【うさぎとはりねずみ】 奇跡の瞬間移動

 足の曲がったハリネズミは、カブ畑でおいしそうなカブを見極めていた。


「お、これは葉っぱも大きいし、栄養たっぷりにちがいない!」


 狙いをつけたカブを引っ張って抜こうとしたが、根が太すぎるのかびくともしない。


 そこへ、俊足が自慢のウサギが通りかかった。


「ウサギさん、いいとこに来た。ちょっとこのカブを引っこ抜くの手伝ってくれないか? おれの足ではしっかり踏ん張れないもんでよ」


 ウサギは「お安い御用」と言ってカブを引っ張るハリネズミを引っ張ろうとしたが、触ったとたんにトゲが刺さって飛び上がった。


「イッテーなコノヤロウ、何すんだ!」

「すまん。まさか葉っぱでなくておれを引っ張るとは思わなかった。あんた、足は速いけどバカだな」

「なんだとコノヤロウ!」

「ほらな、さっきと同じことしか言わねえ」


 ウサギはこめかみに血管を浮き立たせ、立派な足でハリネズミを蹴っ飛ばした。


 しかし、ハリネズミはそんなこと予測済みだったので、ギュッと丸くなって全身の針を立てていた。だもんで、ウサギの足にはまたトゲが刺さった。


「テ、テメェ、コノヤロ、何すんだっ……」


 ウサギは痛さにぴょんぴょん飛び跳ねながら、ハリネズミに指を突き付けた。


「こ、こうなりゃ決闘だ! それしかねえ!」

「その短絡的な性格、直したほうがいいぞ。だけども、口で言ってもわからなそうだな。よし、その決闘、受けて立つ。あんたの大得意のかけっこでどうだ?」


 ハリネズミが一歩近寄ると、ウサギはびくっとして一歩さがった。


「テ、テメエ、コノヤロ、バカなのか? そんな足でオレに勝てるとでも言うのか?」

「あんまし見くびると、痛い目にあうぞ」


 ウサギはまた一歩後ずさった。


 さて、半時間後、ふたりは再び畑に集合した。


「ウォーミングアップは十分だ。さっそくヤロウじゃねーか!」

「こっちも準備オーケーさ」


 そして、合図と同時に駆け出した。


 ウサギは弾丸のようにあっという間に長い畑の向こう側に到達した。


「へへっ、やっぱり口ほどにもねえな」


 と鼻の下をさすっていると、カブの葉っぱの陰からハリネズミが顔を出した。


「あら、遅かったわね」

「な、なにっ!? お前のほうが速かったっていうのか!? バカな、もう一度だ!」


 そして合図と同時にさっきのスタート地点に彗星のごとく駆け戻った。


 しかし、そこにはすでにハリネズミがいた。


「なんだ、遅かったじゃないか」

「ど、どうなってるんだ!? くそ、もう一度勝負しろ!」


 ウサギはその後も勝負を挑みつづけたが、結果は何度やっても同じだった。そうしてとうとう、74回目のダッシュで血を吐いて倒れた。


「おーい、もういいぞ」


 すると、向こう側のカブの葉の茂みから、もう一匹のハリネズミがやってきた。


「あなた、このウサギさん、とうとう気づかなかったわね」

「バカは死ぬまでなおらないってのは、本当のようだな」


 ふたりはカブ畑の大きなカブを引っこ抜いて、家へ帰った。




 後日談。


「おい、オレともう一度勝負しろ! 今度は入念に準備運動してきたからな。絶対に負けないはずだ!」

「……もうあんたの勝ちでいいよ」

「いくぞコノヤロウ!!」

「めんどくさっ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る