第3話 奴隷からの開放
爽やかな風が吹き、小鳥がさえずる。
気持ちの良い朝だ。
魔力視を発動し、着ぐるみゴーレムを装着する。
着ぐるみゴーレムがいるのが当たり前になってきた感じだ。
道を外れ森へ分け入る。
馬車から離れた事で命令違反の不快感が強い。
ここらで良いだろう。
俺はお花を摘んだ。
俺のお腹の所の魔力が動いているのに気づく。
その魔力の色は黄色だ。
これ、何だと思うと問いかけてライタはもういないとうな垂れた。
この件解決してみせる、ヤマダの名にかけてと言いそうになった。
ライタの知識は変なところで俺に影響を及ぼしそうだ。
お腹の魔力の事が気持ち悪いまま馬車の所に戻ると、何故か涙目のマリリが居る。
「どうしたの?」
「居ないから、心配したのよ。心細かったんだから」
「悪い悪い、まあその何だすっきりしてきた。マリリはもう済ませたか」
「もう、デリカシーがないんだから」
真っ赤な顔になってマリリがそっぽを向く。
マリリを魔力視で見るとお腹の所に魔力は無い。
ライタが居れば相談できたのに、ライタが急にするどい事をいう時はこれまで何度もあった。
的外れな意見も多いけど、概ね参考になった。
でも、ライタはもう死んだんだ。
野営の後始末をしながら、考える。
あれがもしかして契約魔法じゃないだろうか。
魔力のナイフで切れとの思いが浮かぶ。
切り取って影響は出ないのか、なんか不安だ。
けど、このまま奴隷でいると新しい主人にスキルをチェックされたら、ろくな事にならないのは分かる。
俺は奴隷からの開放を決意して、とりあえずナイフを作るのをやってみる事にする。
ぐぬぬぬ、なんで固まらない。
ナイフの形にはならないな。
駄目だ、出来そうにないや。
こうなりゃ自棄だ。
力技で行こう、ゴーレムで契約魔法を潰す。
空気中の魔力を集め、圧縮した手の平大のゴーレムを作り、契約魔法に向かって突撃させる。
契約魔法のある部分にそれが当たった時に契約魔法が無くなった。
上手くいった、今のが契約魔法の心臓にあたる部分だろう。
馬車からかなり離れてみる。
おお、命令を破った不快感がない。
首を切らないように気をつけ、ナイフで首輪を切った。
やった、奴隷から遂に開放された。
マリリの所に行くと、首輪があった所を見てマリリは事態を悟ったようだ。
「マリリさん、俺は奴隷ではなくなりました」
「そう、じゃあ伯父さんが死ぬ間際に開放した事にすればいいわ」
「そうさせて、もらいます」
「危ない事してないわよね? 解除はどうやったの?」
「契約魔法をゴーレムで潰しました。詳しい方法は聞かないで下さい」
マリリは信用しているけど、話がどこから漏れて厄介事に繋がるか分からない。
最初の主人の時に奴隷は沢山いて、その中の親切な奴隷から、余計な事は言うなと言われた。
その訳は奴隷が待遇を良くしてもらう為に奴隷仲間の情報を売る事は頻繁あると。
ニエルに売られてからすぐに俺は用心深さを身につけた。
「じゃあ逆も出来るのかしら?」
「やってみない事には……」
「お手本を見せるわ。契約魔法、三分間右手が使えない」
魔力視で契約魔法が腹に作られるのが見える。
その魔力の色は橙色だ。
再現するにはどうすれば。
駄目だな何も思いつかない。
「マリリさん、有難う。でも駄目だった」
「そんなに上手くはいかないと思ったわ」
マリリは少しがっかりしたようだ。
朝食を作ると言って馬車に入り、食料が入った箱からパンと果物を取った。
昨日の残りのスープを鍋に入れ、手早く朝食の準備をする。
薪に火を点けるとパチパチいう音が聞こえ、しばらくしていい匂いが漂う。
「「この糧が血肉となりスキルになりますように」」
マリリとお決まりの言葉を唱えて、食事を始める。
食事の話題はスキルの注意事項になる。
「いい、攻撃魔法以外で相手に効果を及ぼすスキルは受ける側が承諾していないと掛からないわ」
「気を失っていてもだめなんだ」
「そうよ、だから回復魔法は相手の意識がはっきりしてないと効果がないの」
「だから、ポーションの需要があるのか」
今までもマリリは沢山知識を授けてくれた。
奴隷から開放された今、戸惑わないのはマリリのおかげだ。
そうでなければ一般常識、文字、計算、金の使い方など色々と困っていただろう。
「怪しい人に鑑定スキルや契約魔法を掛けられた時は受け入れる気持ちを持たない事ね」
「へぇー、覚えておくよ」
野営を畳み、昨日到着する予定だった村を目指して街道を淡々と進む。
ふと思った。
さっきの契約魔法を覚える件、ライタの気持ちになって考えるか。
ライタって何考えていたんだと思った時にある事実が浮かんだ。
ライタは俺の体を乗っ取るつもりだった。
ずっと隙を窺ってたらしい。
分かっていたから、悲しくない。
付き合い長いからな。
それに俺はこう考える。
許すとか許さないとか、そうじゃなくて。
なんと言ったらいいのかな。
子供の頃、奴隷売られた時に裏切りだと当時は思った。
でも、産んでもらって感謝の気持ちも成長したら芽生え。
今では罪と善行は引き算じゃないと思ってる。
つまり裏切りは裏切りで、これまで一緒に過ごしていたあれこれは別物って事だ。
そうか、じゃあ裏切りの罪を背負って生きていくよ、生きてはいないけどさと聞こえた気がした。
俺の中にライタの知識があるのなら、生きてきた記憶や考え方も存在するはず。
それを固めればライタが復活しないだろうか。
そういえば、昔話やペテン師以外に幽霊の話を聞いた事がない。
ライタは本当に幽霊だったのだろうか。
疑わしいな。
教会も幽霊の存在を認めていないと聞く。
ライタの記憶を探る。
ライタが死んだのは馬が無くても走る自動車という物にはねられたと記憶ではなっていた。
怪我したまま、訳の分からない空間に飛び込み幽霊状態になった。
そこに謎がありそうだ。
俺は無言で馬車を走らせる。
「ねぇねぇ、フィル、奴隷から開放されたけど、今一番何がしたい?」
荷台から聞こえたマリリの優しいげな声が沈黙をかき消す。
「ええっと、腹いっぱい美味いものが食いたい」
「じゃあ街についたら、美味しい店で旅の打ち上げしましょ」
「俺が奢るよ。初めて手に入れたお金はマリリに使いたい」
「今回の旅の給料は我慢してね。最近店の売り上げが良くないのよ」
「そうなんだ。色々大変だね。俺はフォレストウルフの素材があるから良いよ」
フォレストウルフの素材はマリリにお金に変えてもらう事にしてあった。
「従兄弟達を黙らせる為にも仕方ないのよ」
意地悪だったものな、マリリの従兄弟。
難癖を色々と言いそうだ。
「俺、いろいろ考えたけど冒険者やりたい」
「後悔だけはしないように、好きにやりなさい」
「頑張ってSランクになって、貴族になって、領地もらうんだ」
「きっとなれるわ。そしたら、私は大商人の大金持ちね」
マリリとしばらく雑談をしているとフェリライト村が見えた。
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