第5話 魔法攻撃

 知らない天井だ。

 そうだ、村長の家に泊めてもらった。


 今のところ苦戦はしてないけど、ゴーレムをクレイゴーレムからストーンゴーレムに切り替えるべきだろうか。


 さっぱりしたら何か良い案が浮かぶような気がして、井戸から水を汲み体を拭く。

 段々と汚れていく手ぬぐいと桶の水。

 うあ、汚いな俺。

 汚れた水を見てこびりついた奴隷の精神が落ちていったような気がする。


 並列システムを作動させて、ライタに相談する。


「なあ、後々ストーンゴーレムに変えるべきだろうか」

『そうだな、でもストーンゴーレムは駄目だ。少し硬い以外に良い所がない』


「じゃあ、どんなのが良い」

『早いのが良いな』

「予算の関係でトレント材は絶対無理だ。魔木のゴーレム一体が良いところだな」

『ゴーレムはそれで行こう。うひひひ、約束の魔法の時間だ。魔法撃つのが夢だった』



 畑に向かうとそこにはラッシュボアがいる。

 相変わらず野菜を齧っている。

 俺が見ていても反応を示さない。


 今日は見物人が多い。老若男女、大勢が見物している。

 昨日の農夫が触れ回ったのだろう。


 俺は着ぐるみゴーレムで回復に努め、ライタが魔法を撃つ。

 20センツほどの風の刃が手元から出て、ラッシュボアに当たり出血した。

 しょぼいけど、魔力の器が小さいから、これが限界だ。

 おおっという、どよめきが見物人から起こる。

 見世物じゃないと言いたいけど、楽しみの無い村なのだろう。


 ラッシュボアが突進の準備を始める。


※※こめこめ波』


 ライタは今度は5センツの火の玉を撃つ。

 火魔法は顔に当たり、顔面で爆発。

 ライタ怯んだ隙にもう一発撃った。


 ラッシュボアはどうっと倒れる。

 魔法もそれなりだな。

 見物人のどよめきがかなり煩い。


 解体は農夫に任せた。

 解体料は肉だ。


 しかし、ラッシュボアには逃げるという頭がないのかな。

 ちょっと謎の生態だ。

 なんで逃げないのだろうな。

 昔ライタに聞いたヤンキーの話を思い出した。

 確か肩がぶつかると襲ってくるのだったな。

 なめられていないとにらみ合いに発展する事もあると言ってた。

 俺はなめられているのだろうか。




 次の畑には柵が設置されていて、被害が無いようだ。

 柵は壊さないのか。

 またも不思議生態だ。

 解き明かしたところで無駄知識に終わりそう。

 真面目に討伐するとしよう。


 魔法に敵うラッシュボアは現れず、この村の畑からラッシュボアを一掃する事に成功した。




 村人から教わった岩が剥き出しになってる場所へ行く。

 石の素材の馬ゴーレムを作る事にした。

 丁度良い石の塊がある。

 青みがかかった灰色で馬ゴーレムにしたら映えると思う。

 馬ゴーレム三頭を村長宅の庭に連れて帰る。

 一頭はマリリにあげよう。

 残りは街に着いた時に売り払う予定だ。


「マリリ専用の馬ゴーレム作った」

「ありがとう、立派なのが出来たわね。フォレストウルフの素材、相場より安いけどこれで我慢して」


 マリリがフォレストウルフの素材お金を差し出してくる。

 お金は銀貨四枚と銅貨数枚だ。


 初めて稼いだお金だ。

 打ち上げに使ったら、残らないだろう。


 ラッシュボアのお金は何に使おう。

 護身用の武器と防具は高いからきっと買えない。

 服がボロボロだ、新しい服が欲しいな。

 宿代も一週間ぐらいは要る。


 とにかく、まだまだ稼がなくちゃ。


 しばらくして、村人が続々と肉のお礼の品と魔石と皮の代金を持ってきた。


 持ってきた物はメェメのチーズ、リクスの実、辺境茄子、岩石かぼちゃ、干し肉、名前を知らない茸などだ。

 メェメは大人しい2メートラほどの高さに頭がある四本足の魔獣で、人にも慣れ高品質な乳を沢山出す。

 メェメのチーズは絶品だとマリリから教わった。

 リクスの木は森だとどこにでもあるもので実は甘くて大変美味しい。

 マリリに聞いた話では魔境にあるリクスの実は頬っぺたが落ちるほど美味しいのだとか。

 辺境茄子と岩石かぼちゃは荒れた土地でも育つ野菜でどこの村でも大抵、植えてあった。

 この二つは安いので何度も食べた事があった。

 干し肉と茸も美味しそうだ。


 日持ちのしない物は村長に宿代として寄付をする。

 保存できる物は馬車に運び込むように頼んだ。


 今日の反省をする。

 魔法は強いけど、Eランクを一発で倒せない。

 たぶん盗賊とかには無双出来るけど、連射しないとDランクの魔獣には厳しいかな。

 それに穴だらけにすると素材の価値が下がる。


 魔法は手元から加速する為、素早い奴には避けられそうだ。

 風魔法は熟練の冒険者には避けられるというから、魔獣にも期待薄だな。

 使い所を工夫しないと。


 スキルを増やせば手札は増えるが切り札とはならないだろう。

 魔法使いが最強の代名詞だから、それより強力なスキルは思いつかない。


「何か必殺技とか無い」


 ライタに相談する。


『そうだな、銃火器は強いな。後で再現するか』

「その他には」

『ロマン武器だと、杭打ち銃とか加速砲だけど』

「知識を調べて考えておくよ」




 チーズの焼けた香ばしい匂いがして、俺を呼ぶマリリの声が聞こえる。

 お腹を空かして家に入った。


 今日のメニューは辺境茄子と岩石かぼちゃと茸のチーズがけとパンと茸のスープだ。

 マリリは村長宅でオーブンを借りてチーズがけを作ったと言う。

 マリリの手料理のチーズがけを食べる。

 かぼちゃの甘みとチーズの塩気がちょうど良くて茄子と茸が良いアクセントになっていた。


「マリリさん、今日は商売はどうでしたか?」


 俺は食事しながら話しかける。


「問題ないわ。でも、魔獣の動きがおかしいみたい。道中が不安だわ」

「何があっても俺がマリリさんを守ります」


『ヒュー、ヒュー、若いっていいね』

「うるさい」


 思わず声が少し漏れた。


『お邪魔虫は退散、退散』


 ライタの言葉を聞いて並列システムのスキルを停止させる。

 ライタの声がみんなには聞こえないのが幸いだ。


「嬉しいけど、無理しないでね」


 マリリは優しいな。


「お姉ちゃん、お兄ちゃんまた来てね」


 リエリが期待するように言った。


「ええ、また寄らせて貰うわ」

「ああ、また来るよ」


 湿っぽくなったのを感じたのか、マリリが旅で聞いた面白い話をする。


「メェメのチーズ美味しいわね。そういえば、ある男がメェメの乳を盗もうとして忍びこんだら、メェメに服をみんな食べられたそうよ。藁を服の代わりにしたら別のメェメに食べられ。窓の外に生えてた木の葉っぱも服にしようとしたら食べられ。厩舎から出るに出られなくなって、朝になりみんなに笑われたそうよ」


 なごやかな雰囲気で夕食は終わった。


 いよいよ、明日は街だ。

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