その913 赤面ミック

 俺は三人を中庭へ呼び、土塊操作で造った椅子に座らせた。


「マックスは何しにここへ?」


 そう聞くと、人間風のクマは困惑を顔に浮かべた。

 だが、すぐにいつもの調子に戻って言った。


「な、何って、ミックで遊びに来たに決まってるだろ! はははは!」

「まぁそうだよな。でもすまんな、今は遊ばれてやる訳にはいかんのだ」

「はっ、わかってらぁ。様子見て無理だとわかったから遠巻きに見てたんだよっ」


 そう、わざとらしく返す。

 あえて本当の事を話す事で、ネムとニコルの事すらも気遣った。何とも気の良いヤツだ。


「それで、ネムとニコルさんは?」

「「ほ、報告です!」」


 珍しく、ネムとニコルの声が重なる。

 ……なるほど、予め見つかった際の口裏合わせをしていたな?


「それじゃその報告とやらを聞きましょうか」


 言うと、二人は顔を見合わせ、すっと立ち上がった。

 まずネムが、


「えと、新人冒険者の避難は完了しました。サッチさん引率でミナジリ共和国の【魔導艇】二号機へと乗船。総指揮にはシュバイツシュッツさんが着任しているとの事です」

避難艇、、、だね、魔王復活前に超高高度ちょうこうこうどで航行。可能な限りこの大陸から離れてもらうように指示してるよ」


 外部からの影響を調整するのが難しかったけど、以前古の賢者メルキオールがやってた魔力圧縮を参考にして、内部の人間にも影響がないように改造する事ができた。


「衣料、食料の配送もドマーク商会、バルト商会、サマリア公爵、ギュスターブ辺境伯などの協力もあり、順次運ばれているそうです」

「へぇ、ネムがよくそんな事まで知ってるねぇ」

「そ、それは――」


 と、言いかけるも、ネムは口籠ってしまった。

 そう、ネムは冒険者ギルドの職員。冒険者の乗り込み云々は知ってたとしても、後者の報告は一体誰に聞いたのか。

 すると、ニコルが俺に言ったのだ。


「ギルドマスターから聞きました」

「ギルドマスターって……ディックさん?」

「えぇ、『昼休憩に行くならついでに報告も頼む』との事でした」

「だからと言って冒険者ギルドの報告とも言い切れないような」

「えぇ、商人ギルドから冒険者ギルドに伝達があり、そこから私たちに、という事です」

「あー、そういう?」


 なるほど、リルハが手を回したのか。

 商人ギルドが俺に報告、冒険者ギルドが俺に報告……なんてやってたら非常に面倒。それを一括にするために全ての情報を一括して俺に報告したのか。俺の友人を使って。

 なるほど、リルハらしい合理的な考えだ。


「わかりました、報告ありがとうございました。リルハ殿とディック殿にお礼をお伝えください」


 言うと、三人ともじーっと俺の手元を見ていた。

 俺の言葉すら耳に入ってないんじゃないかってくらいに。


「なぁミック、それ、何やってるんだ?」

「これ? 新元素を組み込んだ新しい武具だよ。今、最終調整で【闇空間】の中で色々いじってるんだ」

「しんげんそ?」

「鉄とか銅とか……まぁそういうの」

「あ、お前、説明放棄しやがったな?」

「まぁまぁいいじゃない。こうしてお披露目に居合わせたんだし」

「出来たのか?」

「うーん、どうかな」


【闇空間】からソレを取り出そうとした瞬間、三人は目を覆った。


「うぉ!?」

「わ!?」

「きゃっ!?」


 マックス、ネム、ニコルは余りの眩さに、思わず小さな悲鳴をあげた。


「やべ、まだだったか。ごめんごめん」

「い、いや別に大丈夫だが……驚いた。何だ、今の?」

「ま、まるで太陽かと思いましたっ!」

「ミケラルドさんが使い慣れてる手甲てこうのようでしたが……」


 三人がそう言うも、俺は【闇空間】の中の対応に追われていた。


「ん~こうか? こんな感じか?」

「なぁミック」

「何だよクマさん」

「そういうのってエメリーに造ってやった方がいいんじゃないか?」


 なるほど、当然の疑問だな。


「うーん、実は俺もそう思って。自分の分が成功したらエメリーの分を造ろうと思ってたんだよ」

「へぇ、ならいいか」

「でも無理になった」

「は? そりゃまたどうして?」

「この新元素【ミナジリウム】を組み込んだミナジリインゴットは、合金にする際、めちゃくちゃ圧縮するからさ、オリハルコンとミスリルを馬鹿食いするんだよね」

「馬鹿食いって……どれくらい?」

「さっきの手甲てこうで十トンずつってところかな」

「じゅっ!? じゅっとん!?」


 驚きを隠せないクマと美少女と美女。

 ……あの二人がクマにキスでもすれば、クマの呪いが解けてイケメンになるのでは?

 いや、ないか。


「おい……今、めちゃくちゃどうでもいい事考えただろ?」

「はて?」

「またそれかよ!」

「まぁそういう訳で、【魔導艇】の補修にも【魔導ギア】にもどっちの鉱石も使うから、俺の我儘のために全部使えないんだよ。だから、これが限界」

「でもお前、魔王に攻撃出来ないんだろ?」

「攻撃ができなくても守る事は出来るじゃん」

「ん~確かにそうかもだが……」


 マックスが言葉に詰まると、ネムもニコルもじっと俺を見た。


「何です? 心配してくれてるんです?」


 俺は、そう言ってニヤニヤする。

 この後に見られるネムの恥ずかしがる顔が楽しみで。

 だが、彼女たちはそんな表情は一切出さずに、


「「はい、心配です」」


 二人はそう言い、マックスはコクンと頷いた。


「あの……ちょっと……恥ずいんだけど?」














◆◆◆◆◆◆◆あとがき◆◆◆◆◆◆◆


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