【ふくろう】得体の知れない化け物
昔、森に暮していたシュフーという名のワシミミズクが、町なかの納屋に迷い込んでしまった。
シュフーは町の様子が森とはすっかり違っていることに戸惑いおびえた。ほかの鳥たちもシュフーのようなふくろうを見慣れていなかったので、その姿を見るやけたたましくわめき声をあげ、警戒した。そのためシュフーはすっかり怖がって、納屋のすみっこに隠れたまま出られなくなってしまった。
翌日、納屋にわらを取りに来た下男がシュフーを見つけて仰天。「シュフーッ」という奇妙な鳴き声に恐れおののき、転げるように飛び出してきて、「見たことがねえ化けもんがいます!」と主人に知らせた。町の人もまた、シュフーのようなふくろうを見慣れていないのだった。主人は怖気づいた下男を情けなく思い、自分で追い払おうと納屋へ入っていったが、シュフーの大きくてまん丸の光る目玉を見るや腰を抜かし、這って納屋から出てきた。
「あれは本物の化け物だ。放っておいたら何をするかわからない!」
それからあっという間にこの化け物のうわさは広まり、町じゅう大騒ぎになった。毎日のように我こそはという者が名乗り出て、シュフー退治に挑んだ。面白半分で参戦する者、怖いもの見たさで近づく者、腕っぷしに自信がある屈強な男、名を揚げたい呪術者など、様々な者がいたが、どれだけ意気込みが強くてもいざシュフーを目の前にすると、大きくて黄色い目や、羽を逆立てて膨れ上がった体や、ばさばさ羽を広げてしわがれ声で威嚇するさまに腰を抜かして一目散に納屋から逃げ出してくるのだった。
主人はその様子を見て、これはひと儲けできるかもしれないと考えた。納屋の前に列をなす人々から見物料をとり、シュフーに関する商品を売り始めた。シュフーカステラ、木彫りシュフー、シュフーTシャツなどがその一例である。やがてシュフーは町おこしのかなめとなり、ちょっと不気味だがどことなく哀愁の漂う怪物として、人々に受け入れられていった。
一方、シュフーもだんだん人間に馴れ、恐怖心が薄らいでいった。人間たちはシュフーの好物がネズミやウサギだと知ると面白がって与えたので、食うにも困らなかった。威嚇することが減り、よく見たらかわいいじゃないかと人々は気づき始めた。
やがて不思議な生き物シュフーのうわさは遠方の町まで広がり、わざわざ観光に訪れる者が現れた。それこそ、主人の狙いだった。主人は今や、町長兼大企業の社長だった。
しかしある日、遠い町からやってきた観光客のひとりがシュフーを見て、「なんだ、ただのふくろうじゃないか」と言った。たちまちシュフーの正体は知れわたり、それとともに見物客はただのひとりも来なくなった。
名声を失った主人は怒りにまかせて納屋に火をつけ、シュフーのグッズともども焼き払ってしまった。
シュフーは炎に囲まれておびえ鳴き声を上げたが、だれも助けに来てはくれなかった。
以来この町では、夜な夜な「シュフー」という悲しげな鳴き声を聞いたという人が後を絶たない。そちらの正体はいまだはっきりしないままである。
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グリム童話「ふくろう」がモチーフです。原話ではふくろうの正体を知らない町の人たちが、悪魔退治だといって納屋を焼き払ったところでおしまい。これは化けて出ても仕方ないのではと思ってしまいます。でもきっと無害なんだろうなあ。
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