第16話 フィギュア
「ライタ、何かしたい事ない?」
『我々は待遇の改善を要求する』
「えっ、何々」
『趣味の時間が欲しい』
「趣味って?」
『そうだな、アニメ鑑賞は無理だし。フィギュア作成だな』
「それで」
『人形を作りたいのだが、何か良い素材はないかな。ソフビかレジンみたいなのがあれば良い』
ソフビとレジンを知識から調べる。
うーん、思い当たるのは魔石だな。
「魔石が良さげだけど、勿体無い」
『抽出で生物の部分と分けたら』
「それは、考えた事が無かった」
色を抜いた魔石を生物とそうで無い物に分ける。
透明な物と白い物が出来た。
白いのが生物だな。
透明な素材を使ってライタが人形を作る。
勿論、変形スキルを使ってだ。
際どい格好をした女戦士の人形が出来る。
こんな鎧を着た戦士は居ない。
趣味だから、ライタには何も言わないよ。
塗料を要求されて買いに走り、混合スキルで器用に着色される人形。
格好はあれだが、素人目に見ても中々の物だ。
『売りに出したい』
「えっ売るの」
『元の世界で死ぬ時に何も残せなかったって後悔した。今はスキルの身の上だけど、値段はいくらでも構わないから、誰かの中に何か残したい』
「そろそろ、ルシアラ店に顔を出すから、聞いてあげるよ。作った人の名前はライタで良いよね」
『ああ、頼む』
ルシアラの店は従業員も増え益々繁盛しているように見える。
ぬいぐるみを入れた木箱が次々に店から運びだされる。
店の中の棚は取り払われ机が並び、さながら小さい町工場といった感じになっていた。
「よう、盛況だな」
俺はあちこちと指図しているルシアラに声を掛けた。
「おかげさまで、ご覧の通りだ」
ルシアラの態度には余裕が見える。
「あら、フィル、久しぶりね」
奥からマリリが出てきた。
「簡易魔道具は売れた?」
「ええ、もうそろそろ在庫も無くなるわ」
「じゃあ、追加で作っておくよ」
「誰かと思えば貴様か」
驚いた事にそこには町娘姿のセシリーンが居た。
何故セシリーンがここに、禁忌を犯したマリリを調べに来たのかな。
いや、マリリも真偽官に尋問されたはずだ。
分からなければ聞いてみるしかない。
藪蛇にならなきゃ良いけど。
「知り合いだったの。専属護衛として雇ったセシリーンさんよ」
マリリが意外そうな表情で言う。
「セシリーンさんは何故ここに?」
「教会の任務で監視の為だ。表向きは護衛という事になっている」
それ、ぶっちゃけちゃって良いの。
俺には監視が付いて無いけど、どうなんだろう。
突っつくと嫌な事が起きる予感がする。
「そうだ、今日はこの人形を売りに来たんだっけ」
ライタが作った人形を背負い鞄からおずおずと出す。
「それは、あたいの仕事だな」
ルシアラは人形を検分すると鼻で笑った。
「知り合いの職人が作ったんだ。どうかな」
「これは色街の露店用だね。こんな色っぽいのはそこじゃなきゃ売れない」
「値段は幾らでも構わないので、頼むよ」
「いいよ、扱ってやるぜ」
「数が出来たら持ってくるよ」
「ぬいぐるみ、そろそろ限界が近いんだが」
ルシアラが残念そうな口調で俺に話す。
対応策はあらかじめ考えておいた。
真似されなきゃ良いわけだから、俺にしか作れない物を使えば良い。
「簡易魔道具を組み込んで動かす、なんてどう」
「そりゃ良いね。他には無いのかい」
「今魔木の値段が下がってるから、ゴーレムで子供用家具を作る」
売り方のアイデアはあるが、後でいいだろう。
とりあえず、サンプルを作らなきゃ。
「デザインは誰がやるんだ?」
ルシアラが俺に問い掛ける。
「そこはあてがある。後で、見本を作って持ってくるよ」
まあ、あてと言ってもライタに丸投げなんだけど。
ルシアラの店からの帰り道にゴブリンクラスの魔石を仕入れ、ぬいぐる用簡易魔道具の作成に取り掛かる。
生物の部分だけの魔石を使うと簡易魔道具はコンパクトに作れた。
魔石によって動作を変えよう。
まずは尻尾をふりふり喜んでいる時の動作だな。
舌があると感情表現にも幅が出るな。
ぬいぐるみも合わせて作る。
魔道具を組み込む場所は首輪で決まりだな。
首輪に触って念じると動いたり止まったりするように作った。
簡易魔道具が段々と小さくなるので固定が面倒だ。
何故、段々と小さくなる。
今まで疑問に思わなかったけれど、何か理由があるはず。
無難な考えとしては簡易魔道具を動作させると段々と魔石が死んでいくって事だ。
単純に考えれば力を使って死んだと考えるべきだろう。
この力っていうのは魔力なのかな。
魔石に魔力を充填したり吸い取ったりしても魔石は死なない。
という事は魔力を動かす未知のエネルギーがあるのだろう。
それを補充してやれば魔石は死なないって事なのか。
実験だな。
起動する時に魔力と魔力を動かす力を補充するような機能を持たせ、簡易魔道具を作る。
やった、使っても小さくならなくなった成功だ。
途中で魔石が小さくなる。
魔力を動かす力が尽きたのだろう。
この辺は調整だな。
動くぬいぐるみだけでなく、使っても消耗しない簡易魔道具も出来あがった。
この魔力を動かす力って何だろう。
やばいな、考えると禁忌を踏みそうだ。
とりあえず、魔力を動かす力とだけ認識しておこう。
新しい簡易魔道具を作る為に宿の人間から、スキルを教わる事にした。
料理人からは種火と冷却を、女将さんからは照明を。
雨続きで洗濯物が乾かない時に呼ばれる近所の奥さん達からは送風と乾燥を教わった。
マリリに売る簡易魔道具は洗浄、生水、種火、照明と四種類になった。
後々、冷却は冷蔵庫、乾燥はドライヤー、送風は扇風機を作りたいと思う。
並列システムをフル稼働して、簡易魔道具とフィギュアを量産する。
魔石の仕入れの為に冒険者ギルドに行くとフェミリに捕まった。
「魔木でもの凄く稼いでいるでしょう。何かよこしなさい」
「これ、これからもの凄く評判になる予定の簡易魔道具」
俺はめんどくさくなったので持っていたサンプルの簡易魔道具、四種類を渡す。
「簡易はついているけど、魔道具なのよね。悪いわね」
使い方を説明すると、段々と顔が驚愕に縁取られる。
何か失敗したか。
「魔石を食わせなくても作動する魔道具なんて、簡易どころか高級じゃない」
あちゃー、失敗したな。
どうしよう、マリリには高く値段を付けて売る手だな
「使い心地を試してみてくれ。作ってる職人が知り合いなもので感想を聞きたいと思う」
「じゃあ、追加で二十二人分ね」
うわ、ちゃっかりしてるな。
「はい、はい。ところでアイテム鞄と魔剣とエリクサーを買いたいのだけど」
「何も知らないのね。それらはオークションじゃないと手に入らないわ」
オークションは少し面倒だ。
たしか、忙しい人は代理人を立てるのだったな。
それなら、ダンジョンも行ってみたいし、自分で探すのも一興だろう。
「ありがとう、もう行くよ」
それから、ルシアラの店に行き簡易魔道具とフィギュアを納入。
数はマリリ方は五十セット、ぬいぐるみ用は千個作ったから当分大丈夫だろう。
マリリ方の簡易魔道具は一つ金貨三枚、ぬいぐるみを動かす方は銀貨一枚、フィギュアの値段は大銅貨五枚にした。
猫のぬいぐるみの話題が出て、何となくティルダの顔が浮かんだ。
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