その899 凄い空間

 元首執務室には最強の女たち、、が集う事がある。

 リィたん然り、雷龍シュリ然り、ミナジリ軍部に所属する剣聖レミリアだって武力で考えれば世界有数の実力者である。

 当然、いつのまにかタイトスカートを数cm短くしていた俺の秘書――シギュンもそうである。眼福である。

 しかし、最強とは武力だけの事を言うのか。

 否、それだけで片付けられる程、世界は甘くない。

 最強の女と聞き、俺がまず挙げるとすれば……やっぱりナタリーだろう。

 彼女が指をパチンと鳴らせば、暗部が揃い、武力以上の采配をするだろう。彼女が俺の尻を叩けば、世界を滅ぼせるかもしれない。無論、ナタリーはそんな事はしない。

 だが、その手札カードを持っているという事は、相手もそれを念頭に動く他なくなる。これがナタリーの強みであり、それを巧みに操る圧倒的センスは世界的に見ても稀有な存在だろう。

 さて、元首執務室の話に戻ろう。

 リィたん、雷龍シュリ、シギュン、レミリアとミナジリの武力女傑が揃った空間はまさに天国……いや、人によっては地獄かもしれないが、俺にとっては天国である。

 お水の一杯でも飲めば、怖いお兄さんが法外な請求をしてきそうな空間でもあるが、ここにはナタリーもいる。

 やはり天国だ。


「え、木龍クリュー地龍テルースも来るって?」

「いや、もう来ている」


 リィたんがそう言うと、扉がガチャリと開く。

 そこから顔を出したのは、難しい表情をした木龍クリューと、いつも通り……とは言えない様子の地龍テルース

 ふむ、凄いな。天国が……天国になったぞ?


「……霊龍から連絡があった。かつてない危機だそうだな」


 やはりクールビューティーはいい。

 木龍クリューもミナジリに常駐すればいいのに。と思ってしまうのは俺がお馬鹿だからに違いない。ジュラ大森林は世界の緑。彼女にはあそこを守るという大きな役目があるのだから。


「私共に出来る事は少ないかもしれませんが、かつての恩を返す機会ですからね」


 法王国の大暴走スタンピードの時に世話になったというのに、地龍テルースは本当に義理堅い。

 ……炎龍ロイス以外の龍族がいるって普通に考えたらとんでもない事態だな。


「これで全員……かな?」


 俺が言うと、レミリアが首を横に振った。


「いえ、あと二人いらっしゃいます」


 何だって?

 俺が首を傾げると、ミナジリ共和国内に転移してきた二つの大きな魔力があった。


「え……あの二人、、、、、さっき別れたばっかりじゃないですか」


 そこまで言うと、ナタリーは誰が来たのか察したようだった。

 元首執務室はそこまで広くないのだが……。

 いや待てよ? この凄い空間に存在出来るのは魔王をもってしても成し得ないだろう。つまり、ことこの場限り、俺は魔王を超えていると言えるのではないだろうか。


「ミック、どうした……難しい顔をして」


 そんなリィたんの気遣いを一刀両断したのは――、


「「どうせくだらない事考えてるわよ」」


 ナタリーさんと、シギュンさん。

 相容れない存在みたいな二人だけど、こういう時の息はバッチリ合う。


「ははは……」


 俺が小さな苦笑を零すと同時、シュバイツシュッツに案内されて来た二人が扉を開けた――瞬間、二人はポカンと口を開け、この凄い空間を目の当たりにした。


「いらっしゃいませ、エメリー、、、、さん、アリス、、、さん」


 地龍テルース木龍クリューが道を開けるのだ、恐縮もしよう。

 雷龍シュリとリィたんが奥へと誘うのだ、足早にもなろう。

 レミリアとナタリーが隣にいるのだ、ホッとするのもわかる。

 シギュンと俺を正面にするのだ、微妙な表情を浮かべもしよう。


「揃ったようです、ミケラルド様」


 シギュンがそう言うと、俺は当初集めていたナタリー、リィたん、雷龍シュリ、レミリア、シギュンを見た。

 そう、話があったのは、この五人だけなのだ。

 が、何故か龍族二人と勇者と聖女が参加しただけなのだ。


「えーっと、話は聞いてると思いますけど、三日後の未明、魔王様生誕祭が全世界で開催されます」

随分ずいぶんへりくだるのね」


 ナタリーが呆れ気味に言う。


「一応、まだ見ぬ元上司だしね。それで、世界がね……多分、大変な事になっちゃうと思うんで……皆さんにお願いがあってここに呼びました」

「「…………」」

「仕掛けるのであれば、魔界で魔王復活のタイミングを狙うのが最善だと思うので……リィたん」

「うむ」

雷龍シュリ

「あぁ」

「二人には魔界に造った関所で、俺と一緒に待機してもらう事になると思う。既にジェイルさんは竜騎士団を率いて待機済みだけど……あの関所もあてにならない」


 言うと、アリスがピクリと反応する。


「それはどういう事ですか?」

「魔王が復活した際、魔界には転移の術があると考えるのが自然だからですよ」


 それを聞いたアリスは、はっと息を呑んだ。

 そう、魔王は転移魔法を使える。俺が魔王ならば、配下に転移魔法それを教え、世界を内部から破壊するだろう。

 むしろそれが最善である。

 魔王復活の際、魔界から溢れ出る魔族に関して、蓋役を担うのが竜騎士団。本陣を叩くのが、私と、リィたん、それに雷龍シュリ……そして――、


「私たちですね」


 エメリーの言葉にアリスが強い目で反応する。


「えぇ、流石にオリハルコンズ全員を魔王の下へ連れて行くには無理があります。彼らには彼らの役目を」


 すると、レミリアが一歩前へ出た。


「私は?」

「レミリアさんには、ここを守って頂きます」

「前線には立たせられない……と?」


 困惑を隠せないレミリアに、俺は淡々と言った。


「いえ、ここが前線基地ですよ」

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