第15話 超越者

 俺はゴーレム三体にぬいぐるみを持たせて、冒険者ギルドに行く。

 朝のギルドは依頼を取るための冒険者で溢れかえっていた。


 三体のゴーレムを引き連れた俺は注目の的だ。

 しかし、ゴーレムの武器がぬいぐるみでは締まらない。


「こっちよ」


 フェミリが呼んでいる。

 そこには十人の男達とフェミリがいた。


「遅くなりました」

「凄いわね、ぬいぐるみ。どうやったの。売り切れのはずよ」

「そこは裏技を使ったんだ」


「まあ、良いわ。ポーズは全部違うのね」


 伏せたポーズ、あくびのポーズ、吠えるポーズ、寝そべったポーズと色々苦労して考えた。

 作るよりポーズを取らせる方が時間が掛かったくらいだ。


「仕事に掛かりましょ。メンバーは毎日変わるから紹介はしないわ。ここに居るのは全てゴーレム使いのポーターよ。何か質問は」

「えっと、俺は木を切るのと寄ってきたゴブリンの排除をすれば良いんだよな」

「ええ、ポーターの皆さんはオークの領域で仕事しているから、輸送途中に出てくるゴブリンを蹴散らす事ぐらいは余裕よ」


 俺達は門外の倉庫に行き個々のゴーレムを共にゴブリンの森へ出かけた。

 俺が風魔法で木を切ると歓声が上がる。


「そんなに凄くないと思うけど」

「冒険者やっている自称魔法使いはそんな威力の魔法撃ったら、一発で魔力切れさ」


 中年のゴーレム使いが答えてくれた。


 俺は一分間隔で次々に木を魔法で切る。

 ゴブリンは相変わらず出てこない。

 木を切るだけなのは楽だな。

 木の代金が半額になるとは言え、このペースで切ったら一日金貨千枚は硬いな。


 順調なのは昼までだった。

 ゴブリンの大群が湧き出てきた。

 その数、千は超えるだろう。


 流石に千は想定してなかった。

 ポーターの男達は馬ゴーレムに乗って逃げ出していない。

 上位種は俺をターゲットにしているらしく、逃げて行くポーターには目もくれなかった。

 逃げて街まで引き連れて行ったら、刑罰物だよな。


「ライタ、どうしよう」

『しょうがないな。魔力ゴーレムにスキル入れろ』

「それしか、ないか」


 俺は魔力ゴーレムを作り、おっかなびっくり魔法スキルを入れる。

 魔力ゴーレムは次々に出撃し、ゴブリンの大群の中で火魔法の爆発を起こす。

 魔力ゴーレムの自爆に思えるが、魔力ゴーレムは物が通過する為ダメージは無い。


 酷い事になった。

 爆発音で耳がおかしくなりそうだ。

 爆発の振動で内臓がかき回されるよう。


 半分ほどのゴブリンが吹っ飛んだら、森の奥から2.5メートラのゴブリンが出てくる。

 おー、ゴブリンキングって奴か。確かCランク魔獣だったよな。


「ライタ、あいつをやるんだ」

『分かってるって』


 魔力ゴーレムの一体が抱きつき大爆発を起こした。

 うん、魔力の制限が無いって反則だな。

 素材は無理そう、魔石ぐらい残ってないか。

 ゴブリン共はキングが倒されると散って行った。


 ギルドに行き後始末を頼んだ。

 後始末と言ってもゴブリンから魔石を抜くだけだが。

 Fランクに良い稼ぎの依頼が出来たとギルドは喜んでいた。

 死体は魔境の森では驚くほど早く消える。


 木を切る作業は再開された。

 その後ゴブリンは見かけなくなり、その代わりにねずみ魔獣や兎魔獣が襲ってくるようになる。

 魔獣の生態系が変わったのだろう。


 魔木の値段は現在転落の一途で、今では十分の一程の値段になる。

 それでも、伐採は美味しい仕事で、一日金貨百枚は稼げる。

 貯金も金貨三千枚を超え、ランクもCになった。

 ゴーレムの武器を鋼鉄製より良いものに換えたら、瞬く間に金貨三千枚は飛んでいくのだろうな。




 朝、ギルドに行くと今日は何やら物々しい

 鎧を着た一団の中に見知った顔を見つけた、セシリーンだ。

 セシリーンは俺を見ると側に寄って来て言う。


「フィル、貴様を逮捕する」


 えっ、俺逮捕されるのか。何の罪でこうなった。

 大人しく一団に囲まれ教会に連れ込まれる。

 あまり大きくない部屋の椅子に座らされ、テーブルを挟んで対面には椅子が二つ。

 しばらくして、セシリーンともう一人女性が入って来て腰掛けた。


「尋問を始める」


 セシリーンが口火を切った。


「真偽官のジェリサ。よろしく」


「まず最初に言っておく、禁忌の内容は喋るな。質問には短く答えろ。ジェリサ様どうぞ」


 何で呼ばれたのかが分かった。

 禁忌を犯したからだ。


「真偽鑑定、殺人を犯した事はあるか?」

「いいえ」


「真実だ。真偽鑑定、禁忌を犯した人物を知っている?」

「はい」


「真実だ。真偽鑑定、それは誰だ?」

「マリリと俺です」


「真実だ。真偽鑑定、禁忌を犯して犠牲者は出たか?」

「出たような、出ないような」


「おい、はっきり答えろ」


 セシリーンが口を挟む。


「幽霊のライタが死にました」

「真実だ」

「そんな馬鹿な。教会は幽霊の存在など認めてない」


 怒り口調で話すセシリーン。


「真偽鑑定は信じきっていれば真実だと判定される。この者にとって幽霊は実在するのだろう」

「幽霊を殺したのでは罪に問えない」


「正確にはライタを殺したのはマリリです」


「こんなの認められない。お前は禁忌がどれだけ危険なのか知らないのか。都市が一つ吹き飛ぶ事もあるんだぞ」

「危険は知ってます。何回か死に掛けました」


「どうしたものでしょう」

「教会には捜査権しかありません。これでは告発できない」

「あの、禁忌を犯した罪という物は存在しないのでしょうか?」


「それは何故か分からないが、教会の教義で罪無しになっている」

「犠牲者がいないと罪に問えないと」

「忌々しいが、その通りだ。犠牲者がいれば、貴族や王族が処罰されない場合でも教会が圧力を掛けられるものを」

「俺はどうなるのでしょう」


「そこから先は私が引き取ろう」


 いつの間にか部屋の中にローブを着た男が居る。

 若くも見え年寄りにも見える不思議な印象だ。

 良く見ると透けていた。

 これこそ、幽霊じゃないか。


 二人を見ると椅子から降りて平伏している。


「どちら様で」

「教会では神様とか呼ばれているけど、私達は超越者を名乗っている。ちなみに名前はあなたには発音出来ない。別の名前で呼ばれるのは気分が悪い」


「超越者様と呼んでも良いですか?」

「ああ、結構だ。記録を調べたら、大変興味深い。結論から言おう、今回の件は無かった事として扱う」


「超越者様、説明はして頂けるのですか?」

「説明は一切しない。その代わり回路魔法を授けよう」


 頭の中に回路魔法の情報が入ってきた。

 契約魔法の代わりにスキルを植えつけられるスキルだ。

 しかも、魔石とゴーレム限定。

 魔力視やスキルが無い場合でも爆発しない。

 失敗した場合何も起こらないだけだ。


 こんな便利な物が作れるのだったら、最初から用意して欲しい。


「ありがとうございました」


 俺がお礼を言うと超越者は居なくなっていた。


「これに懲りたら、もう禁忌は犯さない事だ」


 しばらく呆けていた俺にセシリーンが話しかけて来た。


「ええ、禁忌の大半は魔石に「それ以上言うな」」


 俺の言葉をセシリーンが遮る。


「禁忌はな、内容を聞いただけで死に至る物がある。禁忌の内容は墓に持って行くのだな」

「分かりました」


 超越者の目的は何だろう。

 分からないな、情報が少なすぎる。

 それに、スキルを自由に作れるのなら、禁忌が起きないように契約魔法を修正できるはずだ。

 禁忌自体が罪にならないってのも不自然に思う。

 分からない事が多すぎる。


 やれやれ、今日は散々だった。

 お金も溜まったし、そろそろ何か違う事がやりたいな。

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