第2話 フォレストウルフ撃退

 うひっ、貪り食っていやがる。

 何を食っているかは考えたくない。


 何かライタが死んでから、妙に頭が良くなったような気がする。

 ゴーレムの有効な利用法を考えなきゃ。

 物理攻撃は無理だな。

 魔法は俺にも使えない。

 ゴーレムがスキルを使えたなんて話は聞いた事がないから、筋力強化のスキルも役に立たないな。


 物が持てないゴーレムに出来る事といったら魔力を受け取る事ぐらいしかない。

 待てよ、ライタは物事は逆に考えると良いと言った。

 ゴーレムから魔力を受け取るのはどうか。


 ゴーレムから魔力を引き出してから、ステータスを確認する。

 魔力が37だったのが38になっていた。

 良い案だと思ったが、回復が遅いのがなんともな。


 魔力視で見えるのだが、ゴーレムと俺は魔力の紐で繋がっている。

 この紐を太くすれば回復量が上がるのかな。

 紐よ太くなれと念じるが、一向に太くならない。


 一層の事、ゴーレムの中に俺が包まれるというのはどうだろうか。

 やってみると、顔の部分が魔力視の邪魔だ。

 ゴーレムを変形させて口を大きく開けた形にする。

 着ぐるみゴーレム装着の言葉が浮かぶ。


 魔力の紐が無くなって体全体で繋がり、回復力が何千倍にもなったのが魔力の流れで分かった。

 筋力強化を最大魔力で発動だ。


 力が溢れる感じがする。

 これをやると何時もなら一秒で魔力が無くなっていたが、魔力を回復しながらやるとスキルが何時までも解除されない。


 よし、フォレストウルフを撃退しよう。

 ニエル愛用の棍棒を持って荷台から飛び降り、手近なフォレストウルフに殴り掛かる。

 棍棒が小枝より軽いぞ。

 フォレストウルフの頭は割れ、まずは一頭。


 足どりも軽く、次のフォレストウルフに素早く近寄ると背骨を棍棒で叩き折った。

 背骨は砕け、棍棒も砕け散った。

 こうなりゃ素手でやってやるぞ。

 一際大きい固体をやろうとした時、それは一声上げると逃げ出す。


「今の何? 打撃音がしたと思ったら、フォレストウルフが居なくなってびっくり。ねぇねぇ、もしかして魔法に目覚めちゃったとか」

 興奮した様子のマリリ。

 ふう、なんとかなった。

 思い起こしてみると、いっぺんに襲い掛かられたら危なかったかも。

 もう、肉弾戦はこりごりだ。

 安堵で腰から砕けそうになる。


「それより、ニエルを葬らないと」


 俺はマリリに向かって言った。


 地面の土で特大クレイゴーレムを作り、穴を掘らせ遺体を丁寧に弔う。

 ライタの代わりに俺は自分の髪一房を一緒に入れる。


 俺は右手と左手の指を交互に絡める基本の祈りの形を組む。

 マリリを見ると左こぶしを右手で包み込む親族が亡くなった時に使われる祈りをしていた。


「「魔力の根源に魂が召されますように」」


 墓石の代わりの石の前でマリリと二人して鎮魂の言葉を唱える。




「伯父さん残念だったな」

「いいのよ、それほど悲しくはないわ。私、嫌われてたもの」


 マリリは悲しみとも苦笑いとも取れる複雑な表情をした。


「それより、魔法に目覚めたのでしょ。お姉さんに白状しなさい」

「禁忌を踏んだせいで特別なスキルに目覚めたんだ。危うく死ぬところだった」

「やっぱり禁忌にはそれなりの理由があるのね」


 持っているスキルの詳細は親しい人にも話さないのが通例だ。

 マリリもそれ以上追求はしてこなかった。


 仕留めたフォレストウルフを解体。

 馬ゴーレムをクレイゴーレムで起こして馬車に繋ぎ出発する。




 日暮れ前に野営ができる場所になんとか到着。


 マリリの髪のリボンがいつの間にか青から、未婚を示す白に変わっていた。

 非常に気になったけど、聞く勇気が持てない。


 石で簡単な竈を作り、鍋に魔道具で水を張る。

 火をこれまた魔道具で熾し、スープを作る。

 干し肉と芋の簡単なスープだけど良い匂いだ。

 果物とスープとパンの普通の人には簡素な食事だが、俺にとってはご馳走だ。

 雑穀の粥は一生食いたくない。


 腹一杯になり、速攻で寝たい気持ちを抑え、マリリに先に寝るよう言う。




 そうだ、訓練しよう。

 魔力視を発動し、着ぐるみゴーレムを装着する。

 準備は出来た。


 よし、延々とゴーレム作ろう。

 普通は出来ない行為だ。


 何故なら、通常は二体目のゴーレムを作って操るには魔力が二倍必要になる。

 つまり二体同時に作って操るには三倍の魔力が必要。


 三体目は四倍。つまり、三体同時では七倍。

 計算では十体同時はなんと魔力千二十三倍。


 魔力が10でクレイゴーレム一体は作れる。

 回復しながら時間をずらして作ると三体目の四倍まで作れる計算だ。

 魔力の供給がほぼ無限だけど、受け皿が54ではな。

 無限運用は普通では無理みたいだ。

 しかし、スキルをゆっくり発動すれば魔力回復しながら作れるのではないだろうか。




 大体の人が早くスキルを発動する方法を模索する。

 スキルを唱えて魔力を込めイメージを作るというのがスキル発動の手順だ。

 延々と魔力を込め続けるというのはどうだ。


 やってみた結果は簡単に出来た。

 クレイゴーレムを五体も作れれば当座は問題ないだろう。


 訓練に取り掛かる、ゴーレム同士で組み手をしようとしたが頭が追いつかない。

 一体動かすと他の四体は置物になってしまう。

 同じ動作なら出来るのだけど。

 別の手段が必要になりそうだ

 今の所思いつかないから、後で考えよう。


 そして、これからは物理も効かない相手も出てくるだろう。

 この余暇で是非、魔法を覚えたい。


 ライタに昔、聞いた知識によれば魔法の常道は魔力の感知、移動、現象に変換だそうだ。

 これが合っているか分からないけど今はやってみる。


 魔力が動くように力む。

 ぐぬぬ、いくらやっても魔力が動かないぞ。


 イメージだよワト○ン君という思いがよぎる。

 ワト○ンって誰という疑問が湧いて知識を探ると、ホ○ムズの相棒という答えが浮かぶ。

 あれ、こんな事、知らない。

 これはもしかしてライタの知識じゃ。


 そうか、ホ○ムズ助かったよと念じた。

 ライタは俺の返しに満足したかな。


 知識を探るとライタが今まで話してくれた物語が本当の事だと分かる。

 色々な映像が脳裏に描かれた。

 異世界というのが本当にあるんだな。

 今は魔法を覚えるのに集中だ集中。


 魔力を無理やりイメージして動かす。

 何故だろう駄目だ動かない。

 体内の魔力を元にゴーレムを作り体の外に出してみた。

 これで何か変わるのか、疑わしいぞ。


 うっすらと光る拳大のゴーレムが目の前にいる。

 空気中の魔力に比べて俺の魔力は少ないからな。


 とりあえずゴーレムを火に変換するように考える。

 ゴーレムが火に変わった。


 あれ簡単に変わったぞ。

 空気中の魔力でゴーレムを作り火に変えようとしたが変わらない。

 そういえば前にマリリが教えてくれた。

 体内の魔力は何にでも変わる賢者の石だと考えられてると。


 ステータスを出してみる。


――――――――――――――――

名前:フィル

魔力:21/54


スキル:

 ゴーレム使役

 筋力強化

 魔力視

 魔力放出

 火魔法

――――――――――――――――

 スキルが増えてる。

 魔力視が増えたのは禁忌を犯したからだ。

 スキルは大体、十歳までには決まり、その後の獲得はみっちり修行して、二十年ぐらい掛かると言われている。

 俺は三年で筋力強化を獲得したが、これは成長期が遅かったと考えていた。

 魔力放出と火魔法はさっきやった事が原因だろう。

 一度でもスキルを作動させると覚えた事になるんだな。


 よし、この機会に水魔法、風魔法、土魔法を覚えよう。




 どれぐらい経っただろうか、虫除けのツンとくる匂いが鼻にきた。

 そろそろ交代の時間かな。

 時計代わりの虫除け線香があと少しで燃え尽きる。


 マリリと見張りを交代して馬車の床に寝ころぶ。

 今日は激戦だったな。


 馬車の荷台の入り口から見える星がやけに綺麗に見えた。

 明日は何か良い事がありそう。

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