【ヘンゼルとグレーテル】 残念なごちそう
子どもの肉が大好物の悪い魔女は、まずヘンゼルを太らせ、食べることにした。グレーテルには家事をやらせてこき使った。
「グレーテル、料理は出来上がったかい?」
「ええ、おばあさん。でもちょっと塩を入れすぎたかもしれないわ」
「細かいところはどうでもいいんだよ。早くお前の兄さんにエサをやってきな。それと、お前が食べてもいいのはエビの殻だけだからね」
「はあい」
「返事は短くはっきりと!」
「はいはいはい!」
「1回でいいんだよ!」
グレーテルは家畜小屋に閉じこめられているヘンゼルのもとへ食事を届けに行った。
「お兄ちゃん、エサの時間よ」
「せめてお前だけは食事の時間と言ってくれよ」
「ごめんなさい。夕飯はオマールエビの蒸し焼きよ」
「うわ、すっごく美味そう! いただきまーす!」
じっとりとした妹の視線に、ヘンゼルは食べるのをためらう。
「しょうがないだろ。ぼくはあのおばあさんのごちそうとして丸々肥え太らされているんだ。それとも、ぼくより先に食べられたいかい?」
「そんなわけないけど……」
グレーテルはため息をつく。
「こんなごちそう、家では絶対に食べられなかったから。あたしは殻しかもらえないの」
「……今ならおばあさんは見ていない。少しは食べなよ、ほら」
グレーテルは目を輝かせ、兄と同時にオマールエビのぷりぷりの身にかぶりついた。そして……
「しょっぱい!!」と同時に叫んだ。
「いったい、どれだけの塩を入れたらこんなことに……」
「おばあさんも同じものを食べてるのよ。だから毎日塩分をたっぷりとれば、高血圧で倒れるんじゃないかなって思って……」
「ぼくも巻き添えじゃないか! ……はあ、なるほど。どうりで今までの料理も塩加減がきついと思ったよ」
「騒がしいね! まだ食べ終わらないのかい!」
しびれを切らした悪い魔女が、家畜小屋へ様子を見に来た。
「もう食べ終わりました」
ヘンゼルは皿からエビのハサミを取り出し、残った中身をこっそり外に捨てた。
「そうかい……どれ、ちょっと指を出してみな。そろそろ太ってきたころだろう」
ヘンゼルはエビのハサミを差し出した。魔女は目が悪く、こんなことをしても気づかないのだ。
「イテッ、なんだいこのザラザラの細っこい手は! あたしゃもう待てないよ。もう細くてもなんでもいい。明日お前を食ってやる!」
魔女はぷりぷり怒って立ち去った。
「高血圧で気が短くなったみたい」
グレーテルは悲しそうに無残なロブスターと兄を見つめた。
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