【シンデレラ】灰汁抜き
ところが後日、本当に舞踏会の招待状が届いた。
ねーさんたちも、ねーさんのおかーさんも大騒ぎ。私はねーさんたちの着付けをへとへとになるまで付き合わされた。
上のねーさんは一度選んだ服やアクセサリーや髪型を、あとからやっぱり変えろというので、何度もやり直さなければならなかった。金の鎖のネックレスをつけたとき、そのまま後ろに思い切りひっぱろうかと思ったけど、それを最後にようやく満足したようだったので、私は悪事を働かずに済んだ。
下のねーさんはおかーさんの形見の指輪をつけるといってきかないので、手を滑らせてタンスの裏に転がしてやった。すごくにらまれたけど、もう時間がないのであきらめてくれた。
「それじゃ、あたしたちは優雅に踊ってくるから。掃除と留守番よろしくね」
「そうそう、さっき豆の入った袋を灰の中にぶちまけちゃったの。悪いけどもとに戻しておいてよ」
「わかりました。道中、お気をつけて」
「あら、やけに素直じゃない。何か企んでいるんじゃないでしょうね?」
上のねーさんがじっと私を見つめる。
「別に、何も」
「あたしらがいないうちに何かやったら、100倍にして返すから!」
下のねーさんが下唇を突き出す。あー、美人が台無しだ。
そのときおかーさんが「早くしないと遅れるわよ!」と言ったので、ねーさんたちはそれ以上からむのはやめて出かけていった。
これでようやく1人になった。私は荷造りを始める。
「あら、舞踏会に行くにしてはずいぶんな大荷物ね」
いつのまにか昔のおかーさんがいて、後ろからのぞきこんでいる。
「舞踏会には行かないわ。今のうちに家を出るの」
「どこか行く当てがあるの?」
「ないけど、どうせ働くのだったらお給料がもらえるところを探すわ」
「なるほどね。だったら、いい就職先を紹介してあげる」
「えっ、どこ?」
「王子様のお嫁さん。ちょうど今日が面接日よ」
「あのさぁ」
私はイライラしておかーさんの幻影を見た。
「星の数ほどいるお妃候補の中から選ばれる確率なんて、ほんのちょっぴりだよ。それに私はかわいいドレスも持っていないし、ダンスが上手いわけでも、気の利いたおしゃべりができるわけでもない。ね、行くだけ無駄よ」
「まあまあ、そう言わず。私が言うのもなんだけど、あなたは私に似て顔はいいんだから。貧乏な家柄の私がおとーさんと結婚できたのは、この顔のおかげなのよ」
自慢げなおかーさん。
「そのおとーさんはちっとも私をかばってくれないけどね」
バッグを担いで行こうとする私の腕をおかーさんがつかむ。
「待ちなさいったら。おとーさんはあなたをかばったら余計に意地悪されるんじゃないかって恐れているのよ。おかーさんだってあなたを1人残して死ぬつもりはなかったわ。あなたがつらいとき、守ってあげられなくてごめんね。でも今晩だけは特別に、あなたを助けてあげられるの」
「……なんで?」
おかーさんはにこっと笑った。
「よく働いたから、特別ボーナスだって」
あの世でも働かなくちゃならないんだ……。
「わかってくれた? はい、じゃあ荷物はおいて、そこに立って。今から素敵な魔法をかけます」
「急に言われても心の準備が……」
「おかーさん今日の0時までしかいられないのよ。そーれ、ネコ灰だらけ!」
やっつけ仕事みたいな呪文に文句を言う暇もなく、私はすっかり変貌した。
グレーの汚いワンピースが、純白のシルクドレスに。細かい金の刺繍がきらきら輝いている。髪の毛はあっという間に盛られ、きらびやかな銀のティアラがのっかる。眼力がアップする品のいいメイク。そして足には、うっとりするほど美しいガラスの靴が。
「うわ、なにこれ。何が起きたの?」
「さあ、行くわよ、舞踏会!」
妙に張り切って言うおかーさんは、私の手を引いておもてへ出た。
そこには、六頭立ての立派な馬車があった。
「どうしたのこれ?」
「作戦その1。豪華な馬車で遅れて登場して目立つ! さあ乗った乗った」
おかーさんは私を馬車へ押しんで、自分も腰かけた。
「そうじゃなくて、いつの間に……ていうかおかーさんも来るの!?」
「もちろん、娘の晴れ舞台だもの! そんないやそーな顔しないでよ。大丈夫、おかーさんの姿はほかの人には見えないから。うーん、それにしてもかわいいわねー。お嫁に出すのが惜しいわ」
なんだかノリノリのおかーさん。戸惑いはあったけれど、もう流れに乗っかることにした。きれいな服を着て気分がよかったし、何より久しぶりにおかーさんとわいわいおしゃべりするのが楽しかったから。特別ボーナスだかなんだか知らないけど、存分に活用させてもらうわ。
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