第9話 子犬ゴーレム

 朝一で魔木工々房に行った。


「おはようございます」

「また、あんたか」

「魔木の切れ端を貰いに来ました」


 追加で五体のウッドゴーレムを作成。

 十体にゴーレムが増えた事で、形が同じだと指示を出し辛いので、微妙に形を変える。

 角が生えてたり、肩の所が棘があったり色々だ。

 それと、幾つか木片を鞄に入れる。




 次は皮の加工場だ。


「おはようございます」

「む、何かな」

「ホーンラビットの毛皮が欲しいのと、端切れが色々欲しいと思いまして」

「プレゼントを作る女の子とか、良く革を買っていくけど、男は珍しいね」

「プレゼントを作るのだけど何か」

「いや、良いんだ。気を悪くしたかい。端切れはただであげるよ」




 次に行ったのは雑貨店で、石で出来たゲームの駒を買った。


 この買い物は子犬ゴーレムを作りマリリのお土産にする為だ。

 二体目の犬ゴーレムは細部にこだわる事にしよう。

 目には黒い石、鼻は黒い革、口の中は赤い革、足の肉球も革で再現、体の芯には木を入れた。

 うーん、素晴らしい出来栄え。


 それはそうと、十体のゴーレムの置き場所どうしよう、部屋が狭くてこれ以上ゴーレムを入れるのは問題だ。

 無料ただだから盗まれても構わないので、野ざらしかな。

 高級な材料で作ったゴーレムに切り替えた場合はその時に考えよう。

 とりあえず宿の人間に許可を取って裏に置くことにした。




 マリリが現在、下宿している土産物屋を訪ねると、そこは馬ゴーレムを持って行った所だった。

 ドアを開けるとベルがカランカランと鳴る。

 店の中は棚が所狭しと並び色々な商品が陳列されている。

 奥にはテーブルと椅子があり、商談用のスペースらしい。

 部屋の中はかすかに香水の匂いがした。


 中にはマリリともう一人ドワーフの少女が居る。

 ドワーフの少女は俺の三分の二程の身長でとても若く見える。

 実際は何歳なのかは分からない。

 髪の毛は短めで、つなぎのズボンを穿いて、男の職人みたいな格好をしていた。




「おはよう」

「おはよう、こちらは友人で店主のルシアラよ」


 マリリが俺に挨拶を返す


「初めまして、フィルです」

「おう、初めまして。あたいは口が悪いけど勘弁な。男所帯で育ったもんでな」


 口が悪くて店主が務まるのだろうか。


「あまりお金にはならなかったけど、馬ゴーレム銀貨六枚で売れたわよ」

「そう、元が無料ただだから仕方ない」


「子犬また作ってくれたの」

「うん、おみやげ」

「ほほう、良く見せろや」


 マリリの方に歩かせた犬ゴーレムをルシアラが手に取る。


「これは中々良いな。作ったんだろう。何個作れる?」

「材料があればいくらでも作れるけど」

「じゃあ、材料の手配するから、とりあえず百個な」

「ちょっと、そんなに大丈夫」


 心配そうなマリリ。


「あたいの店は露店の卸しが殆んどだから、倉庫に入れとけばすぐになくなるさ」


 千個ぐらい余裕で売れる商品にならないかな。

 ライタの知識を探る。

 出た答えが付加価値。


 付加価値って何が良いかな。

 俺の強みはゴーレムになるから、それを活かすとなると。


「ゴーレムなんだから、それを活かして一回だけ好きなポーズに変更出来るなんてどうかな」

「なんだって、そりゃおもしろい。女のゴーレム使いを雇って露店をやらせりゃ良い」


 女のゴーレム使いは不遇だ。

 建築現場は大抵男の職場になる。

 冒険者もそうだ。

 女のゴーレム使いの活躍の現場は限られた。


 それと、ゴーレムの形が出来ている物をゴーレムにした場合はスキル発動の時のイメージが殆んど要らなくなる。

 使役したいとだけイメージすれば良い。

 戦闘に使う場合には素早くスキルが発動出来て重宝する技だ。


「魔力、足りますか?」

「ああ、それがあったな。ゴーレムの魔力量は大体、体積に比例するだっけな」

「そうだよ。俺が作ったところでは人が魔力10、馬が魔力40、子犬が1から2ってところだ」

「魔力が100として一日五十個までなら売り上げ的に問題ないな」


「どうせ、ゴーレム使いを用意するなら、材料を用意しておいてその場で作るなんてのもどうかな。当然リクエストに従って色んな形を作る」

「他にはないか」

「名前入りなんてのも良いかも」

「そうだな、それも良い」

「それと、忙しいから百個の後は他の人に作らせて」

「良いのか、金が入らないぞ」

「俺の勘だけど、流行るとすぐに真似されるから」

「ああ、そうだな……」


 ルシアラは考えに没頭し始める。

 コピー商品対策を考えているのだろう。

 こういうのは知識によれば品質にこだわりブランド化で乗り切るか、常に新しいデザインなりを考えるかしないといけない。

 楽な商売は無いとライタの知識も言っていた。




「マリリの方は商売はどんな感じ」

「あのね、それなりよ」


 何か隠している感じだ。

 商人なのに隠し事が下手だなぁ。


「何かありそうだけど」

「それがな、妨害にあっているらしい。仕入れ先が全部断ってきたと聞いたぜ」


 ルシアラが会話に割って入る。

 そうか、あの意地悪な従兄弟が手を回したな。


「ルシアラ!」

 マリリが少し気色ばんだ。


「あたいの店を手伝ってくれるのは嬉しいけど、やりたい事あるんだろ」

「言わないで」


 マリリのやりたい事なら知っている。

 亡き父の理想を受け継いで、新しい画期的な商品を作ろうとしている職人を支援する事。

 もちろん、画期的な商品が出来た時には商売として見返りも貰うという目算だ。


「俺で良かったら解決作を一緒に考えるよ」


「申し訳ないのだけれど、子犬みたいに材料が容易く手に入る商品を考えてほしいのよ」

「少し時間を貰っても良いかな、考えてみたい」

「ええ、フィルありがとう」


 土産物屋を後にしてから気づいた。

 魔石マリリに売ってないや。

 まあ、次の機会でいいだろう。


 新しい商品かぁ。

 手に入る材料は生乾きの皮と魔石だけだな。

 魔石でゴーレム作った場合に置物として見ると、赤くて半透明なので綺麗だけれど。

 変形スキルで職人が作った方が形的には良いものが出来るだろう。


 まあ、商品のアイデアは考えつくには考えついたけど、ぱっとしない。

 布で着ぐるみゴーレムを作って子供用のパジャマにする。

 上手く作れるかな、強度が下がってすぐに破れそう。

 それと、着脱するための加工が必要だ。

 それにすぐに真似される。


 もっと大掛かりな物、例えば石像とかどうだ。

 でも、芸術作品を作る自信はないな。


『腹案があります』


 俺は知らず知らずのうちに声に考えを出していたのだろう。

 ライタが話しかけて来た。

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