◆その912 新たなパーティ
クリスとセリスが法王クルスの私室から出ると、室内の隠し扉が開いた。
俯くクルスに近付く一人の姿。
クルスの頬にそえられる優しき手。
「……アイビス……」
震える声で全てを伝える短い
覚悟を決めようとも、揺るがぬ心などない。
父として振る舞い、世界の果てまで逃げられたのであればどれ程良かったのか。その瞳から流れる雫から目を逸らす事など出来ない。
「……クルス……」
アイビスもまた労いの
後悔以上の願いの時間。
しかし、そんな時間でさえも世界は許してくれない。
クルスの部屋に置いてある【テレフォン】が反応を見せる。
それが、
アイビスから離れたクルスはまた、王の顔に戻っていた。
アイビスは一歩引き、クルスに【テレフォン】までの道を譲る。
クルスが【テレフォン】を起動すると、アーダインからの報告があがる。
『クルス。
アイビスがそれに反応する。
「
『ははは、アイビスからそんな若々しい言葉が聞けるとはな。【
「何だ?」
『パーティ名はどうすんだ?』
「ミックに頼んだ」
『ほう?』
「【王の翼】……だそうだ」
目を丸くするアイビス。
当然アーダインも同じ考えだったようで、
『……アイツがそんな恥ずかしい名前を付けたのか?』
「補足をくれてな」
『補足?』
「『このご時世、それくらいのハッタリがないと、誰も爺さんと婆さんのパーティを認識出来ない』だとさ」
言葉に詰まるアイビスとアーダイン。
だが、ミケラルドに掛けられた
「『恥ずかしい名前も要は使い用。あの時代に【聖なる翼】とか【キングクリムゾン】とか恥ずかしい名前が多かった理由が少しだけわかった』とも言ってたな」
呆れた様子で言うクルスに、二人は同調するしかなかった。
ミケラルドは発破どころか老齢のメンバーの尻まで叩いたのだ。反感はない。世界一の功績を持つ心許した友人が、反感覚悟で激励したのだ。あるはずなどなかった。
「諸君、四歳児の言葉ではあるが……これをどう思う?」
そんなクルスの質問に、二人はかつて燃えていた瞳を取り戻し、更にその火力を上げた。
『はっ、爺が何も出来ないと思ってるんじゃねぇか? あの野郎っ!』
アーダインも、
「私たちが魔王の時代を生き抜いた事を知らないだけでしょう」
アイビスも、
「では二つの時代を生きる我々が、証明するしかないだろう」
クルスが締める。
『爺と』
「婆の」
「『出陣だ!』」
かくして、世界最高齢パーティが発足する。
――世界は知る。
かつて世界に名を轟かせた世界最高峰のパーティ【聖なる翼】と【キングクリムゾン】が合併した、新たなパーティを。
未来を次代に預け、その背を世界に見せるように進む足に迷いはない。
――世界は知らない。
【王の翼】の尻を叩き、発破を掛けた一人の魔族がいた事を。
それを知るのは、彼らだけで十分なのだ。
◇◆◇ ミナジリ共和国 ◆◇◆
「へっくしょい!」
盛大にくしゃみをするミナジリ共和国元首ミケラルド・オード・ミナジリ。
南の空を見据え、小さく零す。
「どっかのリア充法王が噂してるな?」
そう言いながら、手元に集中する魔力は膨大に渦巻いていた。
「何とか復活までには間に合いそうだけど……俺一人分が限界だな」
白く燃え上がる白炎に、周囲の建物に被害が出始めている。
だが、それを咎める者はいない。
既にミケラルドはミナジリ共和国を出られぬ身。
魔王復活のその時まで、所在を明らかにしている事が最も重要なのだ。
その上で、ミナジリ共和国……いや、世界に貢献する背に、誰が文句を言えようか。
そんなミケラルドを遠くから見守る者が三人。
「ミック……」
一人目、ガタイの大きなリーガル大使館門番――マックス。
「ミケラルドさん……」
二人目、閑散となった冒険者ギルドのギルド員――ネム。
「……」
同ギルド員――ニコル。
マックスはネムとニコルに気付かず、ネムとニコルもまたマックスの存在に気付いていなかった。
そんな三人の目が、合う。
「「っ!?」」
目を丸くした三人は互いに息を呑み、近くの茂みに隠れるように集まった。
「一瞬、クマかと思いました」
「マックスさん、お仕事はよろしいのですか?」
ちょこんとしゃがんだネムとニコルは、同じくちょこんと座ったマックスに聞いた。
「アンドリュー様は既に【魔導艇】に乗船した。ネムとニコルこそいいのか? 冒険者ギルドは?」
そう聞くと、二人は顔を見合わせた。
そしてニコルが言うのだ。
「冒険者ギルドは新設された商人ギルドに簡易的な支部を置きました」
「そりゃ凄いな」
「多くのギルド員がここに集まっているので、私とネムはお昼休憩に外に出たのですが……」
言いながらミケラルドに視線をずらすニコル。
「心配ですよ。ご飯なんて喉に通らないくらい……」
ニコルの視線を追うようにネムもミケラルドの方を見る。
「だよなぁ……」
そしてマックスも。
すると――、
「へっくしょい!」
ミケラルドがまた大きなくしゃみをしたのだ。
そして、
「そこの三人っ!」
「「っ!?」」
「ちょっとこっちに来てくれない?」
旧知の仲である三人を、中庭へと呼んだのだった。
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