無限魔力のゴーレム使い~無力な奴隷から最強への一歩は逆転の発想から~

喰寝丸太

第1章 禁忌活用編

第1話 残機スキルで新スキル獲得

 街道に突如、躍り出た生き物、それは狼型で体長が2メートラほどもあった。

 恐ろしい面構えで、剥き出した牙が顔を更に凶暴に見せていた。

 やばい、あれは魔獣だ。


 一頭だけならまだなんとかなったかも知れない。

 しかし、無情な事に一頭が俺達を見つけ吠えると、追加で六頭もの魔獣が後からやってきて馬車を囲んで一緒に走り出す。


 逃げるという選択肢は悪手だろう。

 馬ゴーレムに繋いだ幌馬車では到底逃げ切れない。

 魔獣には盗賊のように金を払って見逃してもらうという手も使えない。

 覚悟を決めて戦うしかない。


「魔獣が出ました」


 俺は昼間失敗して鞭打たれた背中がヒリヒリと痛むのを堪え、御者台から馬車の荷台に声を掛ける。


「フィル、お前が絶対なんとかしろ」


 荷台からニエルの声が返ってきた。

 ニエルの野郎、無茶言いやがって。

 護衛を雇えとマリリが言っていたのに無視するからだ。

 それの尻拭いを俺にさせるなんて酷い奴だけど、奴隷だから言い返せない。

 奴隷の証明である首に嵌った首輪を恨めしく思う。




 俺は馬車を止め御者台から飛び降りた。

 急いで馬ゴーレムを馬車から外し狼の魔獣に突撃するも、油断していた一頭に蹄を喰らわせる事ができただけだ。

 他の一頭に首を噛み付かれ簡単に倒された。


「フォレストウルフだと! 俺はこんな所で終わられないんだーー!」


 後ろを見るとニエルが荷台から飛び降り、太った体で良くあんなに速く走れたなという速度で逃げる。

 狼は逃げる相手は追いかける習性があると聞いた事が、やっぱり捕まったか。


 俺はニエルに魔獣の注意が惹きつけられたのを見て荷台に駆け込んだ。

 荷台にはニエルの姪のマリリが震えて座り込んでいるのが目に入る。




 どうにかしなければ、打開策は難しい。

 馬ゴーレムを起こしてマリリと逃げるのは駄目だな。

 馬ゴーレムは石で出来ているから、ダメージはあまりないけど、スピードが足らない。

 それと、俺が馬車から離れないように命令されているのも最悪だ。

 奴隷は契約魔法で縛られていて命令には絶対服従しないと不快感が襲ってくる。


 違反している時間が長くなるほど不快感は増す。

 聞いた話では逃げた奴隷は不快感で一歩も動けなくなり食事も食べられなくなるという。


 好転させる一手を打つとしても俺の手札はゴーレムの他は筋力強化のスキルしかない。

 その時。


『俺に任せろ』


 今の声はライタ、俺に取り憑いている自称異世界人の霊だ。

 ライタの声は俺以外には聞こえない。


『体の主導権を俺に渡せばなんとかしてやる』




 俺は藁にも縋る思いで、体をリラックスさせ、受け渡すと強くイメージする。

 急に体の自由が利かなくなり、勝手に動き出す。


「ふははは、復活。これでハーレムも贅沢もし放題だ。現代知識無双だぜ」


 自分口から勝手に言葉が漏れるのは変な気分だ。

 ライタのテンションが高いけど、大丈夫なのかこれ。


「体を乗っ取ってやるのは……まずは能力確認っと。ステータス・オープン」


――――――――――――――――

名前:山田 雷太

魔力:0/0


スキル:

 残機

――――――――――――――――


 魔力が無い、俺の魔力は54だったはず。

 ライタが霊魂だからだろうか。

 それに残機というスキルが増えている。

 ライタが持っていたスキルなんだろう。


「残機良いねぇ。無敵って事だろ」


 ライタは木箱を漁り始めた。


「金目の物はないかな?」


 そっちじゃない。

 魔獣をなんとかしろと俺は心の中で叫ぶ。


 体が使えないのがこんなにもどかしいとは思わなかった。


「けっ食料しかないのか。ニエルの奴、くたばっちまって俺の奴隷契約の解除はどうするんだ。使えない奴」


 マリリもいるんだぞ。発言には気を配れ。




「俺に契約魔法を掛けてくれないか」


 いつの間にか俺を見つめているマリリにライタが話しかける。


「まあ、いいわ。ここで何もしなくても食われるだけだから」

「魔力を見えるように許可を出してくれ」

「それは禁忌よ」


 マリリに聞いた話では契約魔法を制限する以外に使うのは禁忌だ。

 ライタめ、よりによって禁忌を持ち出すとは。


「私を信じて、トラスト・ミー」


 マリリは首を横に振る。

 大統領も騙された最強の説得の言葉だと思ったんだがとライタが呟いた。


 マリリは散々ためらった後。


「やるわよ。契約魔法、魔力を見るのを許可する」

「あがっががが!」


 世界の広大さが感じられた後にライタの奇声を最後に意識が途絶えた。




「フィル、この人が今日から主人だ。よく言う事を聞くんだぞ」

「お父さんどういう事?」


 これは夢だ。

 忘れもしない十歳の時の記憶。


「従えば今より美味い物が食える。お前のスキル数が少ないのが悪いんだ」

「時間は有限だ。始めますよ。契約魔法、奴隷は人間に危害を加えてはならない、自己を守らなければならない、主人の命令に服従――さあ、受け入れて」


 そうだ、俺は奴隷商の言葉を受け入れた。




 場面は変わり。

 ああ、これは奴隷に成り立ての頃の記憶か。


「フィル、お前、俺の悪口を言ったな」


 ニエルが棍棒の鞭の柄に唾を吹きかけると強く握り締め。

 俺を殴った。

 そうだ、俺は自分を空中から見てその後。


『よう、俺の声が聞こえるか?』

「誰?」

『ちっ、気がついたか。ああ、俺はライタ。幽霊さ』




 次々に場面は変わる。


「フィル、十五歳の成人おめでとう」


 これは最近の記憶だな。


「ありがとう。俺を祝ってくれるのはマリリぐらいだ」

「今日は割り算を教えるわ」


 この次の日からマリリの髪の編みこみのリボンの色が青になったのだったな。

 悲しかったのを良く覚えていた。

 青は婚約の色だ。




 どこからか、甦れ、アイアンゴーレム使い。

 さあ、存分にゴーレムするがいいと声が聞こえる。

 俺はアイアンゴーレムは使った事がない、ストーンゴーレムが精々だ。




 意識が覚醒し、俺は辺りを見回す。

 良かったマリリは無事だ。


「ライタ、何があったか分かる?」


 ライタの声が聞こえない。

 その代わりにステータスをみるんだなと思いが浮かんでくる。

 そうか、ライタ死んだのか。

 今まで色々ありがとうと感謝の念があふれて、涙が止まらない。


「ぐす。ス、ス、ステータス・オープン」

――――――――――――――――

名前:フィル

魔力:37/54


スキル:

 ゴーレム使役

 筋力強化

 魔力視

――――――――――――――――


 スキルが増えているが、今は緊急事態だ。

 考えるのは後でも出来る。

 役立ってくれと願い、魔力視のスキルを発動する。


 空気中に白い光のもやが感じられるというか見えた。

 邪魔だと思うと空気中のもやが見えなくなる。

 マリリに注意を向けると頭と胸の所に橙色の光が、光はきっと魔力だな。

 全身にも薄っすらと橙色の光がある。

 俺の魔力をみると青い色だ。

 人によって魔力の色は違うのだな。


 これなんの役に立つんだろう。

 光るもやあるだろ、あれでゴーレム作れと聞こえた気がした。

 そうだな、魔力が見えるのなら、それをゴーレムの材料にしなくてどうするよ。


 空気中の魔力を再び見えるようにしてスキルを唱えると、一帯の魔力は集まり青くて強い光のゴーレムが完成した。


 フワフワと浮かんでいるゴーレムを魔力視できる範囲で縦横無尽に飛ばす。

 もの凄く速い。

 最速と言われているトレント材を使ったウッドゴーレムより速そうだ。


 おっと、今、馬車をすり抜けたぞ。

 体が物をすり抜けるという事は殴ってもダメージを与えられないという事だ。

 魔力は体の中にあるから、肉体をすり抜けるのは当たり前なんだけど。


 このゴーレムはマリリには見えないらしい。

 目の前を横切っても無反応だ。

 そこは利点だな。


 それよりこんなにゆっくりでフォレストウルフは平気か。

 恐る恐る頭を馬車の外に出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る