【シンデレラ】人生灰色
私はシンデレラ。どこにでもいるふつうの女の子。でも、2人目のおかーさんが来てから、ちょっとしんどい生活になった。おかーさんは2人のねーさんを連れてうちに来たの。2人ともとても美人さんよ。だからおかーさんがかわいがるのも当然だと思う。
新しい家族。はじめはすごく違和感があったけれど、おとーさんと2人きりのときよりにぎやかになったのはたしかね。おとーさんはすごく無口だから。再婚を決めたのも、半分は私のためだと思う。
だけど、おとーさんが想定したようなあたたかい家庭には、残念ながらならなかった。
おかーさんは掃除、洗濯、炊事、すべてを私にやるように言った。私はまるで女中だった。どうも私が1人目のおかーさんにそっくりなのが気に食わないみたい。
ねーさんたちも私をいじめた。ありとあらゆる嫌がらせをされた。掃除中にわざとバケツの水をひっくり返したり、私のお気に入りだった服を暖炉の灰で汚したり。それを拾って灰まみれになった私を「灰かぶり」と言ってあざけった。あんまり腹が立ったので、翌朝2人のスープに虫の脚を入れてやった。ぜんぜん気づいてなかったけどね。少しだけ胸がすっとしたわ。
おとーさんはうちがあたたかい家庭とはほど遠いことにうすうす気づいているみたいだったけど、見てみぬふりをした。家のことはおかーさんに任せて、口出ししないことにしてた。まあ、もともと無口だったしね。
私は灰にまみれて家事をこなした。おかーさんの暴言に耐えて、ねーさんたちのいたずらと嘲笑に耐えて、ときどき食事に異物を混入させて発散していた。でもある日、とうとうストレスが限界値を越えて、幻覚が見えるようになってしまった。
裏庭で黒い猫をなでているときのことだった。ふと人の気配を感じて顔を上げる。
「おかーさん?……」
「ひさーしぶり」
とっくに死んだはずの、1人目のおかーさんが立っていた。どことなく白っぽくて、ぼんやりしている。
「……生きていたの?」
「ううん、死んでる」
「じゃ、じゃあユーレイ?……」
「まあそんなところ。ねえ、その猫の毛どうするの?」
私の手は10本の猫の毛を握りしめている。
「スープに入れるの」
「ネコ鍋? うわ、まずそう」
「上のねーさんが猫アレルギーで、下のねーさんは虫が大嫌いなの。今日はネコの日よ」
黒猫がむくっと立ちあがって私から離れていく。
「あらあら、図太い性格ね。でもそんなケチな仕返しはやめて、もっとあっと驚くようなことをして見返してやりましょうよ」
私はいろいろ想像してみた。
「だめよおかーさん。そんなことしたら私、捕まっちゃうわ」
「いったい何を想像したわけ?」
おかーさんはにやにやしてから、「ちがうわよ」と言った。
「もっといい方法があるわ。もうすぐお城で舞踏会が開かれるの。王子様がお妃様を選ぶためにね。あなた、それに参加しなさい」
「えー、無理よそんなの。ねーさんたちが邪魔してくるに決まってるわ。それに、よそゆきの服がないもの」
「それはおかーさんがなんとかしてあげるから。いいわね?」
おかーさんはビシッと指を突きつけると、私が返事をする前に消えてしまった。
なんだろう今の。夢でも見たのかしら?
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