第19話 エロフィギュア

 俺は材木屋へ行った。

 ルシアラの店へ持って行く家具の材料を買う為だ。


 ライタは魔木から、ずんぐりむっくりした犬のタンスゴーレムとヘッドボードが猫の顔になったベットゴーレムを作り出す。

 顔の表情を変える簡易魔道具を仕込んで完成。

 それらの家具を従えてルシアラの店へ行く。


 家具の手足は短いので異様に遅い。

 少し恥ずかしかったので、なるべく急ぐようにライタに指示を出した。

 セカセカと手足を動かすゴーレムの様子がおかしいのか忍び笑いが通行人から漏れる。




 ルシアラの店は以前より流行っていない様だ。

 人数は前と同じだが、頻繁に出入りする様子が無い。




「今日はサンプルの家具を持ってきた」

「待ってたぜ。ぬいぐるみの売り上げ落ちてしまってな」


 ルシアラは俺を喜色満面の笑顔で出迎えた。


「あら、フィル、いらっしゃい」


 マリリが帳簿を付けるのを止めて顔を上げて挨拶した。


「新たに禁忌は犯してないだろうな?」


 マリリの脇に控えているセシリーンが問い掛けて来た。


「やってないったら、ない」

「なら、よろしい」


「ふむふむ、確かに子供向けだな」


 家具を検分しているルシアラが感想を述べる。


「これをゴーレム使いが躍らせて納品したらどうかなと。伴奏なんかもあるともっと良いかも」

「なるほどね。やってみるさ」


 リクスの実をお茶請けに雑談に花を咲かせる。


「そうそう、あの人形かなり売れてるぞ」


 ルシアラがフィギュアの話題を振ってきた。

 ライタが大喜びしそうだ。

 喜びすぎて暴走しなきゃいいけど。


「追加はどうする?」

「じゃんじゃん持ってきてくれ」

「あんなふしだらな物が流行るとな。世も末だ。買う奴の気が知れん」


 セシリーンは相変わらず毒舌だな。


「今日中に持ってきます」




 帰りに沢山の魔石を仕入れて宿に帰る。

 勿論、フィギュアの材料だ。


 出来たフィギュアを見て、俺は顔が火照った。


「は、は、裸じゃないか」

『力作のエロフィギュアだ』


 フィギュアは女の子が上半身丸出しで、下半身も申し訳程度に衣服の部分があるだけだった。

 いや、色街で売るっていっても限度があるだろう。

 ライタの奴、何考えているんだ。


「本当にこれを売るのか」

『大丈夫だって。この世界にも春画のたぐいはあるはずだ。露店でもきっと売られているよ』


「まあ、ルシアラに見せてみるけど、期待しないで」

『さあ、量産だ』


 いかがわしい格好のフィギュアが続々と出来上がる。

 ライタの奴おまけに簡易魔道具を組み込んで動かすとか言いやがった。

 まあ、作るの許可したけどね。

 マリリに変態扱いされたら、ショックでご飯を食べられなくなりそう。

 納品に行ったら、ライタって職人が作ったって強調しておこう。




 大量に出た生物の部分を凝縮した魔石。

 繰り返し使える簡易魔道具は値段を高く設定したので数が出ない。

 在庫を作るのも余り気が進まない。


「これ、どうしよう」

『攻撃用の簡易魔道具を作るってのはどうか』




 攻撃用の簡易魔道具を作り始め、意外な事が分かった。

 銃魔法の簡易魔道具を作りたくって、並列システムを魔石に入れようとしたら失敗。

 魔石が生き物って事を考えると、ライタの思考と魔石の思考がかち合って、拒絶反応を起こしたのだろう。


 回路魔法じゃなかったら、きっと爆発してたな。




 火の玉を一発だけ発射するカード型の簡易魔道具が完成した。

 百枚ほど作りたいが、これに魔力を充填するのは骨だなと思い、ふと疑問が生じる。


 簡易魔道具を動かす時に魔力を動かす力を入れる仕組みになっているけど、百枚も入れて疲れないだろうか。

 実験してみる事にした。




 南の草原に行き、人の居ない所で火の玉を百個放とうとした。

 50メートラほど飛び、魔力に帰る火の玉。

 三十枚ほど起動していると精神的に疲れ出来なくなる。


 やっぱり、限界はあったか。

 十分ぐらい休んで続きをする。

 やはり三十枚ほどで疲れた。


 短時間で全回復するみたいだ。

 調べてみたところ三分ぐらいで全て回復する。

 ふと、並列システムに起動させたら、疲れないんじゃないかと考えつく。


 簡易魔道具を手に持ってライタに魔力を動かす力を入れるイメージをしてもらう。

 並列システムを切り替えながらやると限界が無い。


 どういう事だろう。

 並列システムの中にある魔力を動かす力はどこから来ているのだろう。


 普通に考えたら俺からって所だけど、それなら百枚も簡易魔道具を起動させたら、疲れるはずだ。

 ライタから力が出ているって事だろう。


 ライタに乗っ取られた時に魔力が無かったのも良く考えたら謎だ。

 魔力を動かす力がライタにあるのなら、魔力がありそうに思う。


 魔力の問題は禁忌を踏みそうだから、今は魔力を動かす力を考えるか。




「なあ、ライタ、魔力を動かす力ってなんだと思う」

『こういうのは漫画的に考えると魂の力だな』

「じゃあ寿命を消費してるって事」

『スキルを沢山使ったって早死にしないから、回復するんだろう』


 簡易魔道具を使っていたらポックリ逝ったなんて事は起きないだろうか。

 三分で回復するところをみると平気そうな気はするんだけど。

 魔力を動かす力はきっと思考の力だ。

 集中力が三十枚ぐらいで切れる。

 並列システムを使用すると、集中力を使うのは分裂した思考だから、集中力は継続という訳だ。

 推測が正しいかは分からないが、そのうち真実が分かるだろう。


 攻撃用簡易魔道具は名前が長いので火球カードと呼ぶ事にする。



 嫌だったけど再びルシアラの店に行った。


「人形持って来ました」

「おう、ご苦労さん」


 俺はルシアラにゴーレムが持っていた包みを開けフィギュアを見せる。


「これは、凄いな」


 流石の力作エロフィギュアにはルシアラも頬を赤らめた。


「何、何?」


 うわ、マリリが覗き込んできた。

 マリリは顔を赤くして、無言で立ち去る。


「貴様は節操というものがないのか」


 続いてセシリーンが覗き込み、ジト目で感想を述べる。

 そう言っているわりには人形を一つ手にとり、簡易魔道具を起動、形が変わるのを楽しんでいた。

 おっぱいが揺れるのがそんなに楽しいかな。


「言っときますけど、これはライタっていう職人が作りました」

「隠さなくてもいいんだよ。分かってるって」


 ルシアラの全て分かってるって顔に少しむかつく。

 俺が作ったんじゃないけど、ムキになると更に悪化しそうだ。


「ところで、買い取ってくれるんですか?」

「大きな声じゃ言えないが春画も扱っている。他にも大人のおもちゃもあるし」


 買い取っては貰えたがなにやら評判を落とした気もする。

 フィギュアの事はすっぱり忘れたいが、ライタの奴これからも作りそうだ。

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