【ハンスのトリーネ】 怠け者の真骨頂

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 マイナーなお話なので簡単にあらすじを。(読みとばしてもOK)

 ハンスのトリーネは怠け者で、食って寝るだけで仕事をしない。そこでハンスはトリーネが眠っているあいだに、彼女のスカートをひざ丈まで切る。目を覚ましたトリーネはスカートが短くなっていることに驚き、果たして自分は本当にトリーネなのかどうかわからなくなる(どういうこっちゃ)。確かめるために家の人たちに「トリーネは中にいるかしら?」とたずねると、家の人たちはもちろんそうだと思って部屋で寝ていると答える。トリーネはやっぱり自分はトリーネではないのだと納得して村から出ていく。こうしてハンスはトリーネとさよならできた、という奇妙なお話。

 ニートを実家から追い出すお話なのでしょうか……私も実家暮らしだから他人事ではないですね。グリム初版にのみ収録されています。

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 ハンスの娘トリーネほどの怠け者はほかにいない。


「あー面倒くさい。何もかも面倒くさい。仕事も、恋も、食べるのも、寝るのも面倒くさい。生きるのが面倒だけど死ぬのも面倒だわ。だったらまだ、食べてたほうがマシね」


 トリーネは台所においてあった食べかけのパンに手を伸ばした。今朝、途中で食べるのが面倒になってトリーネが残したものだ。同様に飲みかけのミルクも口にしたが、途中でひらめいてパンをミルクの中にひたした。これで、飲むという手間がひとつ省ける。

 トリーネは「簡単」とか「近道」という言葉が好きだった。この時代にはなかったけれど、もし「全自動」とか「省エネ」という言葉を知る機会があれば気に入ったに違いない。

「食べたら眠くなってきたわ。眠気に抗うのも面倒だし、寝ようっと」


 トリーネはそう言うと、ベッドに行こうともせずその場で横になった。



 仕事から帰ってきたハンスは、台所でパンくずを口のまわりにつけたまま布団もかぶらずに寝息を立てているトリーネを見て、頭をかきむしった。言いつけておいた掃除も洗濯も繕い物も、何ひとつ片付いていない。

 頭に来たハンスは、裁縫箱のハサミを取り出し、トリーネのはいている長いスカートをちょきんとひざ丈まで切った。そして、これ見よがしに裁縫道具をそこにおいて、また仕事に出かけた。

「ふん、悔しかったら自分で直せ!」



 トリーネは目を覚ますと、スカートの丈が短くなっていることに気づいてびっくりした。

「あっ、なるほど。これだと洗濯が楽になるわね!」


 それからトリーネは、何かに目覚めたように洗濯物の服の丈をチョキンと短く切った。


「そうだ、カーテンも切っちゃえば毎日開け閉めしなくて済むわ。あと、庭の木の枝を切り落とせば落ち葉を掃かなくていいし、恋人との縁を切ればデートもしなくて済む。なんて素敵なのかしら!」


 それからトリーネは家じゅうのあらゆるものを切って伐って斬りまくり、しまいには自分の髪の毛もばっさり短く切ってしまった。



 家に戻ったハンスはこの状況を見て青ざめた。

「なんだこれは、強盗でも入ったのか!?」

 そしてせっせと動き回るトリーネを見て、ますます青ざめた。

「だれだお前は!? うちのトリーネをどこにやった!?」

「トリーネは私じゃないの?」

「そんなわけあるか。トリーネは怠け者だし、そんな散切り頭はしていない!」

 トリーネはしばらく考えたのち、ぽんと手をたたいた。

「そっか、トリーネをやめればもっと楽になるんだ」


 トリーネはひとり納得して、意気揚々と村を出ていった。


 トリーネが面倒くさがって幕を切ったので、このお話もおしまい。

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