その898 第四の質問
◇◆◇ アリスの場合 ◆◇◆
魔王が復活する。あとたった三日で。
あれから私たちはすぐに解散し、各々が所属する団体に迅速かつ穏便に情報を提供した。
聖騎士学校、冒険者ギルド、商人ギルド……レミリアさんは
各々思うところがあるのでしょうけど、やっぱり私が気になるのは……あの、吸血鬼。
ミケラルドさんのあんな姿は初めて見た。
ナタリーさんやリィたんさんも見た事がない様子だった。
本当に追い詰められた人がするような表情、様子だった。
ミケラルドさんでも、あんなに慌てるものなんだと少し驚いてしまった。
ミケラルドさんは今どうしてるんだろう?
ナタリーさんに叱られているんだろうか。
……ナタリーさん?
そういえばナタリーさん……あの……あの三つ目の質問の後。
◇◆◇ ◆◇◆
「あ、あの……!」
ナタリーさんは、霊龍さんへの質問の後、そう言いかけた。
その言葉に、私は勿論、エメリーさんも驚きを隠せなかった。
霊龍への質問は三つまで。
それ以上の質問は、霊龍さんの機嫌を損ねる可能性だってある。あのミケラルドさんだって……いいえ、あの人なら
あのナタリーさんが、判断を誤るとは思えない。
それでもナタリーさんは聞いた。
でも、霊龍さんはそれ以上ナタリーさんに口を開かせなかった。
「今、貴女が考えている通りです」
霊龍さんは、ナタリーさんの考えを読み、それを肯定した。
たったそれだけで、ナタリーさんは絶句に追い込まれた。
◇◆◇ ◆◇◆
あれは……あれは一体何だったのか。
おそらく、ナタリーさんは第四の質問を用意していた。
駄目で元々、そんな考えの下、ナタリーさんは意を決したのです。
あの第四の質問内容は、誰も知らない。
リィたんさんが聞いた時だって、ナタリーさんは返答を
「むぅ……」
「アリスさん、随分難しい顔をしてますね?」
「へ? わ、わっ!? エ、エメリーさんっ!?」
いつの間にか、エメリーさんは私の顔を覗き込んでいた。
「あぁ、ごめんごめん……寮の前で『うんうん』唸ってたから、ちょっと気になっちゃって」
「え、寮?」
見上げるとそこには、聖騎士学校の冒険者寮がありました。
「あれ……いつの間に……」
「何か、考え事ですか?」
「あ、えっと……さっきのナタリーさんの――」
と、言いかけたところで、エメリーさんはぐわっと私の両肩を掴んで肉薄した。
「そう! あの質問! 気になりますよねっ!」
どうやら、エメリーさんも気になっていたようだ。
「そ、そうなんですけど、考えてもわからなくて……」
「だったら……直接聞いちゃう――ってのはどうです?」
「え? で、でも今ミナジリ共和国は大変だろうし……」
「んー……確かに、ナタリーさんは忙しいかもしれませんね」
「でしょう?」
「なら、ミケラルドさんに聞いてみるとか?」
「今、世界で一番忙しい人なんじゃ?」
「実はですね、さっきまで私ホーリーキャッスルにいたんですけど、どうやらミケラルドさん、世界テレフォン会議に参加しなかったみたいで――」
――エメリーさんが言い終わる前に、私はエメリーさんの両肩を掴んで肉薄した。いえ、気付いたらしていたというのが正解かもしれない。
「ミケラルドさんに何がっ?」
「あ、えっと……会議に参加したロレッソさんとナタリーさんの話によると……愛用のクッションに向かってずっと愚痴を
心配した私が愚かでした。
でも、これはある意味では心配した方がいいのかもしれません。
「それにしてもミケラルドさんには驚きましたよね」
「……ミケラルドさんに?」
「今日、ダンジョンに入る前、ミケラルドさんが皆を鼓舞してたじゃないですか」
「あー…………アレね」
――霊龍の全てを暴き!
――霊龍の全てを否定し!
――この世の理不尽を司る霊龍に言ってやるのだ! 『どうだ、これで満足か!?』と! オリハルコンズのリーダーとして私は……俺は言ってやる! 絶対言ってやる! 『クソッタレ!!』と!
思い出すだけで恐れ多い。
「まさか本当に霊龍さんに言っちゃうとは思わないじゃないですか」
「…………今、何て?」
「あれ? 聞いてませんでした? あー、あの時は皆魔王復活の情報で頭が混乱してたから、アリスさんは聞き逃しちゃったのかも」
「ミ、ミケラルドさんは何て!?」
すると、エメリーさんは目をそらし、少し恥ずかしそうに言った。
「え、えーっと……霊龍さんに……ク……『クソッタレ』って言っちゃったって……」
おぉ神よ……。
「って、あの人、霊龍さんに本当に言ったんですかっ!?」
「ミケラルドさんが言うには……」
何がどうまかり間違ったら、霊龍さんにそこまで不敬になれるのか……何回生まれ変わったとしても、私には理解出来ないのかもしれません。
仮にもオリハルコンズのリーダーだというのに、あの人には責任というものが…………ないとも言い切れないのがあの人の面倒なところです。
「はぁ……」
「どうしました?」
私の溜め息にエメリーさんは小首を傾げる。
「……ナタリーさんの件もありますし、クッションに埋まってるミケラルドさんに喝でも入れにいきましょうか」
「ですね!」
これはミケラルドさんのためではありません。
そう、これは世界のため。
世界のためなのです……!
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