第8話 グラスウルフ狩り
南門から草原に行くと子供達がホーンラビットを狩る為にそこら中にいた。
棍棒やナイフなど思い思いの武器を装備して元気に飛び回っている。
南の草原は草が生えるスピードが異様に早い。
一日で三十センツぐらいは伸びた。
ホーンラビットはこれを昼夜問わず食べ、グラスウルフは夜間狩りをしていた。
他にいる生き物は掃除屋と呼ばれるスライムぐらいで、昼間は安全な地域だ。
ゴーレムを五体引き連れた俺を見ると皆、呆気に取られる。
目立っているな。
グラスウルフの巣穴を探す。
巣穴の出口の近くに骨があるので、ホーンラビットの巣穴と間違えたりしない。
見つけた、骨が近くにある巣穴だ。
魔力視で巣穴の中の魔力を探る。
魔力視は障害物を苦にしない、最近分かった事だ。
巣穴の中には五頭の反応があった。
ゴーレムと同数なら問題ないだろう。
そこに買っておいた煙玉を放り込む。
2メートラ程のグラスウルフが躍り出る。
グラスウルフは睡眠を邪魔され凄い唸り声だ。
俺は石で作った剣ゴーレムを握り締めいざという時の為、筋力強化を発動する。
魔木製のウッドゴーレムはグラスウルフに負けない速さで動く。
ゴーレムが一体、グラスウルフに駆け寄りメイスで振りかぶり殴る。
メイスを避けられ、反撃で首筋に食いつかれた。
ゴーレムは構わず地面に押さえ込み、他のゴーレムの石のメイスで殴って止めを刺した。
グラスウルフが一斉に動く。
ライタはなるべく一体一になるように動いている。
戦いは乱戦模様になった。
あっ、ゴーレムが手を噛み付かれたな。
ゴーレムに痛覚が無いのが救いだ。
果敢に押さえ込むゴーレム。
側に居た一体のゴーレムがメイスで横なぎに殴る。
こんな光景を繰り返し、グラスウルフは次々に討ち取られていった。
数の有利をなんとかしないと群れは厳しいな。
しかも、最初に一頭、仕留められたのが功を奏した形だ。
倍にゴーレムを増やそう。
魔法による援護という切り札もあるが、無敵には程遠いな。
ゴーレムにグラスウルフを担がせ歩く。
子供の称賛の眼差しを受けて、実に良い気分だ。
けど、子供の称賛ではなと思う気持ちも。
南門の近くにある解体場はホーンラビットを二人掛りで持ってくる子供達で溢れていた。
あちゃー、これは順番待ちが大変だな。
待っていると袖をくいくいと引かれる。
汚い格好の猫獣人が居て、よく見ると女の子のようだ。
頭の毛並みは白に黒の斑模様で痩せている。
スラムの住人かな。
耳をピクピク盛んに動かしていた。
「何か用?」
「グラスウルフ解体してあげるから、グラスウルフの肉頂戴」
グラスウルフの肉は確かに安い。
確か大銅貨三枚にも満たない値段だったはず。
「順番待ちはどうするんだ」
「仲間がいるから大丈夫」
ここは頼む手だろう。
「じゃあ、よろしく」
彼女の案内で行った解体場にはスラムの住人と思われる人間が三人いて、解体ナイフを手に俺みたいな人間が網にかかるのを待っていた。
俺はグラスウルフ五頭を渡し、三人によってグラスウルフの皮は剥がされ解体される。
その間、猫獣人の彼女と話す事にした。
「俺はフィル。君はいつもここに居るのかな」
「私はティルダ。大体居るわ」
「見たところスラムの住人みたいだけど、もっと割の良い仕事はないのか」
「大体の店がスラムの住人お断りだから、装備を整えて冒険者になるのが夢よ」
「冒険者は今日が初日だけど、ランクを上げる手っ取り早い方法はない?」
「そうね、Bランク試験を受けるのが早いと思う。でも、まず受からないわよ。ソロでオークが狩れないと無理みたい」
オークはCランクの魔獣だ。
ウッドゴーレム五体でなんとかなると良いんだけど。
「ちょっと出てくる」
「あなた、私達が逃げるとか考えないわけ」
「ああ、信用している」
俺はゴーレムを引きつれ再び草原に出る。
ホーンラビットをゴーレムで囲み次々に三匹討ち取った。
急いで戻り、俺は解体場のティルダにホーンラビットを渡す。
ホーンラビットは八十センツほどあるから、三匹もあれば腹いっぱい食えるだろう。
「これを仲間内で分けろ」
「何故? 施し? それとも、哀れみ」
ティルダは尻尾の先をピクピクと動かす。
「あー、情報料だな。もっと色々聞かせてくれ」
「西門から出てすぐに森があってゴブリンの森って呼ばれているわ。初心者はまずここに行くみたい」
ゴブリンはFランク、十匹以上でEランク、二十匹以上でDランクだ。
「そこを、卒業したらどうするんだ」
「南の草原でグラスウルフ狩りをしたら、西門からしばらく行ったオークの領域が定番だわ」
グラスウルフがEランク、オークがCランクだな。
「それで」
「そうしたら、更に奥のワイバーンの領域か、東門から行った所の荒野ね」
ワイバーンはSランク、荒野のオーガはAランクだ。
「なるほど」
まだ道のりは遠いな。
「冒険者の憧れの装備があって、それが魔剣、アイテム鞄、エリクサーよ」
「魔剣は金貨一枚から手に入ると聞いたけど」
「切れ味が少し良くなるのならね。高いのは金貨千枚らしいわ。アイテム鞄とエリクサーも同じ様な値段みたい」
「アイテム鞄って何」
「物が際限なく入る魔道具らしいわ」
冒険者辞めたらアイテム鞄を持ってマリリの手伝いとかできたら最高だろう。
目標にアイテム鞄を加えよう。
「それはどこで手に入るんだ」
「勿論ダンジョンよ。最奥のボスが落とすと聞いたわ」
ダンジョンには行ってみたいな。
魔道具も沢山あるらしい。
「ところで、ホーンラビットを皆は狩らないのか」
「武術スキルは持ってないから、手に余るわ」
スキル持ってないとFランクも厳しいのか。
俺は何かズルしているような後ろめたい気持ちになる。
「あの、ホーンラビットを追い回している子供は武術スキル持ちなのか」
「そうよ、私も頑張って鍛えているから、装備が整う頃には武術スキルが獲得できるはずよ」
更に、彼女から冒険者のあれこれを聞き終わった頃には解体は終わっていた。
買取窓口は思ったほど混雑していない。
ホーンラビットの素材を家に持ち帰る子供が多いのかな。
肉と魔石は家庭でも需要があるのだろう。
「これお願いします」
窓口で声を掛け、皮をカウンターに載せる。
「冒険者カードをお願いします」
カードを差し出し、しばらく待つ。
「グラスウルフの皮、五枚でポイント5です。金額は銀貨四枚と銅貨二十枚になります」
後95ポイントでEランクに昇格だ。
カードとお金を受け取り、窓口を後にする。
魔石はマリリに売りたい。
マリリに会いに行ってみようかな。
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