第6話 街へ帰還
眩しさに、手を目の前でかざすと、窓から射し込んだ朝日が顔に当たって眩しい。
早起きしたので、散歩に出かけ、ふと疑問が沸き起こった。
ライタの正体ってなんだろう。
それには、頭の中にある魔力の塊ってなんだって事が分からないと。
そもそも、魔力って。
魔力は神から全ての生き物へ授けられた物というのが教会の見解だ。
魔力の正体を突き止める事は禁忌とされている。
考えを突き詰めていくと禁忌を踏みそうだ。
あぶない、あぶない。
魔力視を得るのとライタを復活させるので二回も禁忌を犯していた。
これ以上はなんか不味い気が。
帰ってきたら出発の時間だった。
しまった、朝食くいそこなったぞ。
と思ったらマリリがサンドイッチを用意してくれていた。
馬車に行くと出発の準備は終わっていて、見送りに村長のルパートと孫の兄妹が来ている。
「道中お気をつけて」
ルパートが言い。
「俺も大きくなったらゴーレム使いになるんだ」
「お姉ちゃん、お兄ちゃんさようなら」
パリオとリエリが続いて言った。
「「スキルのお導きがありますように」」
マリリと俺が別れの言葉を口にする。
「「「あなたにもスキルのお導きを」」」
村長達が返してきた。
手を振りながら、馬ゴーレム三体を引き連れ村を出発する。
半日ほど馬車を歩かせると風景は段々木が少なくなっていき、遂に草原に変わった。
馬と牛を放牧しているのが見えるようになる。
ここまでくれば街まであと少しだ。
子供達がホーンラビットを追い掛け回している風景があちこちに見かけられるように。
この草原のホーンラビットは群れないから棍棒があれば子供でも討伐できた。
城壁が見えいよいよ街に帰って来たという気分になる。
門の所には街に入るための列が並ぶ。
馬車のための入り口には三台ほどの馬車が待っていた。
俺達の番だ。
「罪状鑑定、罪状鑑定。おい、積荷を確認してくれ」
俺は罪状鑑定スキルの発動と共に飛んできた魔力に合わせて魔力走査する。
上手くいくか賭けだったが、勝ったようだ。
どうやら感情で魔力が乱れるのを魔力を使って調べているみたい。
どんな時に役立つか分からないから後で覚える事にした。
別の門番が荷台に入り積荷を確認する
「不審物、不審人物ありません」
「通ってよし」
「「ご苦労様です」」
俺達は門番に会釈しながら通り過ぎ。
門をくぐると石畳の大通りがあった。
向かって右には解体場があり、獲物を荷車で運び入れている。
その横には買取窓口があり、解体が終わった素材の値段をつけている。
反対側の向かって左には酒場があり、冒険者が祝杯を挙げる様子が見られた。
いずれも冒険者ギルドが運営しており、この南門と同じ様な施設が東門と西門にもあった。
更に通りを進むと大商会が店舗を構える区画になる。
マリリの指示で馬車は左に折れ、市場街に向かう。
「ここに停めて」
市場に近い、ある八百屋の前でマリリが言う。
八百屋には日よけがありその下の台には色とりどりの野菜と果物が並んでいる。
馬車を停めるとマリリは御者台から飛び降り、声を掛ける。
「おばさん居ます」
「おや、マリリじゃないか。行商の帰りかい。あの、いけすかい伯父さんは?」
八百屋の女主人らしき人が奥から出てきて労う様に言った。
「伯父さんは魔獣に襲われて魔力の源に」
「そりゃ大変だね」
「今日は余った食材を引き取ってもらいたくて」
村人から貰った食材はマリリに全部売った。
マリリの手助けになれば良いけど。
「あんまり出せないけど買い取るよ。そこの坊主さっさと運びな」
俺はせっせと村で貰った食材を店に運び入れた。
「それでマリリ、お前さんこれからどうするんだい」
「独立して商会を作ります」
「何かあったら言いなよ力になるよ」
「ええ、頼らせてもらいます」
そうか、マリリは商会を興すのか。
再び御者台に座り、馬車を走らせる。
馬車は再び大通りに引き返し、そこから一本奥に入った通りにニエル商店はあった。
商店の裏手は馬車を停める場所になっていて、そこに馬車を入れる。
商店は三階建てで一階と二階が店舗、三階が住居になっていた。
この辺りの店としては普通の規模だ。
ニエル商店の商業ギルドランクはCで冒険者に例えると駆け出しを卒業できたというところだった。
魔石と当座の金が入った背嚢を背負い、マリリ用の馬ゴーレムに跨る。
後はマリリに任せて退散する事にした。
店の前を通ると怒号が中から聞こえてくる。
「なんだって父さんが亡くなったって!」
と若い男の声。
「あんたは恐い子だよ! いつかやらかすと思っていたよ!」
と中年の女性の声。
「今まで育てた恩を忘れやがって!」
再び若い男の声。
マリリは大丈夫だろうか。
店の中に入りたいけど、俺が行ったら火に油を注ぐ結果になりそうだ。
とりあえず、後ろ髪引かれながら、その場を後にする。
そして、マリリに言われた土産物店の馬車置き場に馬ゴーレム全てを入れ、待ち合わせの為に職人街へと足を向けた。
職人街には注意してみると色々な工房があった。
魔木を扱う工房、鍛冶屋、皮細工を作る工房、服飾を専門にする工房など多種多様だ
臭いも様々で木工の工房では木の良い臭い、鍛冶屋では木を燃す煙と金属の臭い、皮の工房では薬品の臭い、服飾の工房では染料の臭いがした。
地図を片手にゆっくりと目的地に向かう。
マリリによれば料理が上手いと評判の食堂が目的地だ。
待ち合わせの食堂は裏通りにあり、客は殆んど労働者だった。
夕方近くという事もあって、店の中は混雑している。
マリリの名前を出し、奥の個室を開けてもらう。
一時間ほど遅れてマリリは晴れ晴れした顔でやって来た。
「どうだった?」
「店とは無関係になれたわ。色々と後腐れはしそうだけど」
「俺がもっと上手くやれれば……」
「そんな暗い顔しないで明るくやりましょ」
「マリリ商会の為にも魔獣の素材いっぱい獲ってくる」
「はいはい、期待しているわ」
料理が運ばれ、まず最初に何の肉か分からない、から揚げを摘まんだ。
口の中に肉汁が溢れとても美味しい。
「それ美味しいでしょ。オーク肉よ」
オークはCランク魔獣で美味い餌しか食わないグルメ魔獣として知られていた。
ホーンラビットを使ったパスタを食べる。
甘みのあるホーンラビットの肉と辛味のあるソースとしこしこしている麺がとても美味しい。
満腹になるほど料理を食ってマリリと別れた。
服屋を探して職人街をうろつく。
スラムの住人に間違えられるトラブルはあったが無事服を手に入れられた。
店を出て宿屋街に行く。
良さそうな宿屋を見つけた。
高すぎない値段が看板に書いてある。
客も駆け出しの商人が多いようだ。
今度はトラブルはなかったが、頭がボサボサなので胡乱な目で女性従業員に見られる。
視線がしょっちゅう頭に行くので思い切って言ってみる。
「そんなに気になるのだったら、金払うから整えてくれ」
「やってあげる。銀貨二枚でどう」
ちっ、高いな。銀貨二枚は宿賃と同じだ。
「やってくれ。高いが奴隷解放の門出だ」
「そりゃめでたいね。でも負けてあげない」
俺は従業員の待機部屋に入り椅子に腰掛けた。
彼女は鋏を取り出し、俺の髪の毛を切り始める。
丁度いいや、彼女を罪状鑑定の実験台にしよう。
後ろに体内ゴーレムを出し、彼女に張り付かせ魔力の揺らぎを調べる。
ピクリとも反応しないのだけれど、こんなんで良いのかな。
揺らがせればいいのかな。
ライタが言いそうな事を思いつく。
ええい、やれば良いんだろ。
「いきなり聞きますけど好きな人います?」
「やだぁ、お客さん私に惚れた?」
彼女に背中を強く叩かれた。
おお、魔力が一瞬すこし揺らいだぞ。
罪を計るのじゃなかったのかよ。
ようするの動揺していると引っ掛かるのか。
「いいえ、聞いてみただけ」
「また、またぁ。とぼけちゃって。ヴェラよ、あなたは?」
「フィルだよ。よろしく」
身なりも整ったし、明日は冒険者登録だ。
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