第18話 オークの領域

 ゴーレムの構成は前衛ウッドゴーレム五体、後衛を魔力ゴーレム五体に馬ゴーレムにした。


 ゴブリンの森と違いオークの領域は木の生えている間隔が広い。

 その為薄暗いという事は無かった。

 森はゴブリンの森とは違って虫の声や鳥の声などが聞こえさわがしい。

 果実も沢山生っていて色彩豊かで、普通の森に見える。

 オークの領域の魔獣は大きい為、持って帰るのには馬ゴーレムが必要とされた。

 よく通る場所はゴーレムに踏み固められ道になっている。


 ゴーレムを連れ立って、オークの領域の道を進んで行く。




 魔力視に大きな反応があった。

 どうやら強敵らしい。

 遠くからドスドスと足音が聞こえてきた。

 魔獣が見えてくる。

 そして、それはオークだった。

 何故ここがオークの領域と呼ばれているかと言うとオークが金銭的に美味しい獲物だからだ。


 オークは2.5メートラの二足歩行の猪の魔獣で、その怪力は侮れない。

 それは腰蓑を着け右手には冒険者の物だったと思われる巨大な剣がにぎられていた。


「射撃開始」

『尻の穴増やしてやる』


 五体の魔力ゴーレムが銃魔法を撃つ。

 オークは雄叫びを上げ前衛のウッドゴーレムをなぎ払う。

 血を流してはいるが、中々仕留め切れないな。


 しょうがない、魔力ゴーレムに魔法使わせるか。

 魔力ゴーレムから3メートラの風の刃が放たれる。

 ザックリと胴体を切り裂かれ、オークは息絶えた。


 ウッドゴーレムにも解体ナイフを持たせて、解体を手伝わせる。

 魔木を一本切り倒し、乾燥スキルを魔力ゴーレムに掛けさせる。

 魔木から馬ゴーレムを作り出し、オークを積み込む。




 帰り道、気になる魔力の反応を見つけた。

 五体の魔獣らしき反応と大きな一つの反応。

 大きな方の大きさと色には覚えがあるのだけど、どこでだったかな。

 大物と群れの戦闘だろうか、興味を引かれ覗いてみる事にした。


 近寄ると戦闘音がしない。

 罠かとも思ったが、粉砕して進めば良いだけだ。


 大木の果樹に巣を張った1.5メートラの蜘蛛形の魔獣がいた。

 冒険者ギルドの資料室で読んだぞ。

 たしかウィップスパイダーだ。

 近寄ると鞭の様に糸を操って攻撃してくるんだっけな。


 大きな魔力の反応は人だった。

 何か覚えがあると思ったら資料室の生意気エルフだ。

 今日も緑の格好で、弓を引き絞り懸命に矢を放っている。


 魔力ゴーレムに銃魔法を撃たせた。

 パンと乾いた音がするたびにウィップスパイダーはあっけなく散っていく。

 程なくして群れは片付いた。




「あなた、資料室の。あの時は悪かったわ。リンナよ」

「俺はフィル、よろしく」


「凄腕の魔法使いなのね」

「それほどでも。俺が言うのもなんだけど、ソロじゃ危ないんじゃないのか」

「私は薬師だから、薬草を採るのが目的よ。魔獣はスキルでかわして、ここまで来たわ」


 ウィップスパイダーは普段じっとしているから気づかなかったのか。


「ここからは護衛するよ」

「悪いわね。あなた良い人ね。最初会った時はぞっとする雰囲気があったから、つっけんどんな態度をとったわ」

「へぇ、そのぞっとするってのに興味があるな」


「上手く言えないのだけど微かな飢餓ってとこね」

「その時は腹ペコだったのかなぁ」

「今もその雰囲気はなくなってないわ」

「そうなのか。何か性格に起因する事なのかも」

「そうね、私も初めて感じた雰囲気だから、原因は分からない」

「そろそろ、行こうか」


「その前にあれを採っていきましょ」


 リンナが指差した先にはたわわに実った果実がある。

 前に食ったリクスの実に似ていた。

 これはもしかして魔境産のリクスの実なのか。

 マリリに食べさせてあげたいな。

 よし、馬ゴーレムをもう一頭作って積めるだけ積もう。

 魔獣から魔石を抜き、リクスの実を収穫して出発した。




「ここよ」


 リンナに案内されてたどり着いた所は雑草の生い茂る場所だった。

 俺は目を凝らして見回すが薬草があるとは思えない。


「本当にこんな場所に薬草があるの」


「これよ」


 リンナは無造作に雑草を摘むと目の前に持ってくる。

 駄目だ普通の草と見分けつかない。

 良くみると薬草は光って魔力を放っている。

 俺にも薬師は勤まるようだ。




 同じ様な魔力だけが見えるように魔力視を切り替える。

 あった、薬草だ。

 俺はそれを摘むとリンナに見せた。


「凄いじゃない。良く分かったわね。才能に嫉妬するわ」

「秘術で見分けたんだ」


「どうやるの教えてよ」

「一回死ぬ必要があるのでお勧め出来ないよ」

「えっ死なないと駄目なの。それじゃあね」




 俺も手伝い薬草を摘みまくる。


「助かったわ。お返しに、何か私に手伝える事無い?」


「後学の為に工房を見せて欲しい」

「ええ、問題ないわ」




 西門の解体場に行くと、そこにはティルダが居た。


「よう、こんな所でどうしたんだ」

「西門の解体場は大物が来るから稼げるの。スキル覚えたのに魔導剣が買えないんじゃ、宝の持ち腐れだよ」

「一応紹介しておく。薬師のリンナだ。こいつはティルダ」


「はじめまして、リンナよ。よろしく」

「ティルダだよ、よろしく。解体とかの用事があったら気軽に声を掛けて」


「私は薬師だから、魔獣の解体の用事はないけど。もし、兎とか取れすぎた時はお願いするわ」

「任せて」


 ティルダは俺の腰の剣を見ると耳はピンと立てて目を見開く。


「もしかして、腰のは魔導剣。良いなあ」


 前にも見せなかったかな。

 買ったばかりの時にティルダに会っているはずだけど。

 鞘に入っているし、簡単には気づかないか。


「ああ、青狼銀の剣だ」

「私も頑張ってその内、手に入れなきゃ」


 たぶん今のティルダは魔導剣の事で気持ちが一杯なんだろう。


「じゃあな、ティルダ。もう行くよ」


 ティルダと別れリンナの工房に行く。




 リンナの工房の中は一部屋の真ん中にテーブルがあり、色々な容器が載っていた。

 壁際には竈があって、煮炊き出来る様になっている。

 反対側の壁には棚があり、出来上がったポーションが並んでいた。

 そして奥に行く扉がみえ、乾燥室の札が掛かっている。


 へぇ、ポーション作りの工房はこんな感じなんだな。


「今お茶を入れるわね。暇だったら、そこにある初心者用の教本でも読んでてよ。あなた薬草の目利きが出来るのだから、勿体無いわ。薬師目指してみたらどう」


 リンナに言われた教本を読む。

 ポーションの作り方は簡単に言うと薬草から薬効成分を取り出してスキルを掛けて完成。

 一番簡単な薬効成分の取り出し方は潰して濾すと書いてあった。

 スキルを覚えられれば薬師も出来るな。

 リンナと仲良くなったらスキルを教えて貰おう。


 リンナとポーション談義に夢中になり、長く居座ってしまった。

 明日はマリリにリクスの実を持って行ってあげないと。

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