だな。


 ゴーレムを所定の位置につかせる。

 出てきた魔獣はソードタイガーだ。

 体長4メートラ、体重470キログムの巨体は見るからに迫力がある。

 筋力強化のスキルしか使ってこないのが救いだ。


 ソードの名前の長く平べったい牙を剥いて悠然と襲い掛かってきた。

 ウッドゴーレムの一体が胴体を咥えられる。

 ゴーレムの胴体は千切れかかった。

 馬鹿だな、魔力ゴーレムにダメージなんてないのに。


 パイルバンカー魔法を発動。

 ドガンと大きな音がして、一撃で頭蓋に穴が開いた。

 ソードタイガーはゆっくりと倒れる。


 パイルバンカー意外に使えるな。

 魔法の爆発だとオーバーキルだし、銃魔法だと距離の関係で当たらない事もある。

 その点、パイルバンカーだと至近距離からズドンだ。


 ウッドゴーレムにも手伝わせ皮を剥ぐ。

 これぐらいの巨体になると一苦労だ。

 肉が食えれば無理して体ごと持って帰ったのだけど、肉は筋ばっかりで美味くない。


 今日は狩りはこんなところで終わりかな。




 街に帰り、解体場でティルダを探す。

 人のろくに居ない解体場でティルダは木剣を振っていた。


「解体を頼む」

「はい、よろこんで」


 ティルダは尻尾をピンと立てて俺を迎えた。


「ウィンドウルフの肉は要らないから好きにして、ソードタイガーの毛皮は処理が甘いと思うからお願い」

「それだと、銀貨十枚頂くことになるけど良い」

「うん、頼む」


 待つ間、魔導剣の話になった。


「達人は凄いんだよ。鋼でさえ魔導剣で断ち切るのよ」

「へぇ、見てみたいな」

「じゃあ、暇が出来たら道場に一緒にどう」

「是非、頼む。おっ、そろそろ出来たみたいだな」




 換金所では体に傷の無いソードタイガーの毛皮を驚かれた。

 良い腕だと言われなんとなく嬉しくなる。


 次はリンナの工房に行く。

 作業中につき立ち入り禁止の案内版がドアに掛かっていた。


「薬草採ってきたから、ドアの所に置いとくぞ」

「はーい」


 リンナの返事がドアの越しに聞こえた。



 オークの領域は楽勝だ。

 つぎはダンジョンでも行って見るか。


 ダンジョンは不思議な存在で誰が作ったのか、どんな目的なのかも分かっていなかった。

 超越者なら何か知っていると思うけど、素直に教えてくれるとは思えない。

 分かっているのはダンジョンの魔物は倒すと魔石になり、時たま魔道具をドロップする。

 ライタの知識にあったトラップもダンジョンコアもダンジョンマスターもない。

 ライタはまるで攻略されたがっているみたいだと言っていた。

 ダンジョンに行ったらあっさり謎が解けたりしないかな。

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