第4話 ライタ復活

 行商が来たと知った村人が大勢、馬車に詰め掛ける。


 マリリは忙しそうだったけど、俺は暇だったのでライタについて考えをめぐらす。

 ライタがもしかして契約魔法みたいな存在だったら、どうだろう。

 禁忌を犯して砕け散った。

 でも、俺の中に残っているとしたら。

 再生出来る可能性があるな。


 俺の知る限り再生が出来るのは契約魔法の許可だ。

 マリリにやってもらうのは説得が難しい。

 俺がやるしかないな。

 どうやって契約魔法を覚えよう。


 型を作り複製しろと知識が囁く。

 型を作るには調べなきゃという事で、体内の魔力でゴーレムを作り調べるというイメージを持たせる。

 試しに体の隅々を調べたい。

 胸の魔力を調べたら塊になっているだけだった。

 しかし、頭の魔力は複雑な動きをしている。

 そこに俺以外の魔力が、これがライタなのか。

 ステータスを念の為確認すると魔力走査というスキルが増えていた。


 このスキルは多分、料理を試す時に目で見て舌で味合うと例えた時に魔力視は目で魔力走査は舌だな。

 村人の買い物が一段落ついたようなので、マリリに話し掛ける。


「もう一度、契約魔法のお手本を見せてもらって良いですか」

「いいわよ。契約魔法、三分間右手が使えない」

「魔力走査」


 ライタと融合した事で記憶能力は格段に上がっていた。

 俺の脳内に契約魔法のイメージが出来上がる。




 マリリの契約魔法が切れるのを待って、イメージをゴーレムに持たせ体内で作成。

 なんとなく、出来たっぽい。

 右手を動かそうとして三分間、動かないのを確認。


 ステータスを見たら、契約魔法を覚えていた。


「マリリさん、有難う。契約魔法、覚えられたよ」

「凄いじゃない。でも、この事はなるべく人に言わない方が良いわよ。二人だけの秘密にしましょ」


 はにかんだマリリさんがやけに可愛い。


 さあ、いよいよライタ復活だ。

 ライタの為なら禁忌もどんと来い。

 着ぐるみゴーレムを装着して魔力を全回復、準備は整った。




「契約魔法、ライタ復活を許可する」


 意識を分割してライタを作ると念じたら、俺の中に無数の俺を感じる。

 意識し始めると自分が誰だか分からなくなる。

 誰か助けて。


 その時、我思うゆえに我ありという思いが自然と浮かんだ。

 そうだ、俺は思考出来る独立した存在、そう思うと頭の混乱が収まった。

 ライタの破片を集めて復活するイメージを強く持つ。

 複数の俺がライタになっていくのが分かる。

 はっと意識が戻り、ぼーっと立っていた。

 危なかった、あのまま意識が飲まれていたらどうなった事か。

 近くでマリリが商売をしている声を聞きほっとする。




「ライタ出てこいよ」


 うん、何も起きないぞ。

 ライタの声も聞こえないし、知識は今まで通り探れる。

 やっぱり、駄目だったか。


 そうだ、ステータスを見なきゃ。


――――――――――――――――

名前:フィル

魔力:42/54


スキル:

 ゴーレム使役

 筋力強化

 魔力視

 魔力放出

 火魔法

 水魔法

 風魔法

 土魔法

 魔力走査

 契約魔法

 並列システム

――――――――――――――――


 おや、並列システムのスキルが増えてる。

 聞いた事の無い言葉だ。

 ライタの知識を読むとシステムを複数並べて運用するとあった。

 なんなのこれ、発動してみるか。


「並列システム」




『呼ばれて返りてライタちゃん』


 一日しか経ってないが、懐かしく感じるライタの声。

 まだ安心するには早い、色々確かめなきゃ。


「どうなったのか分かる?」


 少し涙が出たが平静を装いながら、声を出す。


『いやー、残機スキルがプレイヤーが死んだら、ストックが新しいプレイヤーになるとはね』

「それで」

『どうやら、俺はスキルになった。復活したけど元通りとはいかないみたいだ。でも、フィルと一緒にスキルを発動したり、考えたりは出来る』

「という事はゴーレムを別々に動かしたり出来るって事?」

『そうだな。もっと言えば魔力の許す限り複数起動する事も出来そうだ。一時的に俺の分身を増やせるって事だ』


 ひゃっほう、ライタ復活だ。


 マリリの所に来ている村人の話が自然と耳に。

 ラッシュボアが大量発生していると話している。

 ライタを使ってラッシュボアを退治したいな。




 おーおー、いるいる、野菜を食い散らかしてる。

 ラッシュボアは俺の顔ぐらいの高さで、長さは3メートラの猪魔獣だ。

 ちなみに単体でEランクで、前に撃退したフォレストウルフは群れでEランク。

 魔獣やギルドのランクはFから始まりAが最高で、例外としてSランクがある。

 魔獣のSランクはドラゴンしかいない。

 ギルドのSランクは名誉職だ。




 クレイゴーレムを五体作った。

 俺は着ぐるみゴーレムを操り魔力を回復、五つに分裂したライタがクレイゴーレム五体を操る。


 ラッシュボアは突進をクレイゴーレムの一団に止められタコ殴りにあう。


 遠くで農夫が見物していて喝采。

 この魔獣を追い払うのはさぞ骨を折ったのだろう。




 今のところ楽勝だな。

 しかし、これが硬かったり、素早いかったりしたら、どうなったか想像してみる。

 苦戦したかも。

 浮かれていた気持ちが少し冷えた。


 鉄錆臭い血の臭いに我慢してクレイゴーレムを使い解体。


 いつの間にか近くにいた農夫に話し掛け、自分用の肉以外を農夫に譲る。

 農夫は申し訳なさそうに、肉のお礼として野菜を背負子ごと渡して来る。

 丁度、皮を運ぶ物が欲しかったところだ。

 お礼を言って、背負子に皮を積む。




 皮と魔石が手に入った。

 皮はなめしをやっている人に売りたいな。

 魔石はマリリに売ろう。

 魔力を充填した魔石は主に魔道具の燃料に使われ、その他の使い方として何度も使えるマナポーション的な使い方もされた。

 需要はどこでもある。


 短時間で結構、儲かったんじゃないかな。

 冒険者って結構あってるかも。


 皮の一部を切り取って残りを売った。

 切り取った皮で子犬のゴーレムを作る。

 マリリのお土産にしよう。

 犬ゴーレムを操る為に並列システムを起動する。


『こんな素晴らしいゴーレムを貰えるマリリは』


 何か冷やかされた気がする。そんなのじゃないけどな。


 マリリの態度は弟に接するそれだと分かっている。

 好きなのかどうだろう。

 うーん、奴隷だったから、考えた事なかったな。

 何、これから時間はあるゆっくり考えるさ。


『きっと特別な存在なのだと感じました』

「大きなお世話だよ」


 とことこ歩く犬ゴーレムを引き連れてマリリの元に凱旋する。

 マリリは犬ゴーレムを見ると抱きしめ、次の瞬間、眉間に皺を寄せて犬ゴーレムを放す。


「臭い」


 臭いって、あんまりだよマリリ。

 せっかく頑張って作ったのに。

 次は薬品をつけて乾燥させた皮を使うよ。

 犬ゴーレムは空いている場所に埋葬してあげた。


『俺が倒れても第二第三の犬ゴーレムが現れるだろう』


 まあ犬ゴーレム、また作るけどね。




 今晩泊めてくれる事になった村長の家で、貰った野菜とラッシュボアの肉で炒めものを作り、夕飯の準備をする。

 ジュウジュウいう音が食欲をそそる。


 村長一家は村長のルパートと妻のカジェラ、孫のパリオとリエリ兄妹の四人家族だ。

 ルパートは四十代の働き盛りの農夫に見え、妻のカジェラはおっとりしたどこにでもいるおばさんに見える。

 パリオとリエリは五歳ぐらいでやんちゃな感じだな。


 俺達は大量に作ったラッシュボアの肉野菜炒めを提供。

 村長からは焼きたてのパンと魚で出汁を取ったスープを振舞ってくれた。


「「「「「「この糧が血肉となりスキルになりますように」」」」」」


 決まり文句を唱えて食事を始める。


 ラッシュボアの肉は以外に脂が乗っていて、甘みがあり野菜の旨味と合わさってとても良い味だった。

 魚の出汁のスープも生臭くなく、何種類かのハーブの味もありとっても美味い。

 パンもふわふわでバターの匂いがして香ばしかった。


「君はラッシュボアを退治したそうだけど強いのかい」


 ルパートが俺に話しかけて来る。


「まだ、まだだな」

「その割には痛がっている風でもないよね」

「まあ、運の良い事にラッシュボアの攻撃は一回も受けなかったよ」

「なるほど、それはそこそこの腕って事だよね。良かったら明日もラッシュボアを退治してくれないか」

「良いよ、やろう」


「良かった。困ってるのだよ」

「そうね、孫を外で遊ばせる事も出来ないなんて辛いわ。頑張ってね」


 カジェラが言う。


「お兄ちゃんは何屋さんなの?」


 リエリが尋ねる。


「ゴーレム使いさ」

「かっくいい、どんなゴーレムなの」


 パリオが目をキラキラさせて話す。


「ゴーレム軍団だ」

「すごい、ゴーレム軍団。無敵だ」


 パリオは少し興奮気味に言った。


「まあ、弱点はあるよ。でも将来的には無敵になる、絶対だ」


 無敵という言葉に何故か惹かれる。

 無敵って確かに格好いいかも。


 一つ目の目標はSランク。

 二つ目は無敵の二つ名だな。

 ライタが魔法を使わせろとうるさい。

 明日は魔法を使わせる約束をして、なだめて黙らせた。

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