第21話 ダンジョン

 南のダンジョンは草原の街道を一時間ほど行き、立て札がある細い分かれ道をしばらく歩くと石造りの神殿が見える。

 神殿の中央には地下への階段があり、ここがダンジョンの入り口となっていた。

 入り口に居るギルドの係員に冒険者カードを差し出すと受付を済まして返してよこす。


 階段を降るといよいよダンジョンだ。

 石造りのダンジョンはどこも不思議な明かりで照らされていて明るい。

 構造としては、休憩所、通路、部屋に分かれていた。


 休憩所はダンジョンの至る所に設置されている施設でトイレと水場がある。

 通路は迷路になっている訳ではなく通常一本道だった。

 休憩所と通路には魔獣は出現しない。

 そして、通路の所々にある扉の先には魔獣の出る部屋があった。


 ダンジョンは古代魔法文明の訓練施設という説が一部では支持されていた。

 しかし、案内板のたぐいが一つも無いことから、疑問視もされている。

 訓練施設ならトラップが無いのはおかしいし、部屋での奇襲が無い事が訓練施設では無いとの反論の根拠になっていた。




 魔導剣を鞘から抜いて調べ、ポーチの火球カードを確認する。

 準備万端だ。


 驚くほど軽い石で出来た扉を開け中に入ると、扉が閉まりゴブリンが三体、召喚される。


 前衛のウッドゴーレムで蹴散らす。

 驚くほどあっさりと片が付き、ゴブリンは消えた後には魔石が残された。

 今まで戦ったゴブリンと強さはさほど変わらないな。

 この階層は心配なさそうだ。


 何回か戦闘を無難にこなし、その後、俺達は一階のボス部屋へと入っていった。


 現れたのは体格の良い剣を持ったゴブリンと棍棒を持った取り巻き。


 銃魔法をウッドゴーレムの所から撃たせる。

 ゴブリン程度は銃魔法の敵じゃないな。


 剣を持ったゴブリンの消えた後には魔石と魔道具が残されていた。


 やった、初魔道具だ。

 この形は種火の魔道具だろう。

 これは売らないで記念に取っておくか。


 ボス部屋の入り口とは反対の扉を出て、冒険者カードを使いポータルに登録する。

 そして、下の階層に降りる。


「なあ、ライタ、何か分かったか?」

『いや、全然。もしかしたら、娯楽施設だったのかも』

「それなら、景品感覚で物が手に入るも分かる気がするよ」


 娯楽施設という説を考えてみた。

 魔獣が繁殖しないし、地上に溢れ出ないのも娯楽施設なら納得だ。

 しかし、人数制限の謎が引っ掛かる。


 ダンジョンには七人以上で挑むと帰ってこないという話があった。

 過去に一階のボスに三十人で挑んでボス部屋から生還出来なかったという話もある。

 七人以上は部屋に入り魔獣に挑むと例外なく消えた。


 ゴーレムがこの人数制限に引っ掛からなくって良かったと思う。

 消えた人間はどこかにルール違反者として隔離されているのかな。

 それとも抹殺されたのだろうか。


 ポータルも謎がある。

 登録は何で冒険者カードを使うのだろう。

 続きから出来る転移の技術も謎だ。


 ダンジョン産の魔石は魔抜きの必要が無い。

 これも謎だ。


 この世は謎だらけだ。

 奴隷の時は知らなかった事が一杯あるので、何か楽しい気分になった。




 情報では二階はウルフとゴブリンの混成チームだ。

 ゴブリンの上半身への攻撃ばかり気にしてると、足元がお留守になって、そこをウルフにガブリといかれる事になる。

 なんとも意地が悪い。


 ウルフは草原ウルフより小さくて弱い。

 単体では何て事の無い敵だ。




 扉を開けて中に入り閉めると魔獣が召喚されてくる。

 魔獣はゴブリン二体にウルフ二頭だった。


 ゼロレンジ魔法で一撃は味気ないな。

 ウルフは銃魔法を避けそうだ。

 銃魔法を避けられないようにするには拘束の魔法だな。

 土魔法で動けないようにしても良いけど、手元から魔法を出すという原則があるので避けられそうだ。

 魔力ゴーレムは見えないから、単体で突っ込ませて土魔法で奇襲というのも良いけど、ここは範囲攻撃だな。


 水魔法を薄く床一面に出して粘着性を持たせた。

 どうだ、ゴブリンの力では抜け出せないだろう。

 ゴブリンとウルフは一歩も動けなくなった。

 後は銃魔法で無双だな。

 目論見は上手くいきあっさりと片がついた。


 対人戦にもこの手は有効だろう。

 特に殺したくないなんて場合には役に立ってくれそうだ。


 水魔法の粘着戦法を試しながら、ダンジョンを攻略していく。

 この階も楽勝だ。




 対人戦を想定して非殺傷の手札も幾つか欲しい事に気づいた。

 真っ先に浮かんだ、銃魔法の低威力は調整が難しい。


「ライタ、気絶させる攻撃なんて無いよな」

『あるよ、スタンガンだ。電気の電圧を上げて電流を低くすると殺傷能力が低い物になる』

「電気って何?」

『雷の正体さ。冬に金属に触るとバッチとくるだろう。あれも電気の一種だよ』


 とにかく体内でゴーレムを作り、冬に発生する電気をイメージしてみる。

 ゴーレムを出すとバチバチと音を立てていた。

 成功したようだな。


「なぁ、ライタ。流石に人で試すとか言わないよな」

『ゴブリンで試せばいいだろう』

「それも弱いもの虐めみたいでいやなんだけど」


『ダンジョンの魔獣は生き物だと思うか?』

「そういえば死体も残らないし、繁殖もしない。待機空間みたいなのがあって、そこでしてるかも知れないけど」

『たぶんだけど、機械みたいなものだと疑っている』

「うーん、確かに討伐しまくっても魔獣が減らないのはおかしい」

『誰が何のために作ったのか疑問だけど、納得したか』

「機械だと思っておくよ」




 雷魔法の運用はライタに任す、電圧だの電流だの言われてもピンとこないもんな。

 知識を調べても分からない単語だらけでチンプンカンプンだ。

 ゴブリンで気絶に丁度良い強さの電気をライタが割り出した。




 気絶では無いが一時的に視界を奪うという事で、音と光りが凄い爆発を火魔法で編み出す。

 ゴブリンとウルフの実験では視界を奪えたから、人間相手にも有効だろう。

 フラッシュ魔法と名付けた。




 このさいだから、魔法の有効活用を探るという事で、水魔法を足の下に出し流動させて移動するという技を編み出す事に成功。

 これに乗っていると童心に帰る気がする。

 調子に乗ってダンジョンの通路を何往復もしてしまった。




 水魔法の攻撃という事で、魔法が創造魔法なら、なんでも可能だろうと王水を作り出した。

 王水を水球にして浮かべる。

 ゴブリンに引っ掛けるのはちょっとためらわれたので、魔石を溶かしてみた。

 元から赤みが掛かった水球が更に赤くなり、ライタの提案で生水の水を加え、魔法を解除する。

 魔石の透明な部分で作った器で受け止めた。

 残った赤い水は王水が魔力に戻ったので酸ではない。

 この魔石水、後で役に立つかもしれない保管しておこう。




 魔法ではないが念動を使っていなかったので、ダンジョンの真っ直ぐな通路で加速砲を試す。

 魔力ゴーレムを一定間隔で十体並べ念動で魔石を加速させた。

 真球ではないので、着弾が安定しない。

 変形でライタが木の実のような形に変えたが、命中率は悪かった。

 回転運動を弾に加えなんとか形になる。


 ゴーレムを直線に並べるだけでも時間が掛かる。

 こんなにゆっくり準備していたら、魔獣は襲い掛かってきた後だろう。

 とりあえず、頭の片隅に置いておこう。




 ゴーレムの事で一つ試す。

 魔力視と魔力走査がゴーレムに使えないのだ。

 何故かというとゴーレムとの命令の繋がりは一方通行だから、ゴーレムから結果を受け取れない。

 まあ当たり前といえば当たり前だ。

 ゴーレムの感覚などを一々受け取っていたら、もの凄く混乱する。

 十体ものゴーレムの情報を処理する自信はない。

 スキルを作った超越者もそれくらいは考えたのだろう。

 しかし、ゴーレムに魔力視が使えたら凄い便利だ。

 色々やって、なんとかしようと思ったが無理みたいだ。




 実験に夢中になり、攻略がおろそかになったがいいだろう。

 ダンジョンは実験には丁度良いと思う。

 実験体が何度でも湧いてくるのは探す面倒が無くて良い。

 案外訓練施設ではなく実験施設だったのかも。


 明日はダンジョンを行ける所まで行ってみたいな。

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